第14話

「今日は魔法についてイメージをつけてもらう」


 教師の牧華蓮が黒板に魔法と漢字で記した。


「魔法と聞くと…どんなイメージだ?」

「非科学的現象…とか?」

「杖?」

「光のビームで打ち合い?」


 先生が前から順に次から次へと当てていく。特に正解不正解とは言わなかった。生徒も思い思いに発言していた。


「……ふむ、これくらいかな。いいだろう。みんなの見解的に摩訶不思議な現象というイメージだと思う。そのイメージを大事にしてほしい。その頭の中に浮かべた魔法というものそのものが魔法と言っていいだろう。それは、イメージであるがゆえに千差万別だということも理解してほしい」


 俺はやはり前世の記憶があるだけにゲームの世界を想像してしまう。俺の魔法の由来はほぼほぼここから来ている。


「だが、イメージすることは魔法を使えない人にも容易にできる。それを現実世界に引っ張り込めるかが魔法師と一般人との違いだろう。ちなみにこれは秘匿事項なため、ほとんどなぜ違うのかについては結論がついていない」


 そういう能力が備わっているという認識で良いだろう。それは、人間の進化の過程なのかどうかは推測の域を出ないが、魔法師は今現在では1%にも満たない数であるようである。


「だが、イメージを現実に引っ張り込むために私達はエネルギーを使う。だから、使いすぎればエネルギー枯渇で死んでしまった例もある。逆に高度にイメージした魔法も同じようにそれだけ複雑な魔法故に膨大なエネルギーを必要とし構築できずに死んでしまった例もある」


 であるがゆえに、無理な魔法イメージの行使はそれだけで身を削ってしまっていると思った方がいい。


「しかし、この魔法発動に必要なエネルギーを少なくすることが可能だ。ではそれはどうすればいい?澤井、どうだ?」

「うひゃ!? ええと……何でしたっけ?」

「私の授業で寝るとはいい度胸だな。これで魔法使えないと他ができても退学だからな…。分かってるよな?」


 澤井の席は俺の前、一番うしろから一つ前であり教壇からは遠いはずなのに、魔法で無理やり口角を上に持ち上げられ、体も浮かされてた。遠距離からの正確な魔法に俺は声が漏れた。


「んじゃ、これが魔法だと気づいた幹久。答えられるか?」


先生に指をさされ慌てて席を立った。


「ええっと…色々あると思うんですが、まずは同じイメージで魔法を発動することによるパターン化。それか、難しいんですがイメージを魔法にする際の変換効率をあげること…でしょうか」


 俺の発言したことを華蓮先生が黒板に書き出していく。


「変換効率を上げることは並み居る魔法師でもずっと続けていかなくてはならない。だがそれでも魔法の保有量は絶対値と言われている。残念なことだがそこばかりは個々の素質となってしまう。そこばかりは才能…だろう」


 魔法への変換の際のエネルギー自体は人体で言うところのATPのようなエネルギーではない。だが、枯渇して使用しようとすれば死にいたるという矛盾じみた形になっており魔法変換のエネルギーが実際に何なのかは分かっていない。


「他にも効率化には様々あるが、ここまでにしておこう。ちょうどチャイムも鳴る頃だしな」


 挨拶を行ったあと、華蓮先生が出ていく。

 その後いつも通り周りで喋りだす声が響く。


「理屈はなんとなく分かるけどよ。やっぱ実感ねえな、魔法なんて…」


 まだ自分から発動できていないものに対して座学でというのは難しい話だったかもしれない。ただ、あれを理解しなければそもそも魔法を発動できないし、むしろ変な使い方をしてそれこそ死んじゃうなんてこともありうるから必要だと思う。


「お前は自在に使えるの見ちゃったし、ほんとに存在するんだなーというのはなんとなく飲み込んだけど、何処か上の空って感じだ」

「そうだな。俺も半信半疑の頃があったが、自分で発動できればその不安はなくなるんじゃないか?」

「んじゃあさ。今日付き合ってくれよ」

「魔法?」

「おお! 発動だけでもいいから教えてくれ」


 ということで放課後に爽にレクチャーすることになった。


「魔法の発動はさっきの授業の通りイメージだ。今日は炎くらいでいいと思う。手の上に炎があるイメージを作るんだ。最初は目を閉じてからでもいいぞ」


 競技場の隅を借り、爽に向かい説明していく。


「おう! んじゃやってみるぜ」


 爽は目を瞑り意識を集中していく。そのまま手を出した。


「あちっ!」


 一瞬手のひらに炎が上がったが一瞬だった。手を触れてしまい慌てて手を引く。

 思わず笑みがこぼれてしまった。自分も同じことをした覚えがあるからである。


「いい感じじゃん。そのイメージをそのまま維持させるんだ…やってごらん」

「へへっ、おう!」


 まるで子供のように魔法を行使する爽。今度は炎を手のひらに浮かぶように出現させ、それを手の動きに連動させるように動かしてみせた。

 飲み込みがよく、それでいて応用も難なく自発的に行って見せている爽はまさに磨けば光るという感じに見えた。

 数回繰り返した後、爽はへばって壁に持たれて腰を下ろした。


「なんか、運動したような感じだな…。走ったりしてねぇのに息が上がるなんて…」

「まぁ、そんなもんだろ最初だし。達成感は十二分にあったんじゃないか?」

「ああ! そりゃもう。俺でも魔法ってやつが使えるんだって実感したらすげえ嬉しくなってさ…」


 興奮しすぎたところでエネルギー切れだ。爽はまだ生存維持意識があるようで、スイッチが切れたように眠りについてしまった。


「おう。やってんな」

「ああ…先生。見てたんですね」


 静かになったところで華蓮先生が来た。どこかしらで俺たちの様子を見ていたようだ。


「おまえは一応監視対象だからな。先生という立場を利用して君を見守ろうと思う」

「それは…どうも」


 臆面もなくきっぱりという先生に少し恥ずかしさを覚えた。先生から目線を外した。


「それと同時に君を鍛えようとも思う。それが生徒会長アイツとの違いだ。おまえは今のところかつてのコバルトのようになるような思想はない…しかし、何かしらに利用され自身の意志とは無関係に反逆の片棒を担がされるということはあり得るかもしれない…。それに対抗するために我々もいるが、私はお前自身でも自分くらい守れるように力をつけるべきだと考えている。それが相手にとっても抑止力になると思っている」

「まぁ、ただ守られるだけの姫状態にはなりたくなかったので願ってもないお話です。そもそもここに来たのは父からの勧めでもありますが、それ以上に魔法について知りたかったというのが大きいです。ぜひよろしくお願いいたします」

「うむ。承知した」


 ここで先生との特訓が始まったのだった。




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