【十一】氷雪に舞う血潮
トウマは、宙空から降りてきた大正袴を履いている女性『
え、異能力ってそんなに凄いものなのか。トウマはちらりと
正面の女性は、果たしてどの程度なのだろうか。もしかして自分と同じぐらいということはないだろうか。トウマは一秒未満で答えを出した。そんなはずはない。空飛んでやってきたのだ。圧倒的強者ムーブである。
トウマは『
「なあ、跳んで逃げられないのか?」
「あー。三十秒ぐらい集中させてくれたら、できるんやが」
キョウコの足元から黄色い光の粒子が舞い上がる。が、それに呼応する様に『
「ですよねー!」
集中が解け、キョウコの黄色い粒子が霧散する。トウマたちは足元に迫る氷を避け、背を向けて逃げ出した。
「ッ危ない!」
ヒメがトウマの腕を思いっ切り引っ張った。塔屋の扉に手を掛けようとしたトウマだったが、その手が空を切る。瞬間、扉が塔屋ごと凍り付いた。白い冷気がトウマの鼻を撫でる。慌てて身を捩ったトウマだったが、凍った床に足を滑らせて仰向けに転倒した。
「トウマ・…ひゃ!」
そばにしゃがみ込もうとしたヒメが、体勢を崩してトウマの上に倒れ込んだ。ヒメの肘がトウマの腹に入り、ぐえっと潰れた声が出る。見れば、ヒメの革靴の底が凍った床に貼り付いていた。トウマはヒメごと身体を起こそうとするが、シャツとズボンに引っ張られて立てない。思わず床に付いた右の
「うぎぎ、動かない」
見回せば。キョウコもいつの間に転倒したのか、俯せに倒れている。そして動けない。お互い、まるで虫取り紙に捕らえられたゴキブリの様だった。
白い霧の向こう側で、何か影が揺らめいた。トウマは思わず、残った左手を突き出す。霧の向こうから『
「あ」
ヒメの瞳孔が締まる。氷柱の先端はヒメの眉間に向けられていた。命中する! しかしその前にトウマの左手から青い粒子が舞い上がった。物を動かす異能力。その見えない力が、飛翔してきた
ほんの僅か。
「この、野郎ッ!」
皮膚と布が破ける音がしたが、トウマは意に介さなかった。身体を起こし、血だらけになった
血に染まる右手を握り締め、トウマは拳を突き出した。『
「ふッ!」
だが、それだけではなかった。トウマの拳から青い粒子が滲み出て、その瞬間がくんと『
「やったか!」
トウマは思わず叫んだ。咄嗟の機転だったが上手くいった。ダメージも入った様だ。トウマは痛む足を更に踏み込み、もう一撃加えようとする。
だが。ぐるりと、『
「ぐはッ」
それは声ではなく、トウマの口から血の溢れる音だった。シャツの破けた背から氷柱の先端が顔を出す。それは腹部から貫通し、更に二本目が撃ち込まれる。
「見事です。なかなかの機転でした」
初めて聞く『
「トウマぁ!」
ヒメの悲鳴が白い霧を切り裂く。彼女もまた足裏を血だらけにしながらトウマの元へ走り込み、トウマの身体を抱き締める。白い制服が赤く染まっていく。
「馬鹿……逃げろ……」
トウマの声は、ヒメの泣き声より小さかった。身体から力が抜けていく。トウマは辛うじて動いた左手でヒメの肩を掴んだ。気がついたヒメが、その手を取り、両手で握り締める。トウマも力を振り絞る様に、ヒメの手を握り返す。
「これで終わりです」
抱き合う二人の上に、いくつのも
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