第13話 変な奴らと真面目な奴

詞詠が有記と友人になり──もとい、登下校という餌で買収したのち、三人は談笑しながら、教室への廊下を歩いていた。


「わたくし、木南豪さんのことはまだまだ認めているわけじゃありませんからね……?」


「分かってるって〜! それよりほら、早く行かないと一限のチャイム鳴っちゃうよ?」


 そんなやり取りを横目に眺めながら、面真も教室までの道のりを急ぐ。もちろん廊下を走るなど言語道断なので、全員が早歩きだ。


「しかし……今後の学生生活、どうなるんだろう」


 その憂いは至極まっとうなものだろう。日々を真面目に生き、やましいところなど全くないような学生生活を目指して生きてきた──もちろん今も──だが。


「これを真っ当というには、やや無理がないか……?」


 結果としてだけ見れば、面真は入学式をめちゃくちゃにした人間のうちの一人で、その次の日には女の子を泣かせかけた上に逃げたという極悪人である。誰がこの罪を裁いてくれよう。


 過ぎたことは致し方ないのだが、それでも入学式の詞詠の暴挙を食い止められていたら──という考えが頭をよぎる。


 あそこでもし面真が止められていたら、倒れていなかったら、もう少し平穏無事に過ごせたのかもしれない。


 ふと隣を見る。隣では詞詠と有記が楽しそうに話していた。こちらの視線に気づくと、二人ともが顔をこちらに向ける。


「どうしたの?」


「どうしたんですか面真くん?! もしかして木南豪さんに何かされました?! ――木南豪さん、今すぐそこに直ってください……」


「私何もしてないよ!? 有記ってばそういうとこ――――」


 このあたりで、面真は話を聞くことを止めた。二人の会話を聞いていても面倒な事になりそうだというのもあったが……。


 楽し気に笑う二人の表情を見て。その、ルールから解放されたような顔を見て。


 自分の葛藤など、どうでもいいと思えてしまったのだ。


 今まで真面目に生きてきた中で、こんな笑顔は見せられたことがなかった。その表情に見とれていると、詞詠と面真の二人から声がかけられる。


「そんなところでぼーっとしてどうしたんです?」


「早くしないと授業始まっちゃうよ?」


「…………行こうか!」


 ――と、そう言ったタイミングで、一限開始のチャイムが鳴る。


 顔を見合わせた三人は、廊下を走らないぎりぎりの速度で早歩きをするのだった。

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