第4話 境界線の鏡





 正直に言えば、主人公たる真白が化け物に襲われる心配はあまりない。

 いや、近くで困っている人がいれば戸惑うことなく突っ込むヒーロー気質なせいで死ぬことはあるし、それが原因で闇堕ちしてある意味ゲームオーバーとなることは多いんだ。


 でも重要なのは私だ。雲井新月が怪奇現象に巻き込まれ体質になってしまったということ。

 のっぺらぼうが出るまでは信じたくなかった。この世界がゲームだということだって、夢だと思って現実逃避したかった。


 でももう無理だ。

 この世界に来てしまった以上、私達はこれから先ずーっと巻き込まれる。



(妖精が残していった遺物。彼女が作り上げた地層の世界……)



 何もしなくても勝手に死んでしまうのがヒロインの性質。

 それが私だから────自分だけで無理ならば誰かに助けを求めた方がいいと思った。先生から知恵を借りて、何かあれば真白を利用しようと思っただけ。


 真白の影に潜む怪異は化け物を凌駕する。

 ならば私は彼を盾に使おう。彼を利用しよう。

 だから一緒に逃げているのだ。ここに居ても彼だけならば自然と元の世界へ戻れるかもだけど、私だと絶対死んでしまうから。


 薄情だと思ってくれて構わない。

 でもこんなところで死にたくない。私はまだ生きていたい。


 だから────そのためになら、なんだってやると決めたんだ。



「……ね、ねえ。何処に向かってるの? それにここは一体何処?」



 歩いている最中にそう問いかけられて、つい足を止めた。

 耳をすませば怪異の音は聞こえない。つまりこの近くにはいないということ。


 このまま勝手に動き続けてもあれだしと、私は話す。

 もちろん止めてしまった足を動かしながらだけど……。



「ここは境界線の世界。表世界に最も近いレベルゼロの地層世界だよ」


「表世界から最も近い、レベルゼロ?」


「ええとね。つまり私たちがいた入学式があった世界が表だとして、ここは裏側……かつて、妖精が巣食っていた裏世界なんだ。その裏世界はバームクーヘンみたいな感じで、様々な層で出来てるんだ」


「バームクーヘンってことは、横方向に世界の層が出来てるってこと?」


「う、うーん……それはどうだろう。そこらへんは私にはわからないけど、つまり横か縦かは重要じゃなくて、裏世界は様々な世界の層で出来てる。まるでマンションやホテルの階層、部屋のようにね」


「その中でここは表世界から最も近いってこと?」


「そういうことだよ。だから鏡から表世界へ出やすいんだけど……っと、あった」



 ようやく見つけたのは三階の廊下。

 全身を見ることのできる大きな鏡が壁に埋め込まれているそれは、私達を映さずただの廊下だけを映していた。



「ここから外へ出れば大丈夫……問題はその後なんだけどね……」


「問題は?」


「まあそれは後で話すよ! 今は逃げよう」


「う、うん」




 真白の手を引っ張って、私は鏡を潜り抜けた────。





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