第7話 寮

 部屋をあとにし、やっと落ち着けると渡されたプリントを頼りに学生寮へと向かった。学園の門を出て、坂を下ったところにあるようだ。少し歩かなくては行けないが、自宅からよりはマシだと自分に言い聞かせた。


「こ、こか……」


 期待してはいなかったが、あまりキレイなものではなかったのは言うまでもない。コンクリート製でざっと30年は経ってそうなある程度の古さがある。

 気にしないことにして、中に入ることにした。


「失礼しまーす」


 おずおずと中に入る。

 中自体はリノベーションされているのかちょっとしたホテルのようだった。思わず、おお…と感嘆の声が漏れた。

 周りをキョロキョロと見渡す。正面にソファなどがありロビーのような感じ、そこから二手に道が別れ、女子と男子みたいな形になっているようだ。

 俺は右に折れて、自分の部屋番号を探す。俺の番号は分かりやすく111だったので奥に行けばある。思惑通り、あっさりとその部屋番号を見つけた。

 同居人がいるかどうかは聞かされていないが、もしいたら勝手に入るのは失礼に当たると思い、ノックすることにした。


「失礼しま………す。誰も…いない…か…」


 寮ということでルームメイトでもいるかと思ったが、部屋の中はシーンと静まり返っていた。しかし、部屋の中にベッドが二つあるのを確認しルームメイトがいるかもしれないとは思った。


「もしかしたら、まだ帰ってないだけかも…な。よし、それじゃ荷ほどきしようかな」


 誠はキャリーケースを開けクローゼットに服、机に本などを配置していった。今日から自分の城になるのだからより、快適にするためにも準備は必要だ。これをおろそかにしてしまっては秩序のない部屋になってしまいもしあとからルームメイトが来た際に幻滅されてしまうだろう。

 あまり、得意な方ではないが自分のものだけではないためきっちりしておくにこしたことはないはずだ。


「まぁ、こんなもんだろ」


 ということでなんとなくで配置した。

 時計を確認する。もう18時を回っていた。その時ちょうどノックの音がした。


「はい」


 ルームメイトかと思い返事した。


「失礼しまー…え?」


 それは高い声だった。明らかに男のものではない…。

 視覚でも女性だと確認した。


「え……? えっと、間違えてません? 部屋」

「ここは…111号室ですよね?」

「は、はい…そうですが…」

「これ、みてください…111ですよね?」


 プリントを渡された。

 見ると確かに部屋番号のあとに111と記されていた。


「な、何かの間違いではないですか? 寮か学園に問い合わせてみましょう…」


 そういうことで寮の電話から学園側に問い合わせると……。


「これは…あー。なるほど………問題ないな」


 華蓮先生からの返答はそんな感じだった。とても胡散臭いが…問題無しとの回答だったということで111号室に戻った。


「とりあえず、俺は幹久誠。1-6だ。君は?」

「……なるほど。私は、カナリア。カナリア・モーラスです」


 お互い呼び方がわからないと困るため自己紹介することに…。日本人ではないということは、留学生なのだろうか…それにしても日本語はなぜか流暢だった。


「外国人?」

「いえ、一応ハーフ…です。正式にはカナリア・黒峰・モーラスです。母が日本人で、父親がアメリカ人です」

「そうなんだ、日本語ペラペラだからびっくりしちゃって」

「そうですよね、よく言われます」


 そう言ったきりしばし沈黙…。いかん、異性との会話が弾まない……。

 そのとき彼女の携帯がなった。


「ちょっとすみません…」

「い、いえ…全然」


 むしろ、会話しなくても良くなったことに安堵感を覚えていた。


「ええ…はい…え? はぁ…なるほど。そ、そうですね…が、頑張ります。 は。そ、それでは…」


 一応聞いていたが、特に何を話していたのかは分からなかった。


「とりあえず、一緒と言われたんだけどとうしようか?」

「いえ、ここで良いです」


 なぜかキリッとした雰囲気に変わった。真剣な眼差しで見られているようで不気味さを感じた。


「そ……そうか…。着替えるときとかはなるべく外にいるようにするから言ってくれ…」


 ここで犯罪者になるわけにはいかない。了承してくれたとはいえ、モラルというものがあるだろう。

 そこでノックの音が…。どうやら、新人へ説明があるみたいだ。ここでのルールなどが上級生から説明されるとのこと。


「とりあえず行くか」

「はい…」


 ひとまず問題を横に起き、部屋を出ることにした。

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