いつだって

香崎 莉愛

いつだって

「こんなの、いらないよ。」

君は僕に背を向けたまま、呟く。

「私には、やっぱり必要のないものだったんだよ。」

君は弱々しく笑う。

違う、そうじゃない。

いいたかったはずの言葉は、喉の奥につっかえたまま、上手く声がでない。

視界が滲む。

金縛りにあったかのように僕も君も、動かない。

いや、僕は動けない。それで、目線はずっと君に向いたまま。

やっとの想いで口を動かす。

「そんなことない。」

強く言いたかったはずの言葉は弱々しく発せられ、君に届いたのかすらよく分からない。

「君は、優しいね。今日までずっと、君だけは私に変わらず接してくれた。私の制服が濡れたときは、体育着を貸してくれたり、私に陰口を言ってる人にも面と向かって戦ってくれた。君だけは、いつも私の味方だった。」

君はゆっくりとこちらを向いて悲しそうに笑った。

「でもね、もう限界だった。私には、無理だった。私のわがままに付き合ってくれてありがとう。やっぱり、私には恋も愛もいらないよ。」

僅かな沈黙のあと、君はいった。

「もう、終わりにしよう。さようなら。」

君はあの日のような笑顔を浮かべてゆっくりと落ちていく。

僕は、金縛りがとけたかのように走る。

君へ手を伸ばす。

でもいつだって、僕は…遅すぎるんだ。

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