第11話 決意
「進もう。今度は物陰に隠れるときにも警戒を怠らないようにするよ」
「わかった」
倒した【カブトボーグ】の魔石3つとドロップアイテムの『魔外骨格』を回収し、先ほどの反省をしながら、さらに荒野を進む。
戦闘で不意を打たれてしまったのは、遺跡跡に魔物が既に潜んでおり、俺が会話と考えに没頭しすぎて周囲の警戒を怠ったことが原因だ。
今回はたまたま俺たちでなんとかなる相手と数で助かっただけ。
「いや、まだだ」
こんなものではない、まだ俺達には出せる実力があるはずなんだ。
じいちゃんの家の前でオモルフの華装兵団に向けて放った<光槍>は、山にあるどんな樹の幹よりも太く長かった。あのときは無我夢中で魔力操作なんて一切考えていなかったし、実際に自分や生み出した<光槍>に<魔格強化>をかけて再現を試してみたが、あそこまでの大きさと威力には到底及ばなかった。
「つまり、あの攻撃は俺ひとりの魔力ではない」
そうだ。あのときは<魔力同化>の存在すら知らなかった。ミュトへの命令なのか自分での発現なのかも曖昧なまま、抱えられながら撃ち出した<光槍>。
要検証だ。戦力としてあてにはできないが、あてにできるようにしなければならない。
「戦闘後なのにすぐに運ばせちゃってごめん、代替手段があればいいんだけど……」
「平気」
クールな声色は頼もしくもあるが、それにしてもだ。このままでは不便なことに変わらない。俺を置いて守りながらだと動き回って戦闘するのは難しく、人間とのコンタクトにも支障が出る。
乗り物を用意するのはどうだ? いいや、引いてもらうことでどっちにしろ労力をかけるし、個人行動できない問題は解決していない。
義足は? 特殊なジョブや機械技術の専門家にコネなんかないし、メンテナンスのため俺の知識も必要になるだろう。
「となると、足を治すのが一番なんだけど、『聖女』レベルの回復魔法の使い手なんて他にいるのか?」
「足を治す?」
え?
俺が思考の整理のためについ癖でうんうん唸っていると、ミュトがいつもの無感情な声とは少し違う、驚いたような声で聞き返してきた。いつも直角に折れ曲がっているはずの触角がピーンと一瞬伸びたような気もする。
「あ! もしかして魔物の知合いに凄い回復魔法の使い手がいるとか? もちろん義足を作れる知り合いでもいいんだけど」
「足、もとからそれじゃなかったの」
「違うよ! 元パーティの奴らに斬られたんだ。そういえば説明してなかったっけ」
俺がミュトに色々聞くばかりで、自分のことやミュトからの会話すら話していなかったことを恥ずかしく思う。これじゃあ意思の疎通じゃなくて一方通行だよな。
「私が治す」
確かに試してはいなかった。
<蜜色の祝福>は治癒と痛覚鈍化の2つの効果を持つため、特化した回復スキルには劣るはず。しかし、俺の<強化魔法>でミュトの心格を強化したら4つ星半にまで上がる。もしかしたらもしかするかも知れない。
近くの岩場をぐるっと回り索敵を終わらせると、俺を地面に降ろしてもらう。
<心格強化>をかけられ、患部をその切れ長な目で睨むミュト。切れた儀礼服のズボンを履いたままの俺の足に、おもむろに手をかざすと魔法を発動させる。
「<蜜色の祝福>」
光属性由来の魔法の特徴、暖かな光が俺の足を包む!
しかし魔法は効果がない。
「ダメだった」
残念。ミュトの触角もいつも以上にぐんにょり曲がった。
「まだ俺らのスキルは成長するんだから、いつか治せるようになる。すぐに強くなるなんてことはないんだからさ」
俺ができるのは、じいちゃん直伝の練習方法で魔力操作を教えるくらいかもしれないが、俺もそうやってコツコツと積み重ねがあって魔格を成長させたのだ。
「すぐに強くなれる」
「ああ。新しいスキル効果も検証したいし、一緒に成長していこう」
「違う。ダンジョンとダンジョンコアがあればすぐに強くなる」
「そうなの?!」
そんな方法が!? まてよ、それってボスになるってことじゃないか?
「そう。ボスになって足を治す」
どうなんだ? 乗り物に義足よりも現実的に可能なのか? ダンジョンコアはボスを倒さないと手に入らないんじゃないのか? ヴォディノ王の『英雄パーティ』は過去に2つのダンジョンをクリアしているから、城の宝物庫にならありそうだが。
「何か当てが?」
「私のいたダンジョン。今は違う魔物がボスだと思う」
忘れていた。
「そうか、そうだったね。ミュトはダンジョンがなくなったから『レプリカフォレスト』に行ったんだった」
初対面のときは細かい事情まで聞けなかったが、魔物同士でもダンジョン領域の侵略が行われているとは。そうだ、ひとつ確認しておかないと。
「魔物でも『ダンジョンの呪い』……なんて言えばいいかな。ダンジョン領域の人数制限はあるの? 人間はダンジョン領域に大勢で入るとジョブの効果やスキルが使えなくなったりするんだけど」
「ある。ダンジョンへ来た敵も5人。3人は倒したけど、敵のボスともうひとりにやられた」
魔物の間でも5人が限界なのか。こんなところは人も魔物も同じ扱いだ。
ダンジョン内で魔物は6以上で群れない。だからこそ、俺が『レプリカフォレスト』で魔物を呼び寄せたのはフィーネたちに衝撃と混乱を与え、逃げる隙ができたのだ。
あとは、ミュトも前線に立って戦っていたような口ぶりなのが気になる。
「侵略してきた魔物たちと戦ってたんだ」
「そう。一度やられたけどダンジョンコアからすぐに復活した。緊急事態ならコアから戦力を補充できる」
相変わらず端的にしか話さないミュトに詳しく聞いてみると、どうやらコアに備わる復活機能を強制的に活性化することもできるようだ。コアに負担をかけるため、ボスまで防衛側が押し込まれたときの最終手段らしい。
ボス戦では配下がやられてもすぐに5人まで戦力を補充できる。戦力の逐次投下が行えるというわけだ。
「あのときは消えて攻撃が当たらない2人に闇属性で一方的にやられた。私たちのボスが負けて、逃げるしかなかった」
おそらくミュトと同じくダンジョンボスも光属性だったのだろう。光と闇は対立してお互いに威力が増す。火と水、土と風も同様だが、それを上手く突かれた形になる。
「ミュトも『復讐』か」
「負けたままはよくない」
ミュトの意志もあり、それで<回復魔法>での治癒も可能になるのだとしたら応援しないわけにはいかない。
「やろう。ダンジョンボスを倒して、ミュトの故郷のダンジョンを奪還する」
俺はミュトの手を取って、目を合わせる。
「うん」
子供のようにコクンと頷くだけでも、怜悧な表情の美人はさまになる。
「さて、まずは、日が落ちる前に安全な外周部にたどり着かないと。魔物を見かける頻度も減ってきたから、そう遠くはないはずだよ」
顔をそらし、荒野に落ちる夕日を見ながら、繋いだ手をひょいと引かれる。
「急ぐ」
再び抱えられて移動。やはり格好がつかないな。同じ
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