第27話 最奥
『氷湯の間』。
「<盲吹雪>ィイイイ!!!」
寒い。
壁も温泉も凍り付いている部屋。
暴れ狂う吹雪と、白虎の毛皮を纏った格闘少女2人の吼える声によって、俺は完全にミュトとイーリエの2人と遮断されていた。
種族:イエッティガー (湯治闘虎属・変異種)
分類:獣 女性 水魔法
所属:虎穴の湯
評定
力格:★★★
技格:★★★☆
魔格:★★★☆
心格:★★☆
技能
<格闘術>
・格闘熟練
・震氷脚 (前提:氷脚)
<氷魔法>
・コールドコール (前提:声術)
・盲吹雪
<声術>
・叫喚詠唱
<水泳術>
・寒中水泳
<探知術>
・反響定位
遺宝
・タイガークロー
・凍てつ牙
なるほどこれは<魔力同化>の訓練になるわけだ。視覚も聴覚も封じられた状態で、戦っている2人に合わせて<強化魔法>をかけなければいけないのだから。
「うらぁあああああ!!!」
ドズン!!
【イエッティガー】の咆哮とともに暴力的な音を立てている足技は、踏み込みの強化だけでなく、あわよくば足元の氷を割って相手を極寒の水の中に引きずり込もうと――
「――ゼズ、ちょっと良いか」
「あ。ああ、何かあったの」
ぶるぶると震える俺とカリダにトニコが話しかけてきた。視界ゼロの中、音と寒さで接近に気づくのに遅れてしまったが、驚かずになんとか返事を返す。
「<コールドコール>ゥウウウウ!!!」
「『永久機関凍土』から助っ人が到着し次第出発すると言ったが、あれは忘れてくれ。どうやら向かってくる途中でやられてしまったらしいのじゃ」
「実力者の魔物だって聞いてたけど?」
ドズン!! バギィン!!
吹雪の中からとんでもない戦闘音。【イエッティガー】の踏み込みの音か? 踏み込みと同時に凍った部屋の一部が確実に壊れている。
「そうじゃぞ。支配種の補佐をしとる魔物で、ウチのダンジョンで言うところのカンランじゃ」
『永久機関凍土』というダンジョンが東の国近くにあるらしい。
そこから西の国よりの『虎穴の湯』までの道中に、目的のダンジョンの『サンチグチュアリ』があるため、助っ人は敵地の偵察を行ってからパーティに合流し攻略をスムーズに進めるという予定だった。
「<コールドコール>るらぁあああ!!!」
「ひとりで偵察って聞いたから戦闘は避けるものかと思ったんだけど、魔物だとまた違う方法があるの?」
ドッガン!!
「そんなわけあるか! 隠れて潜んでダンジョン内の地図を作るのが目的だと聞いていたんじゃ。ひとりだから無理はさせんともな」
「予想を上回る戦力がいたってことか」
「対隠密に特化したスキル持ちということもあるじゃろうが、そう考えておいたほうが良さそうじゃな」
「じゃあ5人目を誰にするか――」
「ちょりゃあ!!」
ズガン!!
「――カリダ! 頼むぞ!」
え。
「え、え、え、オレェエエ?!」
ただでさえ毛皮に包まれていても震えていたカリダの手が驚きで緩み、ずずずっとずり落ちた俺は、なんとか再び脇の下を掴まれて止まる。
「まだまだァ! <盲吹雪>ぃいいいい!!!」
「そこは例に挙げたみたいにカンランに頼むとか」
地面から生えている俺を引っこ抜こうとするカリダ。みたいな図になったままトニコに返す。
「カンランがいなくなったら誰がダンジョンを回すんじゃ。ジズマンひとりに任せられんわ!」
カリダに「よいよな!」と、詰め寄るトニコ。
ドガン!! バキャァーz_!
「や、やる! 任せられたからには全身全霊気張らせてもらうっす!」
響く【イエッティガー】たちの声に負けないよう、やけくそ気味に宣言するカリダ。
本人にやる気があるならいいか。総合的な戦力の低下が気になるところだが。
「<コールドコール>ぉおおおおお!!!」
「よくぞ言った! よし、決めたぞ。ゼズたちの修行を優先にと甘っちょろいことを考えておったが、ウチの前に立ち塞がる者は本気で叩き潰してや――」
「りゃりゃりゃりゃぁああ!!」
「るらぁらぁらぁらぁああ!!」
「――うるせー!!!!!!」
ウチがいま話してるんじゃあああ! とトニコが<無双炎蹴>で吹雪の中に飛び込んでいく。
んな理不尽な。確かにうるさかったけどさ。
§
明日はいよいよ出発の日。
俺たち5人は『最後の休養室』を出て、『虎穴の湯』の最奥へとやってきていた。
「ダンジョンコアを渡す前に、ジズマンにはひとつ仕事を頼みたいのじゃ。ゼズたちの最後の修行の相手をな」
機械の駆動音。
目の前の巨大な建造物が紫電を発すると辺りが照らされて、薄暗い視界が開け、室内があらわになっていく。
黄銅色と銅色の世界だった。
大小さまざまな歯車、蒸気を噴出し複雑に曲がりくねった配管、バルブに計器にランプが至る所に取り付けられた内装は、未知の機械の工場としか表現できない。
「……ゥゥウウウオオググルル」
先ほどの駆動音じみた声を放つ建造物にしか見えなかったもの。それがゆっくりと身を起こす。
現われるのは、ただでさえ大きな【ダイナセキ】すら子供に見えるほどの巨大な姿。
磨き上げられた真鍮のように光沢を放ち、関節部が動くたびに蒸気と紫の雷光を散らしている。
種族:ダイナモリュウセンキ (大理石竜属・支配種)
分類:物品 竜 機械
所属:虎穴の湯
評定
力格:★★★★★
技格:★★★★☆
魔格:★★★★★
心格:★★☆
技能
<竜術>
《
・機竜の誇り (前提:竜の誇り)
・エレクトリックスチームブレス
<雷魔法>
・高位雷撃
・超過電圧
<牙術>
・金剛力牙 (前提:剛力牙)
・電動螺旋牙 (前提:機械・土石竜牙)
<爪術>
・爪熟練
・紫電撃爪 (前提:雷撃爪)
・回転鋸爪弾 (前提:機械・回転爪弾)
<機械術>
・水陸両用
・超蒸気機関 (前提:蒸気機関)
・コリジェネレーション
<耐性>
・雷耐効
・水耐性
・熱耐性
遺宝
・建造竜の構成部品
・超蒸気タービン
・ジュラショックコア
「ははは! そうじゃ。コアを渡してからでは、万一負けたときにダンジョンがなくなってしまうからな」
「ググルルァァァァァアアア!!!」
【ダイナモリュウセンキ】が吼える。
声と同時に口からは帯電する蒸気のブレスが放出され、俺たちの頭上を飛び越して、後方の壁にぶつかり爆発を起こす。
女性型の魔物ではないので言葉は自体はわからないが、トニコが挑発して怒らせているのは間違いない。
ジズマンからこちらに向き直り、トニコは俺たちに話しかける。
「明日からの攻略でウチはお前たちを顧みず本気を出す。しかしそれでは成長にならんからの。代わりに、このジズマン相手に存分に修行の成果を振るうがよい」
そうだ。そういう話で俺たちはここに連れてこられたのだ。
トニコを抜いた俺たち4人の力でどこまでやれるかわからない相手だが、少なくとも俺には初めて支配種を前にした時のような恐れはない。
右のミュトを見て、左のイーリエを見て、カリダが俺を抱える手に手を添える。
<魔力同化>を発動。今なら、あの時の一撃が打てるはずだ。
「いくぞ!」
「グゥゥウウウガアアア!!!」
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