第09話 薄布の舞う魔王城
そう俺にとっての魔王城それは……下着屋さんである。
いやほんと勘弁してほしい、外から見るのも恥ずかしいのに中に連れ込まれて店員にドナドナされてしまった。
「この子今日が初めてなので、サイズから測ってもらえますか?」
「かしこまりました、可愛いお嬢さんですね、お嬢ちゃんしっかりサイズを測って可愛いの選びましょうね」
すごくキラキラした目で見られると嫌とは言えず、試着室に連れ込まれてあれよあれよという間にサイズを測られたサイズ的にA95らしい、まあ最初の頃に比べると少しは膨らんできたけど相変わらずちっぱいです。ちなみに今は母さんが買ってきたスポブラを付けている、これで良いと思うんだけどなーとそう言ったら。
「怜あなた鏡を見てみなさい、可愛い娘が映ってるでしょ、こんな可愛い娘が普段付けている下着がスポブラだとどう思う?」
「いや別になんとも思わ───」
「駄目よ怜ちゃん、あなたはもう女の子なの、可愛いは正義なのわかる?わかった?わかったわよね?」
などとガッチリ肩を捕まれドアップでまくし立てられて反論をできるだろうか?うん、俺には出来なかったし何も言えなくなってしまった、そんな俺のこのなんとも言えない気持ちを誰か分かってもらえるだろうか。
結局その後は望姉さんが持ってくる下着の試着をすることになった、最終的に選んだのはスポブラとそれに合わせたショーツを3セット、ジュニアタイプのを3セット、フリフリの付いたのを3セット、パジャマとナイトキャップを3着ずつ、あとは追加で望姉さんが寝る時に着るといいよとジュニア用のカップ付きのキャミソールを3枚ほど渡してきた。
そこまでは良いんだ、だけど望姉さんこっそりベビードールなるものを混ぜるのは止めてくれ、なんで子供向けが置いている下着屋にそんなの置いてるんだよ、そういうのは大人向けのランジェリーショップとかに置くものじゃないの?見せる相手もいないのに誰がそんなの着るかバーカバーカ……こほん、失礼最近気づいたけどパニクると精神が少し子供に戻ってしまうみたいなんだ気をつけないと。それにしてもほんと望姉さんは何考えてるんだろ中学生に何着せるつもりだ。
初めての電子決済を使ってみたのだが、そのチャレンジはあっさり終わった、現金持ち歩かなくていいから楽だねと思ったけど、何かあった時のために最低限現金は持っておきなさいと言われた。
支払いが終わったタイミングで望姉さんに意趣返しのつもりで「清春さんだっけ?その人に見せるために自分の分買ったら?」と言ったら、頬を染めながら「買ってくる」とどこの乙女だよって反応されてこっちが困惑させられた。
買い物が終わり精も根も尽き果てた俺を見て、休憩も兼ねてお昼にしようという事になり移動していると突然声をかけられた。
「あら、姫神の奥さんと望ちゃんじゃない?お久しぶりね」
声をかけてきたこの人はどこにでも居そうな近所の噂好きのおばちゃんである、と同時に俺の小学生の時の同級生の親でもある人だった。この時点で俺の危機感はMAXである、うちの家族構成とか知ってる人だし、どう乗り切れば良いのかわからずとっさに望姉さんの後ろに隠れる様に移動していた。
「川島さんお久しぶりですね、娘の卒業式以来ですね」
「えっと娘さん?怜くんは男の子でしょ?」
「いえ怜ちゃんは女の子ですよ、ほら怜ちゃん望ちゃんの後ろに隠れてないで出てきなさい」
こう言われてはずっと隠れているわけにもいかず、渋々出ていくことに。
「お、お久しぶりです川島のおばさん」
「え?怜くん?あれ?怜ちゃん?」
川島さんがすごく混乱しているのがわかる、今の俺は男の時とは見た目がぜんぜん違うわけだし、身長も違うし髪の長さも違うそれに今は美少女だ、俺が同一人物だとは思えないと思うのだが。川島さんは少しの沈黙の後混乱から立ち直ったのか、俺のことを何か可哀想な者を見るような目で見てくる。
あ、これ多分母さんと望姉さんに無理やり女装させられてると思われてるやつやん、違うんやそうやないんやなんて言えるわけもなく、引きつった笑みを浮かべながら黙っている事しか出来なかった。
川島さんは母さんと望姉さんと何か話しながらこちらをチラチラ見てくる、そして俺が持つ下着屋の紙袋に気づいたみたいだ。しばらくして話は終わったのか俺の方に歩いてきてそっと俺の肩をポンポンと叩きながら「怜くんも大変ね……」とすごく優しい声で言ってくれたけど、すごくやるせない気分になったわ。その後すぐ用事があるということで川島さんは去っていった……ああ、これで地元中で俺の女装疑惑が広まってしまう、なんか泣きそうになる。
「のぞみねぇ……俺もうお外に行けないよ」
「大丈夫だからそんな泣きそうな顔しないの、あと俺は禁止って言ったでしょちゃんと私って言いなさい」
「そうよ怜ちゃんもうとっくに対策済みだから安心しなさい」
「ほらお昼は怜の好きなものでいいから、何か食べたいものあるなら言いなさい」
「……オムライス」
「わかったわオムライスね、美味しい店知ってるから行くわよ」
なんか既に対策済みらしい、この後も散々慰められお昼を食べながら対策を聞いた。望姉さんの時も似たような事があったので魔術結社の人に認識改変の魔法を使ってもらったらしい。
よくはわからないけど今俺が女である事は変わらないので、それが真実だったと思わせる魔法らしい、それを場所限定で発動すればあら不思議俺が元は男だったという認識が元から女だという認識に入れ替わるみたいだ。
今回も既に依頼済みで俺が学院に行った後でやる予定だったみたいだけど、先程母さんが電話で連絡をつけて急遽2日後に来てもらうことになった。広まった後にやるのと、広まる前にやるのだとやはり難易度が変わるらしいのだ。
お腹も適度に膨れたのと、精神的疲労で疲れたので帰りたかったのだけど、俺の財布とそれを入れるカバンを買おうと言うことになった。流石に俺の男の子が使うような財布は変えたほうが良いみたいだ、いやね俺もあの財布はどうかと思ってたけど買いに行く機会がなかったというかそんな感じです。
長財布にしようか折りたたみの財布にしようか色々迷ったけど、スマホも入れる事が出来る水色の縦型お財布ポシェットにすることにした、これならカバンを買う必要ないし良いんじゃないかな。
その後は何事もなくタクシーで帰宅を果たした。
さっそく買ってきた下着類を取り出し、タグ類を外して洗濯する事に、望姉さん指導の元一つ一つ手洗いで。
忙しい時は仕方がないけどブラはなるべく手洗いの方がいいらしい、寮だと洗濯場に出しておけば適切に洗ってもらえるらしいけど、覚えておいて損はないからと教えてくれている。
10着近くあったので結構時間がかかったけどなんとか終わらせ部屋で陰干し、自分の部屋にこれだけショーツとブラジャーが並んでいるとなんか不思議な気分だ。ショーツに関しては一つ一つ洗濯ネットに入れて洗濯機に放り込んで洗った。
それにしても今日は疲れた特に精神的に、下着屋なんてもう二度と行くものか、行くとしても望姉さんとは二度といかない。そんな決意をするも数日後再び下着を買いなおすはめになり、その願いは叶わない事をこの時の俺は知る由もなかった。
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