2章 指輪の交換と魂の姉妹

第01話 織ねぇが現れた▶逃げる ボスからは逃げられない

(はぁどうしたものかな) 


 5月の連休が明けて早1週間、教室で俺は読む気もない教科書をパラパラと捲りながらどう行動するべきか考えている。


 登校初日から今日までに分かった事は、既にクラスではグループ分けがされているという事だ。相変わらずたまにこちらに目線を向けては来るが話しかけてくるでもない複数の集団、その集団も大別して2つに分かれる。


 その2つとは4月の入学式を終えて入学したグループでが新入組、もう1つは大厄災関連になるのだけど、急遽編入する事になった人達が集まって出来たグループこちらは編入組という感じになっている。


 中等部1年は1クラス30人、それが3クラスで90人という所だろうか、中等部2年は編入組が少しだけ入ったようで25人クラスが2つ、中等部3年以降の高等部では編入生の受け入れはなかったようだ。


 そして俺なのだけど、立場的には新入組なのだが実状としては編入組というおかしな状況になっている、編入組は4月半ばに編入してきているから、それより遅い入学になった俺は余計どっちつかずの状態になってる。


 どちらからもお声がかからない理由は前述した通り連休中に学生寮入りしたのも原因の1つなのは言うまでもないだろう。何故遅れて入学する事となったかはあの儀式が終わった翌日の朝、俺の身に起こった事が発端だったりする。


 ◆


 儀式の翌日の朝目覚ましが鳴る前に目が覚めた、時計を見ると5時まで後5分と言う所だろうか。マリナさんを起こさないように目覚まし時計を止めてベッドから降りジャージに着替える……あれ?なんだか服の大きさが合わないような、そして胸がきつい?


 少し体に違和感を感じながら部屋を出て洗濯場に下着とパジャマを纏めてカゴに入れリビングへ、リビングには母さんと姉さんそしてアリアさんが既に起きてコーヒーを飲んでいるようだ。相変わらず早起きだなと思いながら「おはよう」と声をかける。返事がない、みんなの表情が驚き顔になっている。


 あ、これ知ってるやつだ前にもあったな、なんとなく察した俺は洗面所へ向かい鏡を確認する、鏡の中には美少女が……このくだりはもういいか、昨日より成長した姿の少女が映っている、身長が見た感じ5cmくらい伸びている気がするし、腕もジャージの袖からはみ出ている、足元を見てみるとつんつるてんになっていて足首が出ている、後は髪も少し伸びているようだ。


 なんか前に1週間がどうとか聞いた気がするなと思い出しつつすごく冷静な自分に少しの驚き、それと共に幼い男の子の部分が消える寂しさを感じた。リビングに戻ると母さんが「怜ちゃん大丈夫?」と心配気に聞いてきた。


「母さんごめん、制服とか注文し直さないといけないかも」


「そうね後で沙織に連絡しておくわ、あと入学の時期を遅らせる事も」


「やっぱりそうなるよね、この変化って望姉さんが前言ってたように一週間くらいかかるのかな?」


 望姉さんに聞いてみると「私の時はそうだったけど、怜の場合はわからない」らしい。アリアさんと望姉さんの意見を聞いた限りだと、昨日の儀式で認識が変わりそれにより俺自身の神気が最適化されたのが理由かなという結論に至った。こんな事ならもっと早く儀式をしておけば良かったと思うと同時に、学院に入ってからこの変化が起きなくて良かったとも思った、何事もままならないものだ。


 このままグダグダしてても仕方がないので、気分転換も兼ねて望姉さんにジャージを借りて日課のランニングに行くことにする、雨や風が強い日は流石に休むけどこう天気が良い日はやっておかないとな。


 少し出遅れて既に朝日が顔を出しているが準備運動を済ませ走り出す、昨日までと少し体幹バランスが違うが5分も走ればそれも修正されてきた、うんスペックは良いよねこの体。


 往復で1時間ほど走り家に帰り着く、いつもより遅い時間だったので太陽はもう上がり、そのせいか普段より汗だくになっている。息を整えつつ軽くストレッチをして家の中へ。


 家に入ると母さんだけが居て、望姉さんとアリアさんそれとマリナさんが居なかった。聞くと俺がランニングに行っている間に、食事を済ませ帰っていったようだ、望姉さんは見送りに近くの駅まで付いて行ったとの事だった。


 挨拶とお礼を言いたかったのにな、マリナさんとは学院で会うと思うからその時で良いか。アリアさんには望姉さん経由でお礼を言っておいてもらおう。この後はお風呂を済ませ昨日のカレーを食べてリビングでぼーっとしながら、また下着とか買いに行かないと駄目なのかな、またすぐに成長したら無駄になるしどうしたものかななど考えていた。


 結局俺の成長が止まったのは2週間後だった、もう1週間もすると連休に入るというすごく微妙な時期だったので、5月の連休中に学生寮へ入る事になった。


 その間何をしてたかというと、学院から取り寄せた教科書と明海ちゃんが送ってくれるノートの画像を使って勉強をしたり、後は鍛錬場を借りて神気で何が出来るか試したりなどをしていた。望姉さんも大学に行くようになったので、出来ること言えばそんな事しか無かった。


 そして成長が止まった後の週末に再び下着を買いに連れ出される事となり、ランジェリーショップに放り込まれ俺は悟りを開くことになった……。悟りを開いたのは冗談として、再び一騒動あったが記憶から消してしまったので何があったかは覚えていない、ちなみにBよりのCとだけ言っておこう。学院に着いてから荷物の中にベビードールが入っていたのなんて見ていない、封印指定呪物として厳重に封印している着る機会なんてねーよ。


 ◆


 そんなわけで今である、最終的に俺の成長は身長が大体150cm近くまで伸び、手足もすらりと相応の長さになった、髪は腰辺りまで伸び少し座る時に邪魔ではあるがなんとか頑張っている。後は目鼻立ちもスッキリした感じになり、ふっくらしていた頬もスラッとなっている、かわいいからきれいに進化したと自分では思う。


 現実逃避はこの辺りで終わっておくとして、何の話だったっけ? ああグループの話だったか、男の時なら「そんなことよりサッカーしようぜ」みたいなノリでなんとかなったと思うのだけど、女の子のグループに突入するのは難易度がインフェルノだと思う。


 女の子同士の会話なんてどうやったら良いんだ?それより最初はどう話しかけたら良いんだ?新入組と編入組どちらを選べば良いのか、そんな感じで既に一週間身動きができないでいる。


 こういう時はほらあれだ、世話焼きの眼鏡の似合う学級委員長辺りが気を利かせて話しかけてくるものじゃないのだろうか、うんそうですかそう言ったサービスはやってないみたいですね。


 そんな感じで本日の授業はつつがなく進みお昼休みになった。明海ちゃんのノートのお陰と予習をしていたので問題なく授業は遅れる事無くすんでいる。


 この学院は1時限が50分の午前3限午後3限となっていて、そしてお昼は2時間と長めになっている、お昼が長い理由は構内に学食が無いため自前でお弁当を用意していない人は寮に食べに帰るか購買でパン類を買うか、もしくは学院の外周にあるレストランなどに食べに行くため長く取っていると聞いた。


 この学院の校舎は凵の字を逆さにした形になっていて、西側が中等部、東側が高等部、そして北側が職員室や保健室などの他に特別教室が集まっている。そして学生寮は校舎の南側に4つ並ぶように建っている、去年までは3つの寮を使っていたみたいなのだけど、編入生が来る事により4つ目が開放されたみたい。大体一つの寮が80人前後になり、編入組が開放された寮にまとまって入っているようだ。


 部屋に関しては基本二人部屋になっているのだけど、寮ごとに120部屋くらいあるので二人部屋を一人で使っていたりもするみたい。部屋にはキッチンやトイレとお風呂それに洗濯乾燥機も完備されていて、下手なホテルより充実している。


 そして俺は明海ちゃんと同室になっている、色々助かるのだけど元男の俺と一緒の部屋で良いのかとそれとなく聞いてみたら「何を言っているのですか、怜ちゃんはどこからどう見ても立派な女性ですよ」と真顔で言われて、それなら良いかとなった、これで同じクラスなら良かったのだけど残念ながら違うクラスだった。


 その事も俺が現在クラスでボッチを満喫している理由の1つでもある、学生寮だと明海ちゃんと一緒に行動することが多い、つまりは寮生で仲が良くなるのは自然と明海ちゃんのクラスメイトになってしまっている。つまり学生寮に入ってから今まで俺は自分のクラスメイトとの交流が取れなかったというわけだ。そもそも編入組は寮が別なので余計に疎遠になっている感じだ。


 さて今日のお昼は寮で食べようかと思いながら席を立った時に、突然教室の引き戸が勢いよく開きバンという音が鳴って勢いがありすぎたのか閉まった。教室に残っている人が注目する中、再び引き戸が開き「怜ちゃんみっけ」と織ねぇが現れた、何をしているのだろうかこの人は。

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