14【いざ、王宮へ】
休日の指定された時間に、いつもの迎えがやって来る。
アレクシスを乗せたハデ金の馬車は王宮の裏門、それも使用人が利用する門の前に止まった。婚約者とて未だ身分はただの貴族である。それも低級の。
本日の来訪は正式な政務ではなく、私的な招待なのだ。王太子の婚約者となっても、それは決定ではない。これから様々な行事、集まり、ホームパーティーなどに参加しアレクシスは、言葉は悪いが値踏みされる。王族、側近の重臣などにだ。
王宮内に自由に出入りできる身分として、婚約者の肩書きが必用なのであった。
一連の行事のあと、もし大勢のお眼鏡にかなわなければ待っているのは、王太子による婚約破棄宣言だ。アレクシスの希望でもある。
アレクシスの姿を見咎めたメイドが、控え室まで案内してくれた。迎えるのは王室付侍女長のバーバラである。
「アレクシス様そのままの姿を皆様にご覧頂きます。本日は
「いつも遠くから眺めるだけの神様のような皆様と食事を共にするなど、どうにかなってしまいそうです……」
「王族は神ではありません。人間です」
そういえばマティアスにも同じことを言っていたとアレクシスは思い出す。
かつての政策のなごりもあり、人々は神話の時代と今を重ね合わせて考えがちであった。
しかし先王は、神は神であり王族は人だと説いていた。現王も同じである。
「同じ人間の私としてはホッといたします」
「はい。私も最初はそう思いました」
そう同じ人間なのだ。アレクシスは肩がスッと軽くなるのを感じた。
「わたくしは何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「侍女の私には分かりかねます」
バーバラは素っ気なく言った。背中のボタンを留める。
「わたくし何を話せば――」
「いつもとおりでよろしいかと。自信をお持ち下さいませ」
自信はないし、王族の晩餐会がいつもとおりでよいとも思えない。続いてヘアメイクは前回と同じであり、メイクはほんの少しである。
「ではお迎えをお待ちしましょうか……」
アレクシスの準備は整った。一度他のメイドが控え室の様子を見に来て、バーバラが対応した。
「もうそろそろですね……」
「はい……」
扉がノックされ、アレクシスはドキリとする。
「ご返事を……」
バーバラが小声で促す。
「どっ、どうぞ」
緊張のためアレクシスの声は裏返ってしまった。
「やあ、準備は整いましたかな?」
王太子ヴィクトルその人が、闊達に扉を開けて入室する。立ち上がったアレクシスをまじまじと見つめた。
「うん、良い感じだ。バーバラありがとう。これならば叔母たちも気に入ってくれるだろう」
「私にできるのは
「出たとこ勝負だね。なるようになるさ。私も助力するから……」
そんな会話を聞いているアレクシスは、ますます不安になるのだ。
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