靡く炎

第10話.意地

 ガシャンッ…!!


 高々と音を響かせゲートが開き、16頭が勢いよく飛び出した。それと同時に、大歓声と拍手が阪神競馬を包み込む。


『綺麗なスタートです!!おっとなんと!トキノスカイがハナを奪います一昨年の年度代表馬!!』


 歓声はどよめきのようなものに変わりつつあった。なんと2番人気・一昨年の年度代表馬トキノスカイが逃げる形となったのだ。13番ゲートから飛びだした3番人気、フォルテナイトと璃乃りのもいつもよりやや前、丁度中団でレースを進めようとしていた。


 スタンドの前をすぎ1、2コーナーに差し掛かる。歓声が徐々に遠くなりこれから向正面だ。


(後ろに結羅達がいる…早めに仕掛けていこうかな…)


 いつも通りしっかりと折り合いが付いたフォルテ。まさかトキノスカイが逃げるとは思わなかったが、今の所平均ペースだ。何も焦る必要は無い。


 気にしているのは後方で脚を溜めているであろう1番人気・ルイサファイアと花火はなび結羅ゆらのコンビだ。驚異の末脚を武器とするサファイア。しかし今日は阪神の内回りコース。直線がやや短い為こちらが先に抜け出せば、長く良い脚を使うタイプのフォルテもいい勝負が出来るはずだ。つまり、かなり仕掛け所が重要になってくる。


 平均ペースで流れるこのレース。向正面では特に動きは無く、いよいよ3、4コーナに差し掛かり後続の馬がそれぞれ仕掛けに入る。


「……今だ…!!」


『さぁこれからどんな結末を迎えるか…おっと早くもトキノスカイ鞍上、田上の手が動いている!!』


 スタンドからの歓声が大きくなってきた。なんとトキノスカイは後退していく。外から後続馬が追い上げ、更にその外からは…!


『ヴィルートス、外から捲ってフォルテナイトォ!!今日こそ末脚届くか!?』


まだ軽く促しているだけ。早くも2番手まで上がり直線コースを迎える。


 恐らく半馬身前にいる馬も捉えることができるだろう。ここまでは完璧な運び、プラン通りの競馬が出来た。


「さぁ来い!!結羅ぁぁ!!」


 フォルテの首がグンッと下がり、エンジン全開だ。それに呼応するように璃乃の右鞭が入る。


残り200m。


まだ来ない…まだ来ない…まだ来ない……


「……………!?……こっからだよフォルテ!!」


 異様な気配を感じたのは残り100m手前。それが何かというのは勿論分かっている。


『大外凄い脚だルイサファイアァ!!フォルテナイト粘る粘る!!』


 アナウンサーも実況に熱が入る。GI並の白熱の勝負、大歓声。完全に2頭の一騎打ちだ。後ろは6馬身以上離れている。


もちろん、結羅とサファイアも負けられない。


 しかしこれは、フォルテが、宮崎調教師が、そしてフレアが与えた『試練』だ。こちらも負けられない。


 意地と意地のぶつかり合い。お互い結羅には…璃乃には負けられない!!同期として、仲間として、ライバルとして絶対に負けたくない。


粘るフォルテ、怒涛の勢いで追い込むサファイア。


2頭が並んだ所がゴール板だった。


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