第3話 貫通
もはや痛みではなく、斬られたところをずっと燃やされているような、そんな感覚だった。止まったはずの血が行き場を失い暴れまわり、茹で上がってしまうほど体温が上がっている気がする。
「どこまで進みましょうか。荷物もありますし、あまり無理はしたくないですね」
「おいおい、適正ジョブになった力を試したくねーのかよ。行けるとこまで行くに決まってんじゃねーか。エンデ、別に重くねーよな?」
「はい、問題ありません」
「……わかりました。マップの更新を目的に進みましょう。影を索敵に先行させます」
狩った獲物の如く担がれ、ダンジョンの奥へと運ばれる。
好都合だった。今のうちに魔法を発動できるくらい精神を鎮めておかないと。そう考えて、指に強く力を込めた。
「これで6戦目だぞ、こーいう日に限って魔物多くねーか? どーなってんだテロス」
「影を使った索敵もまだ課題が多いですが、普段よりも魔物が過敏な印象を受けますね。ただ、そうも言ってられません、そろそろ未探索のエリアに入ります。この先にも迂回できない魔物。『ニセクマ』2体、『ツエムシ』3体。リヨさんには『フクロウ』を警戒して<感知結界>をお願いします」
「おっけぇ~」
「よーし、アタシが『クマ』に一発ブチかますから、テロスはそっちを押さえといてくれ。『ムシ』のほうに2人でいくぞ」
エンデが大きく頷いて、魔法の射程まで近づいたところで俺を地面に落とす。
本物並みにデカい熊のぬいぐるみが精巧な子熊人形を抱えている『ニセクマ』。
羊ほどもある大きさのカブトムシのツノが魔法杖になっている『ツエムシ』。
ともに耐久力が高い魔物だ。この先のエリアが分からない以上、確実に戦闘が長引くここが最後のチャンスだ。痛みに耐えながらも俺はいつも通り戦線を見守る。
「いくぜ! <中位爆裂>!!」
チュドォーz_ ン!!
仮ジョブの頃よりも威力の上がった魔法の炸裂とともに3人が飛び出す。
まだだ、まだ。
そして3人がそれぞれ魔物に接敵し、リヨは<感知結界>を張り終えた。既に全員に<脅威強化>は発動している。
「ん!?」
なんだ!? 戦闘を見ていたら、魔物の詳細が脳裏に浮かんできた。
種族:ステディベア (相棒縫熊属・基本種)
分類:物品
所属:レプリカフォレスト
評定
力格:★★★☆
技格:★★★
魔格:★
心格:★★☆
技能
<爪術>
・爪修練
・貫通爪
<盾術>
・盾修練
・大事な相棒
遺宝
・ベアズコットン
・約束の指輪
種族:スタッフビートル (工具甲虫属・適応種)
分類:虫 火属性
所属:レプリカフォレスト
評定
力格:★★☆
技格:★★
魔格:★★★★
心格:★★★☆
技能
<杖術>
・ぶちかまし
<火魔法>
・中位火炎
・火炎球
<耐性>
・火耐性
遺宝
・魔外骨格
・属性宝玉
これは<鑑定術>! 魔物に作用するなら<魔物鑑定>とでも言うべきか。しかし、さっきまでの魔物には発動しなかった。<鑑定術>を使うのは初めてだから勝手がわからないが、注視することが必要なのだろうか。
だた、いまさらこれがあったところで何度も戦った相手だ。特に有益な情報は見当たらない。
「……! 『フクロウ』と、未知の魔物1体を感知! 『フクロウ』は通すけど、未知の魔物は<隔離結界>で引き留める!!」
横でリヨが叫んだ。森の奥から来る方が早かったか。
「テロスはそのまま『クマ』を止めろ! 『フクロウ』はアタシが撃ち落とす!」
【ステディベア】は1体は影に縛られ、もう1体はテロスの細剣で着かず離れず膠着状態。一方、【スタッフビートル】は残り1体。やはり仮ジョブの頃よりも大幅に殲滅速度が上がっている。
だが、まだ諦めるべきじゃない。
俺は通ってきた道にも注意を向けていたお陰で、その接近に気づいた。よかった。何とか間に合ったようだ。
「ちょっ! 通ってきた道から魔物が来てる! なんでぇ?!」
血だ。普段からその匂いで魔物を呼び寄せ【
「数は!!」
賭けだったが【
「『木馬』3、『フクロウ』1、『ツエムシ』も1!」
道中俺はエンデに担がれながらも、爪で手の肉をこそぎとり、ここまで運ばれながらも血を垂らしていたのだ。
その血を起点として、索敵に引っかからないよう遠巻きに魔物を呼びよせた。少し用心深くなりすぎて、呼ぶのに時間がかかったが。
「撤退します!! フィーネ様は『木馬』たちに最大火力を叩きつけて! エンデさんも先ほどのアイテムをありったけ使ってください!」
あとは魔力がなくなるまで<強化魔法>で足を引っ張ってやる。逃げる足に一瞬だけ強化をしてバランスを崩させたり、攻撃の瞬間にタイミングをずらして強化してまともに武器も振れなくさせたり、手はまだある。
「囮、使いまぁす! <反発結界>!」
軽くなったと言えど、隣のリヨには俺を囮として投げ飛ばすような力はないし、お前らこのまま一緒に道づれだ! って、え? 何だそのスキル、知らないぞ!
ボフン!!
俺はリヨの見えない壁によって吹き飛ばされ、宙を舞った。
呼んだ後続の魔物の群れに飛ばされながらも<脅威強化>とは逆の効果の<隠密強化>を自身にかける。そんな中<隔離結界>が切れたのか、リヨが報告していた未知の魔物が目に入る。
あの魔物は!!
どうやら、まだ俺の命運は尽きていないらしい。
キィィイイイン!! プシュ~
戦場が音と煙に包まれる!
おそらく【
受け身も取れず魔物の群れの近くに無様に着地した俺は、不格好に這いずって、アイテムでひるんでいる『木馬』の股下へ潜り込む。
<魔物鑑定>によれば【一角木馬】というらしいが、今は時間との戦いだ。
転がるように後ろ足まで回り込んで、後ろ手で拘束されている縄を【一角木馬】のヒヅメの尖った部分へとこすり付ける。身体は木製でも、長いツノとヒヅメは硬い金属質でできているのに助けられた。
そんな悠長なことしていれば魔法の詠唱も終わるわけで――
「<高位爆裂>!!」
――俺もろとも後続の魔物に向けて、フィーネの新しい魔法が炸裂。
しかし、俺はそれを間一髪回避している。
「今だ! 出口へ!!」
<隠密強化>していても【一角木馬】の脚に執拗に手出しをしたら、蹴られるのは必然。
俺は魔物の足にまとわりつくように近づいていたため、蹴りの衝撃は最低限。蹴られた脚から吹っ飛ばされて、フィーネの魔法が着弾する寸前、魔法の直撃範囲から逃れたのだ。
それでも爆風の影響はしっかりと受けてしまうが、今度は両手が自由なためなんとか受け身を取って落下。
周囲は大魔法によって巻き上げられた土埃、燃えている植物や魔物から立ち上る黒煙が充満し視界がふさがれている。
「追ってきています、早く!」
もはや足音と気配を頼りにするしかない。自分に<力格強化>をかけ
そして……今だ!! もう一度<力格強化>!
ただし対象は、目の前に現れた足だ。
急激に地面を蹴る強さが変わってつんのめりそうになる女の足、俺はしっかりとそれを掴んで地面へ引き倒した。
「なっ! ぐぇっ!」
捕まえたのはフィーネだった。狙ったわけではないが、一番恨む相手とは俺の悪運はどうやら強いらしい。
「テメェ!!」
残りの3人は視界不良の中を抜け、フィーネが転んでいることに気づいたかもしれないが、もう遅い!
俺ごと貫け!!!
黒煙を引き裂く白く輝く大槍が、フィーネの右足を消し飛ばし、俺の腹まで突き刺さっていた。
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