第18話 謁見
扉の先に現れたのは、カリダとは別の【
――ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん
「話は聞いています。『最後の休養室』へようこそ、イーリエ、ゼズ、ミュト」
種族:
分類:獣 女性 火属性 水属性
所属:虎穴の湯
評定
力格:★★★
技格:★★★★
魔格:★★☆
心格:★★★☆
技能
<格闘術>
・格闘熟練:喧火水流 (前提:火属性・水属性)
・炎蹴 (前提:火属性)
・双水拳 (前提:水拳)
・水面蹴り (前提:水泳術)
<水泳術>
・水練熟練
・温泉療養
<薬術>
・調薬熟練
・泉質改変 (前提:温泉療養)
<耐性>
・毒耐性
遺宝
・タイガークロー
・秘拳虎の巻
強いな。カリダと比べてスキルの数が倍以上も違う。同じ【
「休養室ということは、ミュトを休ませても大丈夫だと?」
話は聞いていると言っていたが、スキルにはそれらしきものが見当たらない。ダンジョン自体に地上と連絡を取る手段があると考えるのが妥当だろう。
「カンランさん、わたくしからもお願いいたします」
「安心してください。もとよりそのつもりです。こちらへ」
大広間にも関わらず、やわらかい花の匂いが充満しているのが不思議だった。
――ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおん
そして、良い匂いと共に部屋全体に染みわたっている、この音。
「この、遠くに聞こえているような、やけに響く音は一体?」
イーリエに抱えられた俺の目線くらいに走る、細い配管に吊り下げられた仕切りのカーテン。その隙間を縫うような通路を行く、カンランというらしい【
「トニコ様のご趣味なのです。ごく小さな振動を配管に伝えて、このような深く響く音を作るのだとか。瞑想や精神統一に効くらしいんですが、どのように感じられますか」
天井を仰いだカンランにつられて見れば、確かに大きな配管が口を開けていた。
教会での祈りを鈴を鳴らしてから始めるみたいなものだろうか? 厳かな場面で流れていれば、霊験あらたかな気持ちになるかもしれない。
「言われてみれば、ありがたい音のような気もするような」
「あら、そうですか。トニコ様と気が合いそうですね。ちなみにこの花の匂いもトニコ様の指示で作られた香水を魔物が散布しているのですよ」
そんな説明をしながら、さあ、こちらへどうぞ。と、カーテンをまくり上げるカンラン。
俺たちはカーテンで作られた小部屋のひとつに案内される。大きな寝台が置かれており、イーリエがカンランに目をやって確認すると頷かれていた。
「まずはミュトさんを寝かせてあげましょう」
腕に抱いていたミュトを寝台に降ろし、薄い布団も付いていたため遠慮なく使わせてもらったようだ。
「2人は奥へ。トニコ様がお待ちです」
ミュトの代わりに俺がイーリエに抱かれて、奥へ進む。
ひとつだけ色の違う豪華なカーテンの先には、くすんだ金色の玉座に深く座る銀色の髪と毛並みの少女。いや、会った2人と比べてもかなり幼い【
種族:
分類:獣 女性 火属性 水属性
所属:虎穴の湯
評定
力格:★★★★★
技格:★★★★★☆
魔格:★★★☆
心格:★★★★
技能
<格闘術>
・《前人秘湯の頂》
・格闘極練:喧火水流 (前提:火属性・水属性)
・無双水拳 (前提:双水拳)
・無双炎蹴 (前提:双炎蹴)
・水鏡面蹴り (前提:水面蹴り)
・矢返し
<水泳術>
・常在浴場
・水練熟練
・温泉療養
・水引導術 (前提:瞑想術)
<瞑想術>
・瞑想熟練
・湯我の境地 (前提:心眼・温泉療養)
<看破術>
・心眼 (前提:直感・格闘術)
<耐性>
・水無効
・熱耐性
・打撃耐性
遺宝
・秘湯の素
・オンセンマントラ
・皆伝虎の巻
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
その【
小さな体躯を覆い隠すほどの厚手のバスローブじみた衣装。さらにその下は水着のようで、外見の年齢不相応に大きな胸部が全身と一緒にぶるぶる揺れている。
何を見せられているんだこれは。
「トニコ様! イーリエたちをお連れしました!」
カンランが叫ぶように呼びかけると、ピタリと揺れがとまる。どうやら椅子の内部が動いて、乗った子供の声と体を震わせていたようだ。
「すまんすまん、気持ちよくてつい」
そんなことを言いながら飛ぶように椅子から降り――
「ウチがこの『虎穴の湯』のボス、トニコ! くるしゅうないのじゃ!」
――大きく胸を張ってふんぞり返る、銀髪と銀虎模様の毛を持つ子供の虎人。くりくりとした目と大きな八重歯が愛くるしい。
格闘術を極めているはずだが、手足のリーチの短さは致命的なほど。胸の大きさのせいで足元を見ることすらおぼつかず、筋肉すら未発達だろうぷにぷにとした太ももから先とバスローブから覗く手は、しっとりと水を含んだ綺麗な銀と黒の毛皮。どこをとってもまるで戦いとは無縁そうな可愛らしい姿。
しかし、<魔物鑑定>に頼るまでもない。
気配、オーラ、存在感。簡単には言い表せない何かが違った。
生物としての格というものがあるのだとしたら、それは今俺が感じているものを手掛かりに解明されるべきだと思わされる。
「……っ!」
すぐには言葉が出ず、トニコとがっちり目と目が合ってしまう。
こちらを見透かすような大きな瞳。ここまでくると愛らしいを通り越して不気味とすら思える。
「くるしゅうないと言ったじゃろ、せっかく休養室にいるのじゃ、らく~にな」
そうだ。俺が飲まれてどうする。ミュトやイーリエに相応しい姿でなければいけない。気後れせず、毅然としなければならない。
小さく深呼吸をする。
「それは、どうも」
何とか言葉を吐き出せた。
「さて、話は聞いておる。イーリエを助けてくれたようで感謝するぞ」
「もともとミュトのスキルに導かれた先にいたのがイーリエだったんだ。助けようとしたのも、【
なんでもいいから口から言葉を吐き出さなければ。
「謙虚なんだか理屈っぽいのかよくわからんやつよのー」
「でも、こんな素晴らしい場所でミュトを休ませてもらえたことだけで、十分報いられたと思うよ」
それを聞き子供姿に似合わない、にたりとした笑みを浮かべるトニコ。
「ゼズにもこの『最後の休養室』の良さがわかるか。音楽に匂いに設備にウチがどれほどこだわったか! もとはダンジョンでの最終試練のご褒美のひとつとして考えていたんじゃが、身心の安寧を探求する行為はなかなかどうして面白い。この『全自動按摩椅子』も特注でな、ウチの体にぴったりの――」
「トニコ様。それくらいに」
「すまんすまん。カンランには良さがわからんつまらん話じゃったか。ウチは後でゆっくり理解者と語り明かすからいいもんねー。なあゼズ?」
願ってもいない誘いだ。支配種の魔物がどんな心持ちでダンジョンを運営しているのか、そこに住む魔物たちがどんな生活を行っているのか。社会性、関係性、考え方、これからの人と魔物の関わり方のため知らなければならないことが勉強できるチャンスである。
「ぜひ。俺からもお願いしたい」
トニコは笑ったまま、大きな目をすうと細める。
「ふむ。おべんちゃらではなさそうじゃ。では、それは楽しみにしておくとして」
長い銀の虎尻尾を振るように後ろに向き直るトニコ。小さな歩幅で『全自動按摩椅子』とやらに近づき、お尻からぴょんと飛び乗った。
「場もほぐれたじゃろ。イーリエ。言いたいことがあるのではないか?」
そしてパズルのピースのようにピタリと大きな椅子に収まって、俺の顔の上のイーリエに視線をやる。
「はい、ゼズ様にわたくしの事情を聞いていただきたいのです」
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