【十七】捜索という名のデート

 ここ数日、天候は素晴らしい快晴が続いている。前日の熱気は夜になっても残ったままで、日が昇れば前日の熱気に上乗せされる様に気温が上昇していく。風も無く、蒸す。唯一の慰めは、これでも県内では最高気温予想が低い方だということだ。全然慰めになってない。暑いものは暑いのだ。トウマとヒメは、堪らずコンビニに逃げ込んだ。冷気が全身を冷やしていく。二人ともレジカウンターでアイスコーヒーを注文し、窓際に数席用意されているイートインコーナーに座った。


 あれから三日が経った。マンションでの共同生活は続いている。前世の夢は見るが、なかなか欲しい記憶には当たらない。なぜかトウマとヒメで同じ夢を見ることが多い。トウマとしてはちょっと嬉しかったりするのだが、効率の面では悪い状態が続いている。


 欲しい記憶。それは勿論、落下する小惑星に関する情報だ。今世における日時と場所。それが得られれば、小惑星落下を防ぐことも可能になる。『デキステル』では落下に使用されそうな小惑星の調査は進めているが、比較的近傍のものに絞っても無数にあるし、未発見の小惑星が使われる可能性だってある。やはり前世の記憶が必要なのだ。


 今トウマとヒメがやっているのは、ユニファウの捜索だ。正確には前世がユニファウである人物だ。小惑星の情報を得ている可能性が高い人物はレイリー、マウア、ユニファウの三人。勿論研究者であったマウアは確実なのだが、現状思い出せていない。また、前世で関係があった人物との接触は覚醒を促進させる傾向があるという。やはりユニファウも探した方が良かろうという結論になった。


「わあ、ひさしぶりー!」


 ちょっと遠い声がした。トウマが顔を上げると、ガラスの向こうに短髪の少女が手を振っている。カラフルなロゴの入ったTシャツにダメージジーンズ。お洒落には一家言ありそうだ。手を振っている相手はトウマでは無い。隣に座るヒメに向かってだ。ヒメも少し席から腰を上げて手を振る。ちなみに今日の服装はノースリーブの白いワンピースだ。さすがにずっと制服で過ごすのは大変なので実家に取りに行った。トウマは青色のシャツとチノパンだ。


「やーヒメ、ホント久しぶりだね。元気してた?」

「ミコも元気そうじゃん。あ、そのピアスどうしたの? いいなー」

「へっへー、彼氏に買わせたー」


 ミコと呼ばれた少女はヒメの友人だった。小中学校と一緒で、高校はミコが都内へ進学したので暫く会っていなかった。トウマはうっすらと記憶がある。なんかもっと地味だった気がするが……高校デビューというやつだろうか。


 ユニファウの捜索方法。それはトウマとヒメの共通の友人・知人を当たることから始めた。転生者は前世の因果に引かれる傾向がある。全く同じという訳ではないが、親しい関係にあった者は、親しい関係者の中に転生する可能性が高い。なのでこうやって、昔の友人と一人一人会って確かめているのだ。


 確認する方法は簡単である。


「? どうしたの?」

「いいや、なんでも無いヨ」


 ミコがヒメ越しにトウマに話しかけてくる。トウマが妙に険しい顔をしていたからだ。トウマは首を振って笑う。ミコは少し不思議そうな顔をしたが、特に気にも留めずにヒメとの会話に戻っていった。


 今トウマは、例の光の粒子を出して見せたのだ。光の粒子は異能力を発動したり、前世の記憶を強く思い出すと発現する。しかし、その粒子は転生能力者で無いと見えない。ミコはトウマの光の粒子に反応しなかった。つまり一般人ってことだ。


 トウマはなるほどと思った。あの高校での読書会は、前世が題材の小説を読ませることによって転生異能力者を見つけようとしたのか。随分迂遠な方法だ。ホムラによれば、あの時に発見できたのは二人だけなので、高校に転生能力者はいないはずだ。


「もしかしてさー、ヒメとトウマって付き合ってるの?」

「あー、う、うん。そうなるかなー。てへへ」

「おーおー、やったじゃん。いやー昔っからヒメのデレっぷりは」

「わーわー! ストップストップ、ダメだってば!」


 ミコで二十人目である。トウマとヒメの共通の知人友人、比較的親しい、若い女性となるとかなり限られる。ほとんどヒメの友達だ。トウマと親しいかと言われると首を傾げるが、まあ仕方が無い。ガチで親しかったと条件をつけたら、以前通っていた学習塾の先生と自宅近所の商店の娘だけになってしまう。そちらは最初に確認済である。残念ながらハズレだった。


「さ、次行こう」


 小一時間ミコと話して別れたヒメが、満足げな顔で立ち上がる。トウマは少しげっそりとしていた。女の子というものはよく喋る。聞いている方が疲れてしまう。それになぜか、気がつけばトウマがヒメにイヤリングをプレゼントする流れになっていた。いやいいんだけど。前世とは大違いだ。前世のマウアはどちらかと言えばじっと数式と会話するタイプだった。


 まあでも、トウマは少し微笑む。ちゃんと青春しているなあという感じがあって、いいなあと思う。


「ところで、ホントにイヤリング買うの?」

「え、買ってくれないの?」


 そうやって不安げな目で見上げられては、トウマに他の選択肢はなかった。次の待ち合わせ場所に行く前に、トウマはATMとデパートに寄ることを了承するのだった。


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