効果遺物
「結局、何だったんだ...あれは。」
池井戸先生の哀愁的な表情に皆少なからず罪悪感を抱いたのか、あの後先生の言葉通りに俺たちは教室を後にした。
今は自室でぼーっと先程の出来事を反芻している。きっと他の皆も同じような感じだろう。
あの時、羽柴は泣いていた。
握り締めるメモをひったくると何やら不出来な感動モノの寸話が描かれていた。
あの程度の稚拙な文章で泣けるほど、羽柴の涙腺は脆くはなかったはずだが...
それにしてもあの【魔法の羽根ペン】は結局なんだったのだろうか。
池井戸先生の話を鵜呑みにするならば、彼と彼の旧友との5人で作り上げた『特殊効果を書き換えるペン』らしいが、そんなものが本当に作り出せるのか...
いや、本当は俺も気づいているんだ。
そこらの小学生でも本気になれば世界を一変させる可能性があるということに。
俺は今までの人類や、個人の努力と関係無しに、ただ与えられただけの【
まぁ先生やジュセロの反応からして、あの羽根ペンの効力は恐らく本物だろう。
であるならば、やはり加賀美先輩の様な一介の女子高生よりかは、専門の調査機関に預けた方がよかろう。
しかし、まさかジュセロが表立って盗みまで働くとは...
それも隊服を着たままで。
これは一体どういうことなのだろうか。
そんな思案は明日に持ち越そうと、俺はベッドに潜り込んだ。
………
翌日、俺たちは何時ものように6人で集まって部活動を行っていた。
これからの部活動をどうするか、という内容の部活動だ。
昨日のどんよりとした空気は皆、一睡したことで忘れたのか、部員は能天気に再び和気あいあいとしていた。
まあ俺も昨日の罪悪感など頭の隅に飛んでいっていたが。
この大勢でただ思った事を口にするだけの会がミーティングだと言うのならば、俺たちは現在ミーティング中である。
ガヤガヤと流れる下らぬ意見の中、1人の金髪少年が手を上げ、無理矢理発言権を獲得する。
「ハイハイハーイ!!
じゃあ俺、池井戸先生みたいに能力でアイテム作りたい!!皆でさ!」
この中で一番池井戸先生への罪悪感がない人間が今決定したが、それは俺も思っていた。
正直...
「めっちゃ作りたい...」
と思わず賛同してしまう程に。
………
「【
羽柴の問に、またもやコウジがやれやれと言った感じでメガネをずり上げた。
「そう、【
今まで特殊効果に纏わるマジックアイテムの様な言われ方をしていたが、ちゃんとそういう名称があるんだ。」
陽が斜めに差す教室で、俺たちは壇上に立つコウジを除いて着席していた。
これは言わば、羽柴の言う『マジックアイテム制作』をどう現実にしていくか。
その講義の途中である。
「【
それは特殊効果の影響で、自然物ではありえない挙動を見せるようになった物体の事だ。」
「自然物では...ありえない挙動?
どういう事だ?」
確かに今のコウジの説明では『定義』を言っただけで特殊効果の初心者には分かりずらいだろう。コウジもそれが分かりきっているという反応で黒板の底部のレールをなぞった。
「そうだな...例えばこのチョーク。
これが『物体浮遊をさせる能力者』の効果の対象になったとしたら、どうなると思う?」
「どうなるって、そりゃ宙に浮くんだろうよ。」
「その通り!
それで...万が一その能力者がそのまま死亡したらどうなると思う?」
「...!
チョークはずっと浮いたまま...?」
「そう!死亡時に能力が解除されない能力ならば、そうなる。そしてその結果残った物体こそが...」
「【
と思わずコウジの言葉を待たずして俺は口に出した。
「そうさ!
まぁ、池井戸先生が生きている様に、能力者の死亡とかそう言うのは関係ない。
あくまで、人の手を離れてもありえない挙動を見せる。というのが定義だからね。」
「なるほどなぁ。
それで、それをこれからどうやって作ればいいんだ?」
「それを今から僕たちで考えるんだろう?」
「え、あぁ、そうか...」と羽柴は頭をかいた。
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