掴めたはずのもの

線香の匂いが鼻を掠める。

僕はそっと手を合わせる。

目を閉じれば、あの頃の君が今も笑っている。

君は最初に会った時にいった。

「だったら、君が私に恋を教えてよ。」

君はある時は悲しそうにいった。

「君はいつも私を助けてくれる。」

またある日の君は言った。

「これね、私の1番好きな花の苗なの。別名、ダイヤモンドリリーって呼ばれてるんだ。」

君はその花の苗を大切そうに眺める。

「私、この花が咲くのが1番の楽しみなんだ。私の希望なの。」

君は会う度に、よく花の話を聞かせてくれた。

そんな君のことが僕は大切で仕方なかった。

でも、僕は弱いからその気持ちを認めることすら出来なかった。

それでも、君を守りたくて、抑えきれなくて、それであの日君を呼び出した。

でも、遅かった。

僕はあの日、大切なものを失ったんだ。

いや、落とした。落としてしまったんだ。

掴めたはずだったのに。

「君はもう、限界だったんだよね。僕はそれに気づけなかった、誰よりもそばに居たはずなのに。大切だったのに。君は僕に言ったよね。君はいつも私を助けてくるって、でも、僕の方が君に救われたんだよ。本当にありがとう。大好きだったよ。」

僕は君が大好きだった花とシオンの花に僕の想いを載せて、その場を後にした。



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いつだって 香崎 莉愛 @aka1211

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