【五】登校日とSNS


 トウマとジュウロウは高校からの付き合いである。ジュウロウが親の転勤で引っ越してきたのだ。トウマとはサッカー部で知り合った。ジュウロウはさきたま市立高校サッカー部のフォワードで、今年のインハイ県予選の得点王。さぞ学校ではモテるんでしょうねぇと囁かれる通り、モテる。ファンクラブが存在する高校生は実在する。しかしそれでも高校男子からの評判が良いのは、ジュウロウがいいヤツだからだ。



  —— ※ —— ※ ——



 合流すると、三人は並んで歩き始める。トウマの横にジュウロウが並び、その間にヒメが押しのけるように入り込む。なぜか三人の時はこのフォーメーションだ。まるでヒメが両手に花だが、一応その効果も狙っているらしい。


 さきたま市立高校のサッカー部は県内強豪校であり、元々部員数も多いが、ヒメが一年の時にマネージャーに入った時には入部希望者数が倍増した。それぐらいには注目されている。まあ入部希望者の大半は主将の地獄のテストで落とされていたが。


 高校まではもうすぐだ。視界が開け、高いフェンスが掛けられた向こうにグラウンドが見える。サッカーコートが二面取れる広さだ。そのグラウンドの向こうに白い校舎が見える。さきたま市立さきたま高校。三人が通っている高校だ。


 グラウンドを回り込む様にして道路は続いていく。同じ方向へと歩く高校生の数も多くなってきた。時々ジュウロウに声を掛ける女子がいて、それに対してぎこちなく返事をしている。この通り、ジュウロウはあまり女子の相手が得意では無い。ジュウロウが高校男子から評判が良い理由の一つである。


「そういえば、結局会ってきたのか?」


 ジュウロウがヒメの頭ごしにトウマに話しかける。頭越しの会話にヒメがちょっとムッとする。でもそこに入り込んでいるのはヒメなのだから、文句は言わないで欲しい。


 トウマは一瞬眉を歪めたが、思い出して苦い顔をした。


「ああ、あれか。うん、まあ……一応な」

「何、会うって?」


 ヒメが会話に入る。


「SNSで知り合った子と会うって、なあ?」

「ちょ、なんだよその言い方」

「ふーん。トウマもお年頃って訳ね」


 ヒメがジト目でトウマを見下ろす。身長的に視線は明らかに上だが、こう何か失望したかの様に見下ろしている。そんな視線だった。


「誤解される様な言い方するんじゃねえ。会ってきたのは男だよ」

「え、トウマってそんな趣味が。ううん安心して、恥ずかしいことじゃないわ」

「やめろ。そこから離れろ」


 トウマは身震いした。あくまで性癖はノーマルだった。しかしジュウロウは女子に人気があるにも関わらず浮いた話が無い。いいヤツなので男子との付き合いが多い。そしてジュウロウはサッカー部のフォワードに対して、トウマは元キーパー。そして一緒に登下校するぐらいには仲が良い。そんな感じなので、二人はある特定の層に人気があった。トウマにとってはとばっちりではある。


 ヒメはトウマの反応に満足したのか、その笑顔をしまって真剣な面持ちになる。


「でもSNSで知り合ったって、大丈夫なの? そういうのちょっと危なくない?」

「うーん、結論から言うと駄目だった」

「ほら!」

「ままま。でも特に心配する様なことは何も無かったから」


 トウマがSNSで知り合ったというのは、前世の記憶を持つと名乗る人だった。最近見る夢のことがどうしても気になり、色々調べていたら辿り着いたのだ。何でも昔から「前世の記憶を持っている」という人たちは一定数居て、定期的にサークル活動の様に集まったりもしているという。なので、つい行ってしまった。


 結論から言えば当ては外れた。ムーとかアトランティスとか、ちょっと前世の記憶というよりは夢想に近い感じの、一種異様な場だった。前世では伝説の戦士だったとか何とか。明らかに方向性が違った。


 それでも念の為、根気をフル稼働させていろいろと話は聞いてきたが、トウマと同じ様な夢を見た人物には出会えなかった。しかも話は途中から、これをとても良い物だとか、買って友人に広めれば儲かるだとかすごく怪しい話になってきたので、適当に理由を付けて退散してきた。無論SNSはブロックした。


「トウマはちょっと危機意識足りないトコあるよね」


 怒った様な心配する様な複雑な表情でヒメが一歩詰めてくる。ふわりとラベンダーの香りがして、トウマの心拍をいじめる。


「じゃあ結局、夢の話は進展無しか」


 ジュウロウが少し考え込む様に呟く。ヒメがジュウロウの方を振り向く。


「え? 夢の話?」

「そう。前世の記憶っぽい夢を見るって。あれ? 聞いてない?」

「知らない。どういうこと? その話、私聞いてない!」


 ヒメが食いつくてくる。どんどんと身体でトウマのことを押し込んでいく。やめろ。その香りはオレに効く。そうは言ってもヒメに話せる内容ではない。前世の記憶っぽい夢で、ヒメに似た人物が最愛の人とか、恥ずかしくて言えない。今、ジュウロウに話したことも後悔しているぐらいだ。


 フェンス際まで追いやられていたトウマの身体が、開けた空間に押し出される。学校の入口、校門まで辿り着いていたのだ。高校名が刻まれた塀が左右に立ち、黒い鉄製の門が半開きになって開いている。


「ままま。そのうち話すからさ」


 トウマは登校する学生たちの間をすり抜けて、校内へと逃げていく。ヒメがそれを追い、ジュウロウが続く。


 白い校舎に掲げられた時計は八時四十五分。鐘の音を模した電子音が辺りに響いていった。



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