番外編.フェブラリーS(後編)

『さぁ全場ゲートの中、今年の始まりはやはり府中ダート1600mの舞台から!!』


 ガッコンッ…!!


 高々と音を鳴らしゲートが開く。同時に大歓声が沸き起こり、16頭の優駿が1600m先の栄冠に向けて走り出した。


『揃ったスタート!!さぁまずは最内枠からカリブテラスがハナを奪って行きます!!』


 大方の予想通り、人気薄のカリブテラスが先頭に立つ。2番手から積極的にグレンラと角宮かどみやあおいが追走。更にその外から、今日は早め2番手、エルシーブリッツと川上騎手も積極策を取ってきた。


 いつもとは違う展開にスタンドも若干ザワついている。


「葵、結構前に行くなぁ〜」


 果敢に積極策を取る同期の姿に、私も負けてられないと改めて思う。


「グレンラ今日は折り合い付いてるし、まじで直線の反応と相手次第じゃない?」


 気性が荒いことでお馴染みグレンラはまずまず折り合いは付いている。出走していれば全馬にチャンスはある。最後まで粘りきれるか注目だ。


 レースは平均ペースで流れ特に大きな出来事は無く3、4コーナー中間点。大欅の向こうを既に過ぎている。


『さぁここで早くも!グレンラが並びかける!!そしてエルシーブリッツ!!アリスはまだ後方の馬群の中!!割って来れるか!!』


 いよいよ最後の直線。スタンドの大歓声に迎えられ、栄冠へと続く最後のストレート。


「いけ〜!葵〜!!」


 ウィナーズサークル近くで観戦している璃乃も結羅も声を張り上げ同期を応援する。その同期の角宮葵とグレンラは、まだ手応え十分で2番手から先頭に立とうとしている。これは行けるぞ!!


『カリブテラス頑張っている!グレンラ!!外からエルシーブリッツ来ている!!さぁその後ろからようやくアリスがやってこようとしている!!』


 残り300mと少々。最後の難関である府中の坂を駆け上がり1着の栄冠まで残り僅か。さぁここからどの馬が抜けてくるか…と思っていたが、


「ねぇ、璃乃りの……!これ逃げ切るんじゃない!?」


 隣に居る結羅ゆらが半信半疑で声を掛けてきた。そしてその言葉は、今からこちらが彼女に対して言おうとしていた事と全く同じであった。


 そう。各馬懸命に追い上げ、前を捉えようと頑張っているが中々抜け出せないのだ。逃げ粘るカリブテラスは馬群に沈んで行くどころか、むしろ今から再び伸びそうなくらい余力が残っている。


 その光景にようやか気付いた観客達から「えぇ!?残るんじゃね??」という驚きの声と、1段と大きくなった歓声が聞こえてきた。


『まだ逃げる!まだ逃げるカリブテラス!!2番手も接戦エルシーブリッツとグレンラ!!その後ろからアリスも来ているが!!』


 残り100を切り、先頭は変わらずカリブテラス。


 それは、予感が確信に変わった瞬間だった。14番人気・カリブテラスはそのまま後続を寄せ付けず逃げ切り勝ち。7歳にしてGI初制覇を飾った。


 鞍上は、レジェンド・武田騎手だ。結局、平均ペースよりやや速めの絶妙なペースを刻み、他馬に息を入れる暇を与えず後続の追撃を振り切った。流石としか言えない騎乗だった。


 2着に2番人気・エルシーブリッツ、3着には結局10番人気・グレンラが残った。なお、1番人気・アリスは猛追及ばず4着という結果に終わり、2021年最初のGIは14番人気→2番人気→10番人気馬による大波乱の結果となった。


 そして、GIをデビュー年から35年連続制覇を成し遂げたレジェンドの姿は、間近で観戦していた「天才の子」とその同期に、深い憧れを与えたのであった。



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