第12話
今日はこれで開放された。
毎日招集されるわけではないということに関しては少しだけだが、安心材料といったところだった。
ため息付きながら、寮に帰った。
「ただいま…」
「あら、おかえり」
返ってくる声はない…と思っていた。
「は?! あ、ああ…」
一瞬なんでと思ったが、そういえば同部屋だった…。彼女がいるのは不思議ではない。……不思議ではないのだが…刃を向けられたのに平然としていられるわけない。
「安心して。もう刃を向けることは原則しないから」
「その原則が信用できないんだが…」
「本当に悪逆非道のコバルトみたいになったら…よ」
「そ、そうか…」
言質が取れただけでも安心材料だった。毎日緊張した日々を過ごすのは嫌だからな…。
「でも監視はさせてもらうわ。明日からよろしく」
「あ、ああ…分かった…」
今は殺されないだけマシだと思った。変な緊張感だけは拭えない…が、風呂に入ったあとは疲れてしまったのかすぐに眠ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーー
朝…天国ではないかと思いながら起き上がるもののいつもの部屋の光景に安堵する。彼女は前と同じでもうすでにいなかった。
ベッドを起き上がり準備し、食堂に行った。
「ようおはよ」
「おう…」
席につくと爽と出会った。爽も朝飯をとるとこらしい。お盆を持って向かいに座った。
「で、昨日はどうだったんだ?」
「ん? ああ…まぁ、普通に生徒会に入れって言われたが…半強制的だったわ」
「いやいやいや、生徒会に入れるなんてお前すげぇな! 生徒会なんて実力集団の集まりだぞ。実践経験ありありの」
「んまぁ…そうだよな…」
「おいおい…なんか感動薄そうだな…その中に入れるってことはお前の実力を認められたってことじゃないのか?」
「んや、残念ながら…」
理由は話すとややこしいだけだし、より俺が殺されるので言わない。
はぐらかしてるのか?とか言われたが当然俺はそんな実力はない。簡単に話を切り上げ登校することにした。
「………おい」
門をくぐろうとしたところで、声を掛けられる。そちらに目を向けると副会長、塩木 武久だった。
「なんですか? 塩木先輩…」
目を見るだけでいい感じはしない。見るからに俺に対して嫌悪感を向けてきていた。
「単刀直入に言う。生徒会に入るのをやめろ」
「やめられるものなら辞めたいですよ俺は」
「なぜだ?」
塩木は首を傾げた。俺のその返しは塩木にとって意外なものだったようだ。
「詳しく理由は言えませんが、生徒会長に俺が爆弾だと思われているらしいです。だから、近くにおいておきたいみたいです」
「爆弾?…まぁいい。それより生徒会に入る男には恒例行事がある。ついて来い」
「え?あっ…ちょ」
手首を取られ引っ張られた。そのまま、演習場へと連れて行かれた。周りの人たちから、驚きの声があったり慣れているのか苦笑いの生徒もあったり様々に疑問が浮かんだ。
対岸へ引っ張られた。塩木は反対側へと回った。
「これは恒例なんだが実力差を見るための上級生との演習だ。本来ならいじめのような複数対一人って感じの嫌な恒例だ…」
周りを見渡した。見物客は始業前なのだが、物見遊山で来た新入生くらいで上級生はほとんどいない。これが不毛な慣習と分かっているのだろう。
「先輩一人ですか? 手加減ありがとうございます」
「物分りはいいようだな…」
「お褒めと捉えておきます」
「挑発か?」
「いえいえ、滅相もございません。ともにやっていく仲間と思っていますので」
塩木は口の端を一瞬釣り上げた。
「では、ルールを説明する。基本的に普通の一対一と変わらない。殺傷性のある大規模魔法の使用は禁止、戦闘続行不能と審判に判断されるか、壁に激突した時点で終了だ。審判はー」
「審判は私です。ルール違反はできないと思ってください」
いきなり生徒会長武田鳳梨が現れた。二人の中間の位置に立った。これには塩木先輩も驚いているようで想定外だったようだ。
「まぁ、いいだろう…。武田先輩、合図をお願いします」
「分かりました…。では…初め!」
「アイシクルランス!」
「くっ!」
氷の槍が先輩の周りに形成されていく。時間がかかっているのは少し安心材料といった感じだ、が、これの対処方法が思いつかない。
『視覚拡張…自己強化…自己加速…』
頭の中でこの槍を躱すイメージを行う。
槍が降り注がれるのに合わせて、避けていく。加速していくからだが、自身からはスローの風景になっている。
「ほぉ…。この槍をすり抜けるとは」
「はぁ、くっ…簡単ではありませんけどね…」
息が上がり、頭に手を当てた。強烈な頭痛が襲ったのだ。スローの世界から元の世界に戻った副作用だ。魔法だと思っていたが、つい最近違うのではと思い始めた能力だった。
「ほう。身体能力強化か…だが、完全には魔法として発動できていないらしい。やるなと思ったが、まだまだだな…」
この時間塩木先輩一歩たりとも動いていない。力の差を感じさせられる。
再び氷の槍が先輩の周りに形成されていく。
このままでは完全にスタミナ負けだ。いずれ、俺が耐えきれなくなってしまう。
魔法は想像を具現化する力だ。信じるものが大きければその再現度は高い…。
(想像しろ……最強の自分を)
槍が飛んでくる。先程よりもスピードを変え、速くなってるのが分かる。
(創造しろ…ここで一矢報いる方法を…っ!)
人差し指を先輩につきたて、手の先にエネルギーを溜め照射した。
「ぐっ……!」
手先に集中した為に、槍が避けられずまともに食らった。幸いにも殺せないためか、槍の先を尖らないように平らになっていた。
「あぶねぇ…」
痛みを耐えなんとか立ち上がる俺に驚きの表情を向けてくる塩木先輩。
「もし当たれば死んでいたかもしれないですね…さしずめレーザー光線を魔法で生み出した…というところでしょうか」
残念ながら狙いを外してしまったようで、壁に穴が穿たれていた。自分でもレーザー光線みたいなエネルギーをイメージしたが、結果までは想像していなかった。もし当たっていたら明らかなルール違反だった可能性が高い…。
「おい…こいつは魔法は初歩的しか知らないほぼ素人じゃあなかったのか」
「そんなこと言いましたっけ?」
塩木はあまりに驚きすぎて、生徒会長にタメ口きいてしまっていた。生徒会長はどこ吹く風という感じだが、俺ですら知らなかったのだから当然はじめてみただろう。
「誠くん。さっきのは素晴らしい魔法でしたが、当たれば即死だと思われます。これからは使ってはいけません」
「はい…」
「とりあえず仕切り直しです。再開してください」
生徒会長の号令とともに再び、塩木を見る。
「くそっ、思いっきり手加減するつもりが……っ!」
悪態をつく塩木。なにもないところで蹴りを入れていた。そして睨みつけられた。相当苛立っているようだ。次は容赦ない一撃が来る…。とにかくそれに備えないと。
(衝撃吸収用フィールド全面に展開…自己強化…再構築)
「ちっ、基本はやってきている…。手加減しても勝てるかと思ったが、どうやら認識を改める必要があるようだ」
三度氷の槍が形成されていく…が、言葉通り鋭利なものになって言っているのがわかる。
鉛筆のように形成されていく氷の槍…。
「行け! アイシクルランス!」
塩木の号令とともにスピードを持って俺めがけて槍が飛ぶ。
「くっ!(インターバルがあったが使えるか…)」
(イメージしろ…自己加速…、視覚拡張…ぐっ!)
予想以上に槍が速い。ギリギリのところで身体をのけぞらせるが、今ひとつスローモーションにならないせいで避けきれなかった。
「うがっっっ……!!」
初めてくらいの痛みだった。正面衝突は免れたものの、胸の部分に亀裂を入れ皮膚がめくれ上がり血を吹き、腕にも他のランスでかすり傷を追った。それらを一気に受けたため膝をつくほどの痛みが駆け巡った。
「チェックメイトだ」
塩木は人差し指をこちらに指し、氷の槍を作り出す。
(避け…?!)
気づいたときには遅く、なんとか自己強化することくらいしかできなかった。
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