第8話

 「まあ、なんとなくそうだと思っていたわい。

裕亮くんがいるのなら、わざわざ儂のところに来んしのう。」


彼は呟くようにそう言った。

それはその通りかもしれない。


なるべく身近な人を選ぼうとしたのだから、当然と言えば当然だ。


「話は変わるんじゃが、この子は何か病気を持っとるのか?

時間が経っても汗腺が、働く様子がないんじゃが。」




汗がでない。


汗というものは、周知の事実ではあるが、体中に張り巡らされている汗腺から、体温調節のため、主に体温を下げるために排出されるものだ。


もちろん体温を下げるということは、それすなわち熱中症の予防につながるものである。


しかし、彼女にそれはなかったのだ。


それが一時的なものなのか、遺伝的なものなのか、あるいは生物学的な物なのかは分からないが、今の段階の事実として明らかなのは、汗がかけないという物である。


そういえば、会った時の夜だったか、十一月にもかかわらず、暑いと嘆いていた記憶がある。

となると、汗腺がそもそも発達していないのではないか。


人間なら、そんなことはないと言えるのだが、彼女は宇宙人。

むしろその可能性が一番あると言えるだろう。


「まあ無汗症みたいなもんじゃろ。

後天的なものか先天的なもんかはわからんがの。」


ここにそんなのを診断する器具はないんじゃがと呟きながら、彼は彼女の首に添えられている保冷剤を取り外す。


「幸い、良うわからんが呼吸も落ち着いとるし連れて帰っても良いぞ。

ただ、無理はさせんように。」


優しい声で、僕に向かって声をかけた。


「はい。」


「ああ、すまん、儂免許持っとらんから、帰りも背負ってってくれ。」


「はい……」




「帰りもこれかよ……」


僕は来る途中で登った坂を、今度は当然下っていた。

失礼になるかもしれないのだが、人間一人を背負ってる以上、どうしても重い。

運動部に入っていなかったら今頃この辺で倒れていた気がする。

帰りじゃなくて、行きにだ。


もう少しで、家に着く。

幸い、彼女が宇宙人であると秀則さんにはバレなかったようだし、体調に関しても落ち着いているということで、一安心だ。


僕は後ろを振り向く。

彼女の顔が動いている感覚がしたのだ。


背中に揺られていたからなのか、もう既に目を覚まし、ぱっちりと開けていた彼女は、僕に向かってこう言った。


「世話になってばかりだな。

私も、何かをしないと。」


ちょうど、僕も彼女に何かをしてもらおうと思っていたのだ。

このままただ、僕の家に住み着くだけだと、彼女が僕に対して申し訳無さをつのらせたりして、対等な関係になれない。


対等主義者の僕にとって、それは最も避けたいことだった。


そうだな、例えば……


「じゃあ明日から、働いてみる?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

居候のブロッサムさんは美麗な宇宙人 友真也 @tomosinya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ