第11話 魔法とは意外と地味だった

 暫くマリナさんとお話をしていると母さんが客間にやってきた。


「晩ごはん用意できたので食べてくださいね、怜ちゃんは望ちゃん呼んできてね」


 時計を見ると18時を回っている、窓の外を見るともうすぐ夕日が沈み夜になりそうな感じだ。


「あー望姉さん……姉さんかー」


「ほうら、良いから望ちゃん呼んできなさい」


「あのマリナさん一緒に来てもらえませんか?なんだか1人で呼びに行くの気まずくて」


「分かった、行く」


 二人連れ立ち望姉さんの部屋へ向かい、扉をためらいがちにノックする。中からバタバタと忙しない感じの音が聞こえてくる。

 イッタイナニヲシテイルノダロウ。


「えっと望姉さん、母さんが晩ごはん出来たからアリアさんもご一緒にどうかなって」


「わかったから、先に食べてていいから」


「あの、そのなんていうか、お幸せに?」


「アリ姉はご飯の前にお風呂借りた方がいい」


「マリナちゃんも怜も何馬鹿なこと言ってるのよ、いいから先に下に行ってて!」


「ふむ、久しぶりにお風呂を一緒するのも良いかもしれないね、望はどう思う」


「あっその……お背中流させてもらいます」


 俺はマリナさんとお互いに何とも言えない表情で向かい合い二人して「「はぁ」」とため息をついた後、そっと階下へ降りダイニングへ移動した。ほんと何やってるんだか。


「望姉さんとアリアさん飲み物でもこぼしたみたいで先にお風呂使いたいって、それと先に食べてなさいって言われた」


「あらあら、お風呂は湧いているから良いわよ、着替えとかは大丈夫かしら?」


「アリ姉も私も用意してます、私も儀式の後お風呂お借りします」


「アリアさんは望ちゃんの部屋で寝るとして、マリナちゃんは怜ちゃんと一緒の部屋で大丈夫?」


「大丈夫です」


 二人共泊まるのか……今なんて言った?俺の部屋で一緒に寝る? え? いや駄目だろ、中学生男子とは言え女の子と一緒の部屋に寝るなんて……あ、俺ってもう女の子になってるんだったわ、なら良いのか? 良いのだろうか?


「お風呂一緒に入る?」


「いえご遠慮いたします」


 無理だから、望姉さんとなら何度も入っているけど、初対面の人と一緒とか無理だから。なんかマリナさんと話していると無性に疲れると言うか何というか。


「望ちゃん達は置いておいてご飯食べちゃいましょ、マリナちゃんは辛いの大丈夫?」


「はーい」


「大丈夫です、ごちそうになります」


 晩御飯はカレーだった、これは明日の朝もカレーの流れだろうな。


「そういえば父さんは?まだ帰って来てないみたいだけど」


「お父さん?お父さんは今日は帰ってこないわよ、おじちゃんと一緒におばあちゃんの護衛として出かけるって言ってたわ」


「そうなんだ」


 父さんが家に居ないと言うよりも、母さんと一緒に居ない事が珍しい。今日は若い女性が四人いるわけで、父さんがいたら普段より肩身が狭い思いをしたのではないだろうか、あ、はい、ごめんなさい母さんを入れて若い女性五人ですね、怖いので睨まないで。


 ご飯を食べ終わり牛乳を飲んでいると、お風呂から上がった望姉さんとアリアさんが部屋に入ってきた。何故か望姉さんに睨まれた、そして俺は気づかないふりをして視線をそらす。なんとなく今日は関わってはいけない気がする。


 望姉さんとアリアさんが食事を終えた所で時間は21時になろうとしている。


「さて、そろそろ時間も良さそうだ、儀式を始めるとしようか。望どこかいい場所はあるかい?」


「お姉さま私の時は離れにある鍛錬場でやったのですが、そこで大丈夫でしょうか?」


 今俺達が住んでいるこの家は、ばあちゃんが当主になる前に建てた家だと聞いている、そして鍛錬場というのはじいちゃんのために建てたと前に聞いた。今は父さんがほとんど一人で使っているが、広さが40畳くらいあるので持て余しているようではある。


「ならそこで大丈夫だろう、マリナ用意はできているかい?」


「大丈夫」


「望それと怜ちゃん案内をお願いするよ」


「分かりましたお姉さま」


 母さんを残し四人で鍛錬場へ向かう、それにしても望姉さんのあの普段見ない姿を見ていると変な気持ちになる、嫌とかではなくて見てはいけない側面を見ているようなそんな感じだ。あとアリアさんの事をお姉さまと呼ぶの何でだろう、もしかして女子校特有のそう言う伝統でもあったりするのかな。


 鍛錬場に着くと、マリナさんが3畳ほどありそうな大きな紙を広げ板張りの床に置いた、紙には魔法陣らしきものが書かれている。


「さて、儀式と言っても簡単なものだよ、怜ちゃんはその魔法陣の上に座ってもらっていればいい、後は私とマリナで魔法陣を起動させれば終了だ」


 俺はその言葉に従うように魔法陣の中央で背筋を伸ばし正座する、初めて見る魔法というものに心がワクワクしている。実はこの儀式俺は居ても居なくても良いらしいのだけど、居た方が手早く済むみたいだ、元々俺が学院に行っている時にやる予定だったわけだしね。


 アリアさんとマリナさんが短い杖を取り出し魔法陣に杖を向ける。


「「――――――――――――――――――――」」


 呪文らしき物を唱えている気がするが俺には何も聞こえてこない、いや聞こえてはいる、聞こえてはいるのだけど頭が聞くことを拒否しているとでも言えば良いのだろうかそんな感じだ。5分ほど続いただろうか、急に魔法陣が光だしたと思えば、魔法陣の光が広がりながら上へ上がっていく、その光が天井を通り過ぎて行くのが見えた。


「ふぅ、終わったわよ怜ちゃん」


 無事に終わったようだ、すぐは確認が出来ないので信じるしか無いけどきっと大丈夫だろう。それと魔法というものは思っていたより地味な気がした、いや魔法陣が光って空へ上がっていくのはすごいと思うけど、なんかそれだけなんだって思った。


 魔法陣の書かれた紙を丸めるのを手伝いリビングに撤収。母さんに無事終わったよと報告して一休み。


「お風呂借ります」


「どうぞ疲れたでしょゆっくり入ってらっしゃい」


「怜ちゃん一緒に入る?」


「一緒に入りませんからマリナさんは早く入ってきてください、それよりアリアさんはもう一度汗流してきたほうが良くないですか?」


「私は大丈夫だよ、汗もかいてないし特に疲れてないからね」


 望姉さんがなんかずっとソワソワしているのがすごく気になる、気になるがあえてスルーだ。しばらくするとマリナさんがお風呂から上がってきた、ショートカットなので髪を洗うのも乾かすのも時間かからないのは羨ましい。そして俺もお風呂に入る事にした、入浴シーンはカットで特に語ることはありません。


 風呂から上がり髪をしっかり乾かし歯磨きと軽くストレッチを済ませリビングに戻ると母さん以外はもう部屋へ行ったようだ。俺の部屋は女になった時点で模様替えされていてかなり殺風景になっている、男の頃に使っていたあれこれは既に倉庫行きだし、追加で購入したものも殆どない。


 床に敷かれた布団でマリナさんがゴロゴロしている、入ってきた俺に気付いたのか布団を持ち上げながら敷布団をポンポンと叩きながら「一緒に寝る?」と聞いてきたが丁重にお断りさせていただいた、一緒になんて寝たら何されるかわかったものじゃない。出会ってから数時間しか経ってないがなんとなくマリナさんの性格がわかった気がする。


 時計を見るともうすぐ23時なる、明日も早起きして日課のランニングをしないと。目覚ましをセットして「電気消しますよ、常夜灯がいいですか?真っ暗が良いですか?」と声をかけると「真っ暗」との返答をもらったので電気を全消灯にした。


「マリナさんお休みなさい、変なことしないでくださいよ」


「おやすみ……しないよ、きっとたぶん」


 なんとも不安な返答を頂いた。明日は学院への移動だ、一応持っていく荷物は一通り準備済み。朝10時には迎えの車が来る手筈になっている。女子校とか不安しか無いけどなんとかなるだろう、自分で言うのも何だけど女子力はかなりのものだと思う料理以外は……どうしても料理だけは苦手なんだ。学院には生徒が使える調理場もあるみたいなので、そこで少しずつでも練習しようと思う。


 それではお休みなさい。


 2章「指輪の交換と魂の姉妹」へ続く。



─────────────────────────────────────

 これを持って一章終了となります。

 ここまでお付き合い頂きありがとうございます。

 次話は閑話になりましてその後から2章に入ります、続けてお読みいただければ幸いです。


 ★を頂ければモチベ上がるので頂けると幸いです。

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