第20話
俺は……。ここは…。
おずおずと目を開けてみた。よくわからないが、海中なのに苦しさがまったくないことに首を傾げた。
「はは…まぁ、場所は気にすんな。大して重要じゃねえ」
目の前には鏡で見る俺が立っていた。
「これは悪い夢か?」
「夢っちゃ夢だ。じきに覚めるだろうけどな。けど、このことを覚えているという意味では夢じゃねぇかもな」
「俺は何者だ?」
やけに口調がチャラチャラしている俺自身に少し苛立つ。
「俺はお前だよ。前世の…な。さすがに見た目は変わっちまってるけどな。前世ではコバルトとかって恐れられてたなぁ…けけ」
「お前がコバルト…。んで、用はなんだ? 」
名乗られたことにより、より自身の中にそういう悪魔がいること実感した。ともあれ、警戒心も抜けない。いつかあいつが俺を乗っ取るんじゃないかと気が気じゃない。そうしたら俺が転生した意味もなくなってしまう。
「そんなに急かすなよ…。お前の体をかせ。とりあえず、今回だけでいい」
「嫌だね。そうやって返してくれる保証がどこにある? そこまでお人好しにはなれないね」
「かかっ…まあそうだろうよ。それだけ前世での業からしたらな…。でもよ…それ間違ってるって言ったらどうする?」
「んなわけねぇだろ! ここにいるもの達はすべてそのように言ってる。それが…少なくともお前よりは真実だ!」
力強く吐き捨てた。敵の言うことはすべてが俺を揺さぶる
不意に景色が明るくなるような感覚。
「ちっ。時間切れか…」
「どうなってんだ……」
「お前自体はやべぇことはない。…が、起きてからの状況を見て思うことがあるのなら俺を使え。いつでも力になってやるからよ」
だんだんとその明かりは強くなり、収まった頃には…。
「会長の部屋…? ああ…そうか…眠らされて」
静かな部屋に一人座っていた。眠らされたことと、あの一瞬引き締まった顔がおぼろげに思い出される。
(何かあったことは明白だ。とにかく会長を探そう)
心がざわつくのを感じながら部屋を出た。まだ夕方なのにやけに静かな廊下にやはり違和感が拭えない。
俺はロビーへと向かった。やはり人はいない。
「おかしい…」
外へと出る。この通りは元々人の出入りは少なくなる時間帯だが、誰ひとりいないのは出くわしたことがなかった。
不安が募るばかりで、とりあえずで校門の方へと向かった。
「え?」
そこで違和感の正体に出くわした。校門を堺に真っ白な光景が先に続く。まるでそこだけ絵をデリートしてしまったかのように綺麗さっぱりなくなっていた。
(どういうことだ? これも先輩が仕掛けたのか?)
振り返り、反対方向に進んだが、そこもある程度進んだところで同じ光景になっていた。
(俺は、隔離されてる?)
試しにその先へと手を伸ばすが、透明な壁がありそこから先へは手がとおせない。
焦りが募っていくが、顔には見せないように気をつけて寮へと戻る。まだ、見つからないだけで誰かいるのかもしれない。
扉を開けた。
事務室には、談話室もいない。ロビーのソファにもいない。食堂…いない。
(だから…オレに変われって)
鏡の前を通った瞬間に頭の中から声がした。
やっとのことで見つけた変化に後ずさる。
「お前はどうなってるのか分かるのか?」
「どうにかしたいっていう気持ちがあるなら、変われ。絶対にお前の意志に反することはしねぇ」
「………………」
彼はコバルトだ。実力者だ。能力もそのまま持ち合わせているのならば彼以上の適任はいないのだろう。
だが、敵側だったヤツなのだ。それに体を貸せというのは不安しかない。
「証明できるのか? お前がそうしないっていう…」
「魔導契約書でも作るか?」
「おまっ! それは結婚するやつがー!!」
「んじゃ、やるぞー」
「棒読み!?」
お互いの手と手を合わせ魔法陣を出す。
円状に現れた魔法陣に暗号のようにアルファベットが流れていく。
「かけるのは俺の存在」
「契約内容は現世での肉体の貸与。ただし、主は俺幹久誠。本人の忌み嫌うような意志に反することはできない」
魔法陣が光り、回っていたアルファベットがかちりと合わさったようにとまった。
光が静まったときには、彼は彼でありコバルトになった。
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