第15話
「まず魔法師同士の戦いにおいて有利になるのは何だ?」
「相手より速く魔法を発動すること…でしょうか」
「そのとおりだ。だからこそ、お前が言ったように魔法行使の際のイメージをパターン化させることがより速く魔法を発動させることにつながるだろう…が。それでも有効範囲に限界がある」
先生の説明に頷いた。
先述されたように魔法発動のためにはエネルギーを必要とする。イメージを魔法という形で現実に投影するわけだが、それを作り出す座標の範囲が広ければ広いほどそれ相応のエネルギーが必要になる。
例えば、手のひら分の炎を出すのに必要なエネルギーを1とした場合にそれを大きな炎として家くらいの大きさで出そうとすると1000とか莫大なエネルギーを必要としてしまう。
「つまり、最小限の魔法で倒すことを考えろってことですね」
「その通りだ。だからこそ、いかにして近接戦闘に持ち込めるかが重要になるからまずは身体を鍛えろ」
「はいっ!」
ということで華蓮先生による特別訓練が始まった。ランニングから筋トレ、それと格闘技。一通りを行い俺は地面に突っ伏した。
もう日はくれ、街灯が灯っていた。
「まぁ、初日だしこんなもんか…。明日から始業前にランニングだけはしておけ。ほんじゃあなー」
スタスタと去っていく先生。いつの間にか倒れていた爽もいなくなっていた。格闘技だけは相手してもらったが、息一つ乱していなかった…。先生の過去は優秀な魔法師だったということしか知らないがよほどすごかったんだろうと今回のことで想像できた。
俺も起き上がり、着替えを済ませてから闘技場を後にした。
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「どうですかね? 彼は」
誠が去った闘技場を見て、彼は呟く。
「今は未知数といったところでしょうか。まだ、断定まではできないかと…」
その声に答える男子生徒。腕を組み、はぁーとゆっくり息を吐く。
「行くぞ」
「は」
踵を返し、闇に消えていった。
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久々にハードワークしたせいか節々に痛みがあるが、心地よい痛みだ。どこか充実感がある。成長を痛みという形で感じられているからだろう。
帰りにそんなことを思いながら俺は足を進めていた。
「ねぇ…」
「おわっ!!」
校門の影からいきなりカナリアが現れ、話しかけられたため瞬時に距離を取った。
「警戒しすぎだろ」と独り言のように言いながらカナリアはこちらに歩々を進めた。
「何のようだ…ですか?」
「気は使わなくていいわ。今日は一緒に帰ることにしたの。さ、帰りましょ」
「は?」
急な申し出にむしろ警戒心が増した。奴がこんなことを言うなんてなにか仕返しとか考えてしまう。
なぜだと言いたいが、速くしろと言わんばかりに背中を向ける彼女とその下に下がった視線を見て飲み込んでしまった。
とりあえず、帰り道も一緒なので彼女に遅れないように着いていく。
「危ない!」
校門を出た途端、短く危険を知らせる言葉に反応する。
カナリアに体を押され、そのまま尻餅をついた。押された瞬間に何かが横切るのが見えたから彼女の仕業ではないことはそこで理解した。
「いってー……」
お尻に手をやり顔をあげると、腕をかばっているカナリアとその目線の先にいる弓のような形状のものを構えた男がいた。
形は弓だが、黒く揺らめく炎のようなもので形作られていた。かつ、男には見えるものの正確ではない。なぜならばフードを被っており、体格的にはそう見えるというだけだ。
「おい、大丈夫…」
「黙って…。……、なぜ? 手出ししないんじゃなかったの?」
カナリアはフードの男に向かって声をかけた。
「それに答える必要はない。抵抗するならお前も処分対象にする」
「くっ!」
男は弓を放った。カナリアはとっさに剣を顕現させ薙ぎ払った。
「がはっ…。これ…は…」
「どうやら、毒が回ってきたようだな…さぁ。邪魔者もいなくなったし幹久誠くん。君のお手前はどうかな…」
不敵な笑みを浮かべ歩み寄ってくるフードの男。ゆっくりと歩を進めることから俺に対して優勢であると感じていることが分かる。
あきらかに舐められているものの、その力の差は事実であるがゆえに悔しさが滲む。
(魔法は想像…なにかないか……)
とりあえず手のひらをあいてに突き出し牽制した上で考える。あのとき出したレーザーを…。
「行けっ!」
瞬時に手をピストルのようにし、フードの男に向け人差し指の先から高熱線を発射させた。
「おおっと…危ないねぇ…気づくのが遅かったら撃ち抜かれてたね」
俺のレーザーを瞬時というか瞬間移動して避けたように見えた。相手に当たらなかったレーザーは木にぶつかり細い穴をつくった。
フードの男は終始俺と対峙するときだけは笑顔だ。それが異様に気味が悪い。
(くそっ…あいつを倒す方法は)
『コロセ……コロセ……ゾウオヲ…ソウゾウ……セヨ…』
「うあっ!?………」
「? ククク…降参かい」
俺は縋ってしまったんだ…。胡散臭いと感じながらもこいつを倒せるならいいと思ってしまったんだ…。
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「はっ!?」
まるで悪い夢でも見ていたようだ。
慌てて周りを見渡す。この自分の体重を支えてくれる感覚はベッドにいるということとカナリアがその側で突っ伏して眠っていたのがわかった。
そして悪い夢でも見たかのようにびっしりと汗をかいていた。
とりあえず生き残れたのだろうか…。
痛覚はある。あれから記憶がないが…助っ人でも現れたのだろうか…。
「んん……起きたのね……」
「あ、ああ…。一応な。でも…ほとんど覚えてないが…」
「……………そう。あなたは知らないほうが幸せだと思う。じゃ、これから会議があるから行くわ」
カナリアは話を短く切り上げ、部屋を出て行ってしまった。
その言葉には踏み込んでほしくないというという雰囲気があったため踏み込めなかった。
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