第4話 導かれるように
ソファーに座ってリモコンを弄り、テレビのチャンネルを次々と変えていく。
普段、テレビは殆ど見ないがこの一週間は別だった。
少しでも情報が欲しい。夏海の行方に関する情報が。
だが、
『連日続く熱気でコンクリートが…』
『海外では…』
『夏を乗り切る…』
どこのチャンネルでも、やっているのはこの猛暑に関する番組ばかりだ。
夏海の行方について報道している所はない。
ほんの数日前までは、こぞって夏海の行方について報じていたくせに警察が捜査の打ち切りを発表した途端、波が引くように報道が静かになっていった。
まるでそんな事件など存在していなかったかのように。
「ふざけんじゃないわよ…」
悪態をついてテレビを消す。
仕方ないのでネットから情報を集める事にしたが、出てきた記事の大半は今まで警察が発表し、報道された情報と大差なかった。
「はぁ…」
スマホの電源を切って放り投げる。
膝を抱え、目を閉じた。
そうしてこれまで報道された情報を思い返す。
まず行方不明当日、夏海は朝から部活へ行っていた。
部活は8時半から12時までで特に変わった所もなく終了、そして着替えを済ませて13時頃には学校を出て、部活の友人と駅前へ向かっている。
(学校から駅までだいたい15分程度だから、13時15分ぐらいには駅についていたはず…)
一緒だった友人はそこで電車に乗るため別れ、夏海は一人で自宅方面へと歩いて行った。
その時の様子を映したコンビニの防犯カメラが見つかったのでここまでの足取りは間違いない。
その後は夜になっても自宅に帰らず、行方が分からなくなった。
警察はこの情報を元に、駅から自宅までの聞き込みを重点的に行った。
だが有力な目撃情報は得られなかった。
一応、自宅マンション内も調べられたが、そもそもエントランスの監視カメラに夏海の姿が映っておらず、彼女はマンションにたどり着く前に姿を消した可能性が高かった。
警察の捜査はここで止まっている。
これらの情報は全てテレビやネットから手に入れたものだ。
私が直接調べた訳じゃない。
本当なら自分で探しにいきたかったけどそれは出来なかった。
何故ならもし誘拐や何らかの事件に巻き込まれていた場合、犯人が近辺に潜んでいる可能性がある。
学校からは生徒への外出自粛が通達され、母からも家でじっとしているように言われた。
学校も親も、子供を守るための当然の対応をしている。
ただ、それが納得できるかはまた別の話しだ。
(ちくしょう…!)
膝を抱えたまま唇を噛み締める。
最初の3日はひたすら夏海の無事を祈った。
どうか見つかりますように、と。
だが、今はもう祈る事すら出来なくなっている。
時間だけが過ぎていくばかりで、状況が一切好転しない。
もはや頭にあるのは無関心になっていく世間と見つけられない警察への憤り、そして何も出来ない自分への怒りだけだった。
ガチャン、
無力さに震えていたその時、玄関で物音がした。
俯いていた顔を上げる。
もしかして来客か?と思ったけどインターホンが鳴らない。
現在母は用事で外出し、父は仕事で家に居ないので家には私一人だ。
仕方なしにソファーから立ち上がって玄関に向かう。
だが出入り口の扉の先に人の気配はせず、首を傾げていると壁に埋め込まれた我が家のポストに一枚のチラシが入っているのに気がついた。
どうやらさっきの音はポストを開けた音だったらしい。
放り込まれたチラシを取り出す。
そこには黒いインクでこう書かれていた。
『
「探偵…?」
呟いてチラシの全体を見る。
すごくシンプルというか、無機質なチラシだ。
書いてあるのは調査項目や所在地のビルの住所だけ、飾り気など一切なく、最低限の情報しかない。
それに、
「これは…探偵の仕事なのかしら?」
浮気調査などといった調査項目の一番下に『お祓いも承ります』と記されている。
「お祓いって…」
お寺の仕事だろう、それは。
悪戯なのか?
だけどなんとなく気になったので、所在地をスマホで調べてみた。
すると確かにチラシに書かれた名前のビルがある。
それも私の家から近い、歩いて行ける距離だ。
その時、ある考えが私の中に浮かんできた。
警察は動かない、マスコミも当てにならない。
夏海の行方は自力で探す。探す手段は多い方がいい。
ならばこの探偵事務所を活用するのはどうだろうか。
頼りになるかは不明だが、少なくともこのまま家に居ても状況は変わらない。
「よし…!」
私は一度自室に戻り、部屋着から外着に着替える。
事務所に行ってダメそうだったら依頼しなければいい。
それに母が帰ってくるのは夕方だ。
今から行けば帰ってくる前に余裕で往復出来る。
あと必要なものはお金か。
人探しの相場はどれくらいなんだろう?
(とりあえず私が出せるのは10万ちょい… これでどこまで動いてくれるかしら?)
スマホで調べてみると相場は状況によりけりで、一概にコレといった数字は出てこない。
(相談してからってことか…)
机を開け、封筒に入れていたお金を取り出す。
いざというときの為に長年貯めておいたお年玉だ、それとさっきの探偵事務所のチラシを水色のポシェットに突っ込む。
「よし…! 行くわよ!」
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