合体技?

「合体技...その名も†暗黒の夢ブラッディナイトメア†」


あんこちゃんは俺も初耳のその名を告げた。


俺とコウジが顔を見合せていると、あんこちゃんが「†暗黒の夢ブラッディナイトメア†!!」と強調したので仕方なく、それを実行した。


《カタヒラレイコ》


手元に用意したダンボールの箱がパカッと開いた。しかし、いつもの様に梱包が解かれた訳では無い。

完全解錠マスターキー》の能力が発動したのだ。

手元のダンボールには、とある細工が施されていた。前面と後面に小さな扉がついていた。


『コ』の字にカッターで切れ込みを入れて作られた簡単な扉だ。

ピッタリと隙間なく埋まっていたその扉が、今、俺の能力でひとりでに開かれた。


だが後述する通り、この行為における俺の存在意義は全くと言っていいほど無い。


あんこちゃんは俺が開いた扉をそっと閉じ、再び自身の手でその扉を開いた。

するとあんこちゃんの触れる前面の扉と連動して後面の扉が開いた。

扉の奥にはダンボールの内壁は見えず、回り込んで探ろうにも、まるでVR映像の様に奥の景色が映し出されるのみだ。


あんこちゃんの能力【異界の扉コール・オブ・アビス】がこのダンボール箱の前と後ろの扉を接続したのだ。


そこへすかさず、コウジが丸めたノート片を投げ入れた。

くしゃくしゃになった紙くずはダンボールの前面の扉から進入し、1秒のタイムラグも無く後面の扉から排出された。


きっとこのダンボール箱に施された細工を知らない羽柴や椿ちゃんには、この投げ入れられた紙くずが、ただダンボール内の空間をショートカットするだけに思えただろう。


しかし、実際はそれだけには留まらなかった。

後面から排出された紙くずは、いつかの中学生の股間に誘引された様にぐりんと軌道を変えて円を描き、再度前面の扉に進入した。


そして再び後面から排出された紙くずは、再度軌道を変え、円を描いて前面に突入し、再び後面から排出される...

以下、これを繰り返し続けた。



「こ、これって...」


「無限に回り続けてる...?」


「フフフフ、その通りさ!」


コウジが高笑いを上げ、その仕組みを意気揚々と語り始めた。



先程俺が開けた際にチラリと見えたダンボールの内部、そこには、またまたいつか見た様な折り紙で作られたゴミ箱が入っていた。


つまり、コウジの放ったゴミはダンボール内部のゴミ箱に向けて突進したのだ。


しかしあんこちゃんの『ゲート』によってゴミはそのゴミ箱に辿り着けず、軌道を変えて再度ゴミ箱に突進する。

これを繰り返している訳だ。


確かに、今までのコウジの【ダストシュート】の挙動を見ると、ゴミは必ずゴミ箱の入口から垂直に突入する性質があった。

ゴミ箱だからと言って、外側から側面や底面に当たって終わる様な能力では無いのだ。


能力の性質を上手く生かした、良い合体技だ。




ん?俺の役割?最初に扉を開けただろ。




実を言うと、扉を開ける能力を持つ俺が何か役に立ちそうだと思えたのも束の間、上記の能力同士の掛け合わせがコウジとあんこちゃんのみで事足りたことが発覚したのである。


終いにはあんこちゃんにも、

「じゃ、じゃあ、神楽には、その能力で扉を開けてもらっちゃおうかなぁ、へへへ...」

と気を使われる始末だ。


だが俺は屈したりしない!

いずれ『暗黒の夢ブラッディナイトメア』は俺無しで発動されるようになるだろうが、俺はその日まで足掻いてみせる!!



「いや確かにスゲーけどさぁ」


と羽柴が水を差す。


「結局回るだけかよ、あんこちゃんは必殺技が欲しかったんじゃなかったっけ?」


「そ、それは確かにそうだが...」


「いや!何言ってるんだ!十分凄いぞ!!」

とコウジが興奮気味に言った。


「『永遠に』回転するんだぞ?

つまりこれは...」


コウジはそこで言葉を止めると、紙くずが衛星の様に回り続けるダンボールを指さして言った。



「『永久機関』だ!!」




「...永久機関?

なんだそれ?」


羽柴は具体的なワードを聞いてもまだ分からないようだ。


「そ、そこからか...

まぁいい。

永久機関って言うのは、言わば永遠にエネルギーを生産できる装置の事さ。

本来、熱力学の法則によってその存在は否定されているけど、やはり特殊効果はその壁をも超えるみたいだね。」


「はぁ?

ただグルグル回ってんのがなんでエネルギー作ることになるんだよ?」


「あのなぁ、風力も水力も原子力も、発電は結局、タービンを回すことで行うんだ。

その過程はさほど重要じゃない。」


そう言うと、コウジは『特殊効果リスト①』のノートを紙面が外側になる様に折り込んだ。


今も尚、衛星の如くダンボールを中心に回転し続ける紙くず。

その衛星軌道上にコウジはそのノートから1ページだけを垂らし、紙くずの退路を塞いだ。


紙くずの回転がその紙面一枚に到達した時、あたかも暖簾のれんを潜るように、そのゴミはページをはらりと捲りあげて何事も無かったかのようにそこを通過した。



「幸い、僕の能力は人が手に取らない限り、ゴミは永遠にゴミ箱に向かって突進し続けることがわかっている。

それに、先程僕は発電の根本がタービンの回転にあると言ったが、それならばこれは純粋な回転そのものだ。

この様な障害物の羽を複数枚つけたタービンに発電機を接続すれば、ゴミの回転がタービンとまるで歯車の様に噛み合わさって、発電出来るんじゃないかな?

...それも、『永遠に』」


コウジは自慢げな様子でそう言い放った。



「え、永遠に...?

す、すげぇじゃねぇか!!」


「だから、さっきからそう言っているだろう...」


聞きながら、俺も段々と目の前のダンボール箱が凄いものだと思えるようになってきた。



「というか、これ。

『合体技』というより、本来の【効果遺物】を作ってないか?」


ふと、俺がそう言うと、一同は「あ。」と今更気づいたように呟く。




………




こうして駄能力研究部効果遺物第1号

【ダスト・リアクター】がここに完成された。


もちろん、ブラッディでもナイトメアでも無いので、あんこちゃんの案は却下された。

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