第6話 忠告

「………」

「………」


 先生は何も話さない。そのおおきな背中に威圧感を感じる。そして、集中するとわかるオーラの醸し出しているこの膨大な魔法量に悪寒すら感じてしまう。


「それ。あんま使うな。気にしてもしゃあーないだろ? 魔力量の多さは強さに直結しないだろ?」

「え……どうして分かったんですか?」


 俺が尋ねると先生はようやく足を止めて振り向いた。


「おいおい魔力感知の授業もあるから時期にわかるが…そういうことだ」


 つまり、魔法を使ったということは知覚できるということだ。それは、視認する必要はなく感じるだけで良いということなんだろう…。

 つくづく恐ろしい人。敵にしちゃいけない人だとこのとき思った。

 さぁ、もう少しだと再び歩き出した。

 ……。


「ここだ。ノックしてから入れ」


 言われた通り、ノックを4回してから入室した。


「失礼します」

「はい」


 中にいたのはキレイな女性というのが正しいだろう。美しいスーツに見を包み、長い髪をなびかせていた。


「初めまして。入学式ぶりかもだけど対面するのは初めてですよね。私はアリシア ファーマスよ。一応、ここの学園長兼魔法協会日本支部のトップをしています。よろしくね」


 青い目に見つめられ握手を交わした。名前からして外国人だが、日本語は全く遜色なく話している。

 あとから華蓮先生も入室してきた。


「連れてきたぞー。これでいいか?」

「ありがとー華蓮ちゃん」

「はぁ…直接よべばよかっただろ。なんで私を使うんだ…ったく……」


 恨み節を残し、華蓮先生は退出した。


「さて。あなたを学園ここに入学させられたこと嬉しく思います。幹久誠さん。一つ、歴史の授業をしましょう…」


 そう言いながらソファーに案内された。そこに腰掛けた。アリシアはその向かい側に座った。


「では、魔法界でも神話というものがあります。魔法戦争という世界中を巻き込んだ戦いがありました。けれど、これは実際にあったことではないかと推察されています。誠さんは知っていましたか?」

「いえ…神話すらも初めて知りました」

「ああ…そうでした…私としたことが、今入学した生徒に何言ってるんでしょうね…」


 そう言って咳払いをする。


「つまり、魔法でこの世界を支配する側と影に潜んでひっそり派と二分した戦争があったの…。今もそうかもだけど、魔女狩りなんかあって魔法使いは抹殺の対象だったの」

「それをなんとかしようとした派と諦めた派ってことですね」

「ふふ…ぶっちゃっけるとそんな感じね。本題はここから…そのなんとかしようとする派のリーダー、コバルトの能力の一つが魔法を知覚できる能力だったの…」


 まさか、学園長にもバレてしまうとは…。父親との秘密にしろとの約束が守れない…。

 俺は片手で頭をポンッと触った。


「っていうのはあなたのお父様から聞いたことだからそんな卑下しないで…。あなたの能力がそのリーダーと同じ能力を持っているということはあなたが将来そういう道にいってしまう可能性がある…あなたの意志は関係なく…それを我々、諦めた派……ええと、穏便にしたい派は阻止したいの」


 諦めた派は使いたくないのか、オブラートに包まれた。とっさに思いついた言葉がだったのでつい口が悪くなってしまっただけで誠に悪気は一ミリもないが、アリシア的には嫌だったのだ。


「でも、魔法によって警察などの公務員系は助かるんじゃないですか? 犯人逮捕を迅速にできると思いますが…?」

「公式に認められればそれをしてもいいかもだけどやっぱり国際的にも一応魔法の存在は否定されているから難しいわね…でも、警察、みたいなことはやってるわ」

「それは?」

「君たちみたいな潜在魔法使いの保護よ。やはり、異能使いというのは基本的に忌み嫌われる傾向にあるわ。だから、その人を保護して正しく魔法を使ってもらう…もちろん、悪用している人も稀にいるからそれは…なるべく保護しているわ」


 最後の一言は少し学園長にも表情が曇る。つまりは、こちらの提案を受け入れるならば保護。でなければ抹殺というかたちだろう。魔法師は人権を尊重されるべき存在かもしれないが、また魔法師が社会を混乱させている要因にもなっているわけだ。まさに板挟み状態…。


「今はやはり風当たりが強い…。でも、いつかは魔法師と普通の人が共存できる世界ができると信じてるわ…」

「……それで、俺はそれを脅かす不穏分子というわけですね」


 学園長が言いたいのはいわゆる隔離だ。保護とはいっているものの、俺にとってすれば要するに、危なかっしいから管理しておきたいってことだろう。そんなつもりは毛頭ないが…。なんか、気にしてくれてるのはむしろありがたいかもしれない。少し、悪い子ぶってみることにした。


「君に今のところそういう意志がないのは分かる。でも、それは私から見たらって話。まだ、伝えていないけど海外ではまるで核爆弾のように君を危険視されるでしょうね。今ここで抹殺しようなんて言い出しそうだわ」

「……まじすか……」


 それは過激すぎないかと思ったが、それだけ危険視されているということだけは理解した。


「なので、学生として過ごしてもらうのは全然構わないけどなるべく問題は起こさないでね」


 笑顔でそんなこと言いつつ、「じゃないと殺さないといけなくなるから」と付け加えられた。結局、恐怖心だけ植え付けられて、学園長室を後にすることとなった。

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