第14話 結婚
落ち着け、ゼズ。
<魔力同化>に内包された<魔物同調>のスキルで、ミュトの怪我の具合はわかる。人間なら致命傷に見える傷だが、減り続ける体力にさえ目をつぶれば、魔物のミュトなら、あのダメージでも戦闘続行は可能なんだ。
「ギギギャーァアアッ!!」
リーダー【ストロール】も、体勢を立て直し棍棒を振り上げて咆哮。着地の衝撃をものともせず迎え撃つ構え。
ミュトにかけていた<強化魔法>で互いの力格はほぼ互角、技格では【ストロール】が2つ星半、ミュトが4つ星半と隔絶した差がある。
ブォン! ブォン!
ミュトは相手の攻撃に十分対応していた。
こちらが<槍術修練>なのに対し相手が修練の上位<棍術熟練>のスキルなことが気がかりだったが、戦ってみれば、大怪我でも【ストロール】の攻撃に涼しい顔で対応できている。
「<光槍>」
回避主体でまさに蜂のように舞って刺すミュトの戦いは、相手の棍棒に<光槍>が粘着されても、冷静にそれを消し新たな<光槍>を発現できたことも相性が良かった。
「魔法を」
「はい! <水流圧>!」
隙を見て魔法援護できてしまえば、もはや勝利は揺るがなかった。
「とどめ」
ブシュゥウウウウ――ッ!!!
「ギャァァアアー!!」
槍の一閃が【ストロール】の胸を貫き、断末魔とともに姿が消えていく。
それと同時に背中の透明な羽も消えたミュトはざばと川に倒れる。
「ミュトさん!」
【スキスキュラ】がすぐに近寄ってくれたお陰で、岸に引き上げて俺もミュトに回復魔法をかけることができた。
「<心格強化><魔力同化><蜜色の祝福>!」
ミュト、無理をさせてすまない。
「<魔法部分化><自己回復力強化>!」
「<魔法部分化><自己回復力強化>!」
「<魔法部分化><自己回復力強化>!」
何度か局部に治癒力を集中させることで、傷口からの魔力流失と体力の減少は止まったものの、相変わらず彼女の脇腹には大穴が空いたままだ。
「大丈夫。ほっとけば治る」
怜悧で綺麗な顔こそいつも通りだが、頭の触角は力なく垂れている。
「確かに<魔力同化>のスキルで命に別条がないことはわかるよ。だけどこのままにしておくわけないじゃないか」
「ゼズ様、治りを早めるため魔力の濃いところへミュトさんをお連れしたほうがいいかと。わたくしがお世話になっているダンジョンにならご案内できます」
魔物が魔力の濃い場所で自己回復力が高まるというのは初耳だが、少しでもミュトが楽になるなら試してもいいだろう。俺も魔力の使い過ぎでこれ以上の戦闘はできない。休ませてもらえるのはありがたい。
「ああ」
反省すべき点は明確だ。やはりミュトひとりでは、戦うことと俺を守ることを共立させるのは難しいのだ。
俺が<虫の示らせ>を信じてすぐに【スキスキュラ】を使役していれば、彼女をもっと柔軟に使えたし、ミュトも彼女を信頼してすぐに俺を預けることができた。そんなことも考えてしまうが、今は悔いていても仕方ない。
「わかった。頼む。それともうひとつ、俺に使役されてくれないか」
「えっ! う、嬉しいです! お願いします!」
慎重なだけでは遅れをとる。決めるべき時の判断力を欠いてはいけない。俺はここでイーリエを仲間にする。二度と同じ過ちは犯さない。
「ありがとう。<魔物使役>!」
【スキスキュラ】の体が強力な光魔法がかけられたような輝きに包まれると、姿こそ変わらないものの、満面の笑みのイーリエがいた。
種族:スキスキュラ (一芸怪女属・基本種)
分類:水棲 女性
所属:ゼズ
評定
力格:★☆→★★
技格:★★★☆→★★★★
魔格:★★★→★★★☆
心格:★★☆→★★★
技能
<変身術>
・身体変化:獣
<騎乗術>
・騎乗修練
<水魔法>
・水流圧
<料理術>
・料理熟練
・ひとつまみの愛情
<裁縫術>
・裁縫熟練
遺宝
・腕前触腕
・努力の結晶石
【
「ああ、ゼズ様との繋がりを感じます! これが結婚なのですね!」
「結婚? 使役だよ、力を貸してもらうことになる」
輝きは収まったはずなのに、まだキラキラしているかのようなイーリエ。
結婚がどうこうだとか、魔物から絡まれていた理由だとかは確かに気になる。しかし、決めたのだ、後悔はない。
「いつも通りミュトに運んでもらうのは難しい。イーリエ、頼める?」
「お任せください! <身体変化:獣>!」
彼女のエプロンドレスから漏れ出ていた触手がぐにぐにと姿を変えて、何頭もの黒い犬のような猛獣になった。
グルルルルルルルル……
種族:スキスキュラ (一芸怪女属・基本種)
分類:獣 女性
所属:ゼズ
評定
力格:★★★☆
技格:★★★★
魔格:★★
心格:★★★
技能
<変身術>
・身体変化:水棲
<騎乗術>
・騎乗修練
<水魔法>
・水流圧
<料理術>
・料理熟練
・ひとつまみの愛情
<裁縫術>
・裁縫熟練
遺宝
・腕前触腕
・努力の結晶石
<魔物鑑定>でも『分類:水棲』から『分類:獣』に変化して、力格と魔格、<身体変化:獣>が<身体変化:水棲>にそれぞれ入れ替わっている。
「ゼズ様はワンちゃんに掴まってください!」
「こ、これは、凄いな」
牙を剥き血走った眼をギラつかせる獣たちに気圧されながらも、俺は<魔力同化>で<騎乗修練>を習得。
ついでにイーリエの手を借りてまたがる時に、なけなしの魔力で彼女に<力格強化>と<技格強化>をかけておく。ミュトはイーリエが抱えて準備を完了した。
「な、なんだか力が湧いてきました。これが結婚パワーなのかも知れません! しっかり掴まっていてください!」
「使役ね!」
バウバウバウバウバウ!!!!!
ミュトにやるように<強化魔法>を勝手にかけてしまったため、イーリエの誤解が加速してしまったのを反省しながら吠え猛る黒犬にしがみつく。
俺たちはまだ見ぬダンジョンを目指すのだった。
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