第03話 話は続くよどこまでも
さて仕切り直しだ、何事もなかったようにさっと座布団に座る。
新しいお茶とお茶菓子として羊羹が用意してあった、色的に小豆と抹茶と柑橘系の3種類だろうか?「いただきます」と手を合わせ切り分けて一口まずは小豆らしきもの、甘すぎず丁度いい甘さの中にほんのり分かる塩味、自然と口から「おいしい」と言葉が出ていた。
「そうでしょそうでしょ、これもお爺ちゃんの手作りなのよ」
嬉しそうなおばあちゃんの声が聞こえる。「おじいちゃんほんとうに美味しいよ」と笑顔を向けながら言うと、おじいちゃんは少し照れたように頷いてくれた。
ほんとうまいと思う、店に出してもいいんじゃないかな、それは良いおいしいは正義だ、それにしてもおじいちゃんは美味しいお茶やお菓子を作ってどこを目指しているのだろうか、などと考えながら残りも平らげお茶を飲み一息、ちなみに残りの2つは抹茶とゆずの味だった。
「さてと、お話の続きを始めようかしらね」
ここからの話は、まああれだ結婚事情のあれこれだった。権力者に囲われるとは妾としての意味もあったと言う話だ、基本男が生まれても女になる、そして男は1世代に1人のみそれ以降は女しか生まれない、つまり女系の一族と言う事になる、長男継承が基本の世の中ではかなり都合のいい存在だったのだろう。あれ? 1世代に1人なら俺はどうなの?と思ったがその疑問は話の後に聞く事にした。
おばあちゃんや母さんと姉ちゃんは見た目はかなりいいし年の割には若々しい、そんな一族なわけなので、余計に権力者にとっては色々な面で役立ててたみたいだ。昔はそれこそ後ろ暗い事もやっていたらしい、詳しくは話してくれなかったけどなんとなく想像はつくだろう。
男児が生まれれば本家へ母親と共に返されいずれは本家を継ぐ、女児が生まれた場合はそのまま育てられて他家へ嫁ぐという流れだったようだ。男児の生まれない女性を他家に嫁がす、色々腹黒いという感想しか無い。
そう言う流れも時代が変わり、曽祖母の代では囲いもなくなり独立した家となったようだ。時代の転換期には一族ごと消される可能性もあったようだけど、裏では神子として神事に関わってきた事が良かったようで、今現在存続している事からなんとかなったのだろう。
今は父の例を見るに、一般の人と結婚してもいいとの事である、むしろ事情を知る権力者からは敬遠されているみたいだ。うん気持ちはわかる、現代の価値観からして元男と結婚して子作りするとかよっぽど性癖を拗らせてない無理じゃないかな、あと一夫一妻の現在では男児が生まれてもいつかは女性になるわけだし、家の存続問題にかかわるよね。俺としては今のところ結婚問題は考えたくない、男とあれな事をするのは勘弁願いたい、想像するだけでも怖気が走る。
結婚事情とかの話はこんな物だったと思う。祖父母や両親の馴れ初めなんかも聞かされそうになったけど、全力で断った既に頭が理解に追いついていない。
ここまでの話で結構時間が経っていたようだ、既に時間はお昼を回っていたので昼食をという事になった。本家の食事はいつも美味しいので好きだ、ただ美味しいだけでなくちゃんと栄養なんかも考えられていると聞いたことがある。
昼食も済み一息ついた後再び奥の間に移動して話を再開する事になった。その前に少し気になった事を聞いてみようと思った。話を聞いている時は気にならなかったけど、食事をして落ち着くに連れ頭に浮かんできた考えを。はっきり言って俺は頭がいいなんて事はなかったし、話をずっと聞いてられるほど落ち着いた性格でもなかったはずなんだ。
だけど今はおばあちゃんの話もちゃんと理解できるし、ずっと座って話を聞き続けることも出来ている、まあ聞き続けてられるのは興味があった事もあるかもしれないけど。そんなわけで今俺は自分の変化に戸惑い気持ちが落ち着かずもやもやしている。
「おばあちゃん、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「なんとなく察しが付くけどなんだい?」
「ほら、俺って自分で言うのも何だけどさ、頭そんなに良くなかったはずなんだ、後落ち着きも無かったと思う、なんていうかイメージ通りの小学生な感じだったと思うんだ」
全員が示し合わせたようにうんうんと頷く、ちょっとさそれはそれで傷つくんだけど……。
「でも今の俺ってさ、おばちゃんの話も理解できてるし付いてもいけてる、多分女になったからなんだろうけど、それだけが原因なのかなって」
「ああその事かい、一言でいうとね怜は女性になったことにより一歩神へ近づいた事になるからね」
またとんでもないのが出てきた、神に近づく?うん意味不明だ、流石に日本には八百万の神が居るとは言え、人から神に……結構いたわ、まあ本当に神になっているかはわからないけど、死後神として祀られるとかある意味神になってるって事で良いのか?
「まあその内分かるよ、今はそういう物だと思っておきなさい、理解力が増して困る事は無いんだからね、テストの時とか便利だよ」
姉ちゃんがうんうんと頷いてるのが分かった。
「うん、まあ、おばあちゃんがそう言うなら、神がどうたらと言われても反応に困るし」
「さて、この話は一旦置いておくとして、今度は怜あんたの事だよ」
そんな感じで始まった俺の状況と今後について。まずは戸籍、これは既に対策済みで出生届を出す時にわざと性別欄を空欄にして出していて、俺が女になった事によりこっそり修正される流れみたいだ、それに連動する形で保険証なども新しいのが届くらしい。
次に前述の通り男には戻れないから諦めろと言う事と行く予定だった中学校から、叔母が学院長をしている中高一環の全寮制の女学校への入学。全寮制なのは姉ちゃんがそうだったから分かってたけど、姉ちゃんが「良かったわね怜あそこのお風呂は共同だから裸が見放題よ」と耳打ちしてきた、いやまあそのどう反応したかはノーコメントで。
そんなわけで、俺は入学式前の入寮日までに、女性としての立ち振舞や言葉遣い、共同のお風呂対策などなど、姉ちゃんと母さんに指導を受けることになった。
絶望の表情を浮かべる俺に「怜本気で覚えなさい、私も全力で協力するから」と感情の抜けた目をして両肩を掴まれたのは本気で怖かった。姉ちゃんって中学の途中で女になったからすごく苦労したみたいだ……。何かすごいトラウマでもあるのか俺に向かってブツブツ呟くのは怖いので止めてほしい。
最後に先程疑問に思っていた事を教えてくれた。比売神家の残っている歴史で一世代に男が2人生まれたことは無かったようだ、おばあちゃんの時も母さんの時も皆女だったと。
だから俺が男として生まれた時、何が起こるかわからず本家分家共に大騒動になったらしい、過去の記録を総当りしても前例が見つからなかったみたいだ。なので取り敢えずは見守る事と結論を出し今日に至るとの事だ。
母さんの時も姉ちゃんの時も10歳を迎えた時に女に成る事を教えられるのだが、俺がずっと男のままなのか女に成るのかわからなかったので、今まで教えられなかったわけだ。朝食の時に両親も姉ちゃんも驚いた顔をしていたのは、そういう事かと納得がいった。
「さて私から言う事はこんな物かね、怜は何か聞きたいことはあるかね?」
急に聞きたい事と言われても朝から今までバタバタしすぎて頭の整理がまだついていない、ここで新情報を与えられても混乱が増すだけな気がする。
「ちょっとすぐは思いつかないかな?正直な所まだ考えがまとまらない」
「なら後は明日起きてから少し話そうかね、必要なことだし一晩休めば何か思い浮かぶだろうさ」
この後俺が女になった祝いも兼ねて本家で宴会をするらしい、集まれる分家が大集合でもう準備は始まっている、そんなわけで今日は帰らず泊まる事になった。
泊まるのは離れにある客間になるのだが部屋数がかなりある、そしてなんと離れには露天風呂が完備されていたりする。
まあ、なんだ、間違って男湯に入ろうとする俺を姉ちゃんが気付いて無理やり捕まえ女湯に連れて行かれまして色々とね。
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