第04話 女性のお風呂が長い理由

 大きな宴会場には本家と分家関係者が30人くらい集まっているのではないだろうか、女性密度の高さに酔いそうになる。


 父さんとおじいちゃんそれと分家の婿殿達は逃げるように別室で楽しんでいる、前回までは俺もそちら組だったのだが、今はお誕生日席さながらの一段高い場所でおばあちゃんと母さんに挟まれるように座っている。


 服装はおいくら万円するのかわからないほど豪華な着物を着せられている。お風呂上がりに用意されていたのがこれだった、下着に関してはご想像におまかせする、ちゃんと履いてるからどっちをとは言わないけど俺の心の平穏のため察してくれ。


 そう風呂なんだ……、姉ちゃんに女湯に連れ込まれ、体の洗い方や頭の洗い方から始まり洗顔の仕方にスキンケアのやり方などなど指導された、シャンプーにコンディショナーはまだわかる、トリートメントってなんだよ初めて使うんだが、え?5分位待つの?そんなに一度に言われても覚えられないと訴えかけたのが悪かった「これから毎日一緒に入って指導してあ・げ・る」なんて言われて断ろうとしたら無言のまま感情のこもらない目で見つめられて諦めた、今日の姉ちゃんはなんだか怖い。


 お風呂から上がったら上がったで化粧液やら乳液やら保湿クリームやら、なにがなんだかわからない物の使い方の説明が入り頭がパンクしそうになった。髪もちゃんとドライヤーで乾かすように言われてほんと女性の風呂が長い理由と日々の手入れの大変さを実感した。男の頃は髪なんかタオルで拭くだけで、ドライヤーを使ったことがなかった。


 姉ちゃんこんなの毎日やっててすげーなって言ったら「寮の先輩方がね……」とすごく遠い目をしていた、一体寮生活で何があったんだろうか。


 風呂上がりのお肌のケアが終わると、姉ちゃん指導の元ストレッチをやらされた「お風呂上がりにやっておくといいわよ、体は硬いより柔らかいほうが良いからね」と、女になって関節が柔らかくなったのか、やってみると意外と楽しかった、男の時には出来なかった180度開脚が出来てしまった時はすごく驚いた、どうなっちゃったの俺の体。


 ついでにこの寸胴みたいな体型の事も聞いてみたら「私の時は一週間くらいだったかな?怜も楽しみにしておきなさい」と意味不明なことを供述しており、ではなくて詳しく教えてくれなかった、まだ俺の体はここから変化するらしい、なんだか不安だけ煽られても反応に困るんだけど。


 そして着物である、使用人さん達が出待ちしており、着せ替え人形の気持ちを大いに味わうことになった。金糸銀糸がふんだんに使われたすごく豪華な打ち掛けと言うらしい着物を着せられた、たぶん重さ的に4キロから5キロくらいはあるのではないだろうか、服なのに重たい服に着られると言うがまさに今の状態がそうなのだろう。


 その後は薄く化粧をされ薄い色の口紅を引き終了「怜様お美しいですわ」って、俺は一体何をやらされているんだろうか、今の自分がどうなってるのか鏡を見てみたい様な見たくないような、姉ちゃんがスマホでパシパシしてたから後で見せてもらうのもありか、いややっぱ見なくていいや。


 そんなわけで、しずしずと歩く感じで宴会場に連れてこられ今に至る。迫り来る分家の叔母連中の襲撃を無難にこなしつつ、食事もなんとか指導されながら済ませた、着物での食事って汚さないように気を使うしそりゃあおしとやかに見えるよなと思ったわ。


 食事も終わりそろそろ眠たくなってきたタイミングで姉ちゃんが分家の子供たちをぞろぞろと連れてきた。その中の1人に馬鹿笑いされた。


おりねぇ酷くない?好きでこうなったわけじゃないんだからさ」


「いやー怜ちゃん可愛くなったねーくっははははは」


「姉さん笑いすぎですよ、怜くんいえ怜ちゃん? が可愛そうですよ」


 馬鹿笑いしているのが、源乃詩織げんのしおりこと織ねぇで2つ年上である、髪はショートカットにしており、ボーイッシュが服を着て歩いているとでも思ってもらえればわかりやすいだろう。そして窘めた方が源乃明海げんのあけみで織ねぇの妹であり俺と同い年になる、髪はおかっぱボブになっている。二人は俺が通う事になる学院の学院長である沙織さんの娘になる。


「あー笑った笑った、まあ学院で困ったことがあれば、私か明海に頼りなさい、ちゃんとサポートはしてあげるから」


「姉さんが絡むと余計酷くなりそうですが、一応これでも現中等部生徒会長なので何かと役には立つと思いますよ、もちろん私も協力します」


「織ねぇはともかくとして、明海ちゃん助かるよ」


 こんな感じで学院内で協力をしてくれるという事らしい。学院を卒業した組からは労いの言葉を頂き、俺より下の世代には初めましてと自己紹介されたりもしたが無難に乗り切れたと思う、下の世代には俺が男だった事はまだ伝えていないらしいし。


 宴会も終わりに近づいた頃、1つの大きな盃が俺の前に運ばれてきた、中には白濁した液体が入れられている。


「おばあちゃん祝い事とは言え未成年に酒はだめだろ」


「何いってんだいそれは酒じゃないよ、甘酒みたいなもんだからぐいっと一気にいきなさい」


 匂いを嗅いでみると確かにお酒じゃないようだ、若干どこかで嗅いだ事があるような気がするがわからない。周りを見回すとここにいる全員が俺を見ているんだが……覚悟を決めて盃を持ち上げ一気に飲み干し盃を下ろす、桜の味がした。


 目がかすむ体が揺れる眠い眠い……、眠い……、そこで俺の意識は途切れ眠りに落ちた。

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