月に憧れた青年達
みけ
第1話 書きかけの研究資料
report: 20XX年9月17日
―――――Confidential information―――――
月読尊計画
月面探査隊(sLENe)は
17回目の探査によって月の地殻観測に成功
人類月面着陸時のサンプルでは
O、Si、Fe、Mg、CA、Al、Mn、Ti
が確認されたが、
本計画ではこの他に、表面に白金を含有を確認。
内面には未知の成分が含まれている。
――contact point――
月面基地『ツクヨミ』建設予定地点
座標 緯度:N3°12′43.2″
経度:W5°12′39.6″
「おい、そこのお前。何見てんだ。」
僕は後ろから声を掛けられた。
ここは月面研究所の地下3階。
機密情報が格納されている場所だ。
「す、すみません!」
僕は後ろを振り向くと、研究長の宮城さんが
大量の資料を腕に抱えて立っていた。
「ああ!お前だったか月ヶ瀬。何の資料だ?」
「月読尊計画の報告書です。研究に使いたくて。」
月読尊計画は僕が生まれる少し前にこの研究所で行われた計画。
月面着陸はこれまで盛んに行われていたが、
月の内部の観測に成功したのはこの月面研究所が初めて。
しかし未だ世間には発表されず、機密情報として
研究員しか知らない。
報告書に書かれている月面基地『ツクヨミ』も
設計図のみ残っており、建設開始の目処は立っていなかった。
「ふーん。そうか……ちょっと待ってろ。」
宮城さんはそう言うとどこかへ行ってしまった。
しばらくすると、宮城さんが戻ってきた。
その手には僕の持っているものよりひと回り小さいファイルを持っていた。
「これなら持ち出していいぞ。でも絶対に誰にも見せるな。俺が怒られるんだから。」
「はい。わかっています。」
僕はもう一度月の内部を確認すべく、この研究を続けている。未知の成分にはどんな性質があるのか。自分の目で確かめてみたいのだ。僕は研究資料を束ねて、自分の研究室へ向かった。
研究室に入ると、見慣れない人影があった。
背丈が高く、すらっとした体型の女性だ。
「あの……。」
女性は振り向いた。
「もしかして月ヶ瀬三波くん?」
「はいそうですけど…研究長にご用事ですか?」
「違うの。月ヶ瀬くんに用事があるの。
私の名前は月宮凜音。
月の生命体の研究をしています。」
彼女の白衣はうちの研究所のものとは少し違っていた。よその研究所の人だろうか。
「月の生命体?どういうことですか?」
「私は地球外生命の存在を証明したいと思ってる。君にも協力してほしいの。」
彼女は真っ直ぐ僕を見つめていた。
「えっ……」
僕は言葉が出なかった。
今までそんなことを言われたことがなかった。
「お願いします。
その資料、見せてくれないかな。」
彼女は綺麗に色づいた長い爪で僕の持っている
機密文書を指した。
「すみません。上の者に許可を取ってきますね。」
機密文書なんて初対面の人にらくらくと見せたはいけない。宮城さんに確認しに行こうと足を進めようとすると、腕を掴まれた。
「そんな時間取っていられないよね。
ごめんなさい。今度でいいわ。ありがとね。」
そう言って彼女は走って行った。
僕が再び研究室に入ろうとドアノブに手を掛けると、放送がスピーカーから鳴った。
『昼休憩。研究員は昼食を取るように。』
もうそんな時間か。
と考えていると、前から宮城さんが来た。
「ほらっ昼飯行くぞ。」
僕と宮城さんは食堂へ向かった。
食堂は研究員で賑わっており、
魚のいい匂いがする。
「あ、あそこ空いてますよ。」
僕が見つけた席に腰を降ろす。
「先輩は今日何食べるんですか?」
「んー。やっぱり豚カツかなぁ…」
「またですか?ほんとに好きですね。」
僕が宮城さんをからかうと、彼は僕の手元に目をやった。
「おい、お前それ。」
僕の腕の中には研究資料が残っていた。
すると宮城さんは僕に耳打ちをして、
「機密情報だろ?早く研究室に戻してこい。
鍵もかけてこいよ。」
と小声で言った。
僕は急いで研究室へと向かった。
「お腹すいたー…」
僕が研究室の扉を開けると、月宮さんが僕の机の上を詮索していた。
「月宮さん?」
僕が声を掛けると、彼女は驚いた表情を見せた。
「あ、あなたさっきの子だよね。こんな所で何してるの?」
「それはこっちのセリフですよ。ここ、許可がない限り立ち入り禁止なんですよ。」
「え、そうなの?」
「はい。すぐ出ていってください。」
彼女はそそくさと走って行った。
僕は彼女のことを不審に思いつつも、机上に資料を置いて鍵を閉めた。宮城さんを待たせているので急いで食堂に戻る。お腹が空いていたのもあるが。
「おかえり。頼んどいたから。」
机の上には僕の大好物、魚の白身フライがあった。
「ありがとうございます。
そういえば先輩、月宮さんってご存知ですか?」
「ん?月宮?知らない…かも…。」
「ですよね、白衣も違うとこのっぽいですし。」
その間も僕は白身フライを口に運んでいく。
すると先輩が研究を手伝ってくれるというので、
お言葉に甘えることにした。
食事をし終えた僕たちは、研究室に向かった。
「おお、俺ここ久しぶりだな。」
宮城さんが研究室を見渡す間、僕は机の上の資料に手を伸ばした。
「これです。この『ツクヨミ』は建てないんですか?面白そうですけど。」
「ああ。今のところな。」
宮城さんが設計図を見るところ、ドーム状の建物の中に、巨大な特殊レンズがついており、そこから内部を確認できるというものだった。
「材料と許可さえ降りれば作れるんだけどな…」
「難しそうですか?」
「俺からも上には説明する。お前の研究のことだから、許可は降ろして貰えるかもな。」
と、宮城さんは優しい言葉をかけて部屋を出ていった。
時間ができたので、月面基地『ツクヨミ』の模型を作ってみることにした。
特殊レンズは確かあそこに…
僕が棚に手を伸ばすと、そこにあったはずのレンズが全てなくなっていた。
無線で先輩に連絡した瞬間、赤い光が研究所を包み込む。
『緊急事態発生。職員は持ち場から離れて第3展望へ。くり返す。職員は第3展望へ!』
月に憧れた青年達 みけ @mikemikan_chocolate
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