第10話 望姉さんとお姉さま

 お買い物の日から2日たった、川島さんの事が気になって気が気でなかったけど、ランニング中にすれ違う人にはまだ女装癖という噂が広まっていないようで少しホッとしている。


 今日は魔術結社から人が来る予定の日だ、儀式は夜にやるようなのでまだ来ていない。晩ごはんまでまだ時間があったので、リビングでスマホをポチポチしていると、チャイムの音が聞こえた。母さんは晩ごはんを作っている、望姉さんはたぶん部屋にいるのだろう、父はどこかにでかけているようで居ない、俺が出るしか無いようだ。


「はーい、どちら様でしょうか?」


『わたくし星宮と申します、魔術結社からご依頼の件で伺いました』


 魔術結社という事はきっとあれの件だと思う。


「母さん魔術結社の人が来たみたいだけど、上がってもらったら良いかな?」


「あらあら、早かったのね取り敢えず上がってもらって、それと望ちゃんも呼んできてね」


「少しお待ってくださいね、いま玄関開けますので」


 急いで玄関へ向かい鍵を開け扉を開ける、外にはフード付きのローブを纏っている人物が2人立っている、どちらも女性だけどそんな格好で職質とか受けなかったのだろうか。


「お待たせしました、どうぞお上がり下さい」


「これはこれは、可愛いお嬢さんですね君はもしかして望の妹さんかな?」


 優雅に礼をしながら片方の女性からそう聞かれた、望姉さんの知り合いなのだろうか、見た感じ年20歳くらいだろうか髪は薄い茶色のショートヘアだ。もう一人はこちらも同じ髪色で同じ髪型で身長が今の俺より少し高いくらいだと思う。


「はい望姉さんの妹で怜といいます、姉とはその仲がよろしいのですか?」


「これは失礼、私は星宮アリアだ、神樹女学院に通ってる頃に君のお姉さんとは先輩後輩の関係だったのだよ、それとこっちは私の妹で星宮マリナだ」


「星宮マリナです」


 アリアさんは名刺を俺に渡しながらそう教えてくれた、だから望姉さんの事を呼び捨てにしているのかと納得した。名刺には魔術結社宵の明星よいのみょうじょう日本支部、それと星宮アリアと名前が書かれている。


「えっと取り敢えず上がりませんか?その格好は目立ちそうですし」


 そう言って家に上がって貰い、客間まで案内をして望姉さんを呼びに行くことにした。玄関でローブを脱いだその中は背広姿だった、首から六芒星のペンダントを下げているのが見えた。


「それでは、姉を呼んできますね」


「それなら私も付いて行っていいかな、今日私が伺う事は知らないだろうから驚かすのもいいと思ってね」


 望姉さんの驚いてる姿を見るチャンス乗らない訳にはいかない。


「そうですね、それでは案内しますね、マリナさんはどうします?」

「ここで待ってる」

「分かりました、それではアリアさん行きましょうか」


 先導するように望姉さんの部屋に向かう、部屋は階段を上がってすぐの所だ。扉をノックしながら「望姉さん魔術結社の方が来ましたよ」と声を掛けると「分かったすぐ行くわ」との返答を聞き流し部屋の扉を開けた。


「怜勝手に部屋入ってこないで……」


 こっちを振り向いてアリアさんが見えたのか途中で言葉が止まったと思ったら、こちらに急ぎ足で駆け寄ってきて、そして俺を跳ね除けるように通り過ぎアリアさんに抱きついた。


「お姉さまいつイギリスからお戻りに」


「やあ望久しぶりだね、帰ってきたのは昨日だよ」


 俺の目の前でイチャイチャしだす二人、俺は何を見せられているのだろうか。望姉さんが頬を染めアリアさんとキスをしようとして止められているのが目に入った、このまま見ていて良いものなのかわからず動けずにいる。


「少し待ちなさい、ほら妹さんが見ているよ」


「あっ……怜は下へ行ってなさい」


「少し望と話したい事もあるし怜ちゃんにはマリナの相手でもしてもらえるだろうか、儀式はどのみち暗くなってからだからお願いするよ」


「あ、はい」


 俺はそれだけ言うと客間へ戻ることにした、階段を降りている途中で望姉さんの部屋の扉が閉まる音と鍵がかかる音が聞こえた気がした。あんな望姉さんを見たのは初めてで理解が追いついてない、中で何が行われているのか考えないようにしよう、きっと思い出話でもしているのだろう。


 客間に戻ると母さんが持ってきたのかお茶とお茶菓子が置いてあり、マリナさんがお茶を飲んでいる。


「えっと姉さんとアリアさんは何かお話があるらしいので先に戻ってきました」


「うん知っているあの二人はそういう仲」


 あーそういう仲なのかー……どういう仲なんだろう、ボクワカンナイ。いやまて、望姉さんには清春さんという恋人がいたんじゃなかったか? 良いのか? 良いのだろうか? 相手が女性ならセーフなのだろうか、なんか混乱する。


「改めて自己紹介する、私は今年から神樹女学院の高等部2年になる星宮マリナあなたの先輩になる」


「えっと、今年入学する神樹女学院の中等部1年の姫上怜です、よろしくお願いしますマリナ先輩」


「うん、学院で何か魔法や魔術関係の手助けが必要なら声をかけて来て良い、姉さんに望さんの妹だから目をかけてあげてと言われている、だから連絡先交換しておく」


「えっと嫌ではないですか?」


「別に嫌じゃない、髪が綺麗な子は好き」


 俺の髪を見る目がなんだか怪しい、髪フェチというものなのだろうか?マリナさんと電話番号とメールアドレス、あと通信アプリのID交換を済ませた、身内以外だと初めての登録だ。


 その後は魔術結社の事とか色々聞かせてもらった。昔は別々の組織だった魔法、魔術、錬金術を統合して1つの組織にしたのが今の魔術結社になるらしい。共通する点が多い事からその根本はもしかして一緒かもしれないと統合した時にわかったらしい、それからは技術を持ち寄りその技術を昇華する事に力を入れているとか。


 ちなみに統合することになった切っ掛けを聞いてみたら「スポンサーと資金不足」となんとも世知辛いお答えを頂いた。

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