ジュセロ

日本特殊効果調査機関、

Japan Special Effects Research Organization。

略して『J.S.E.R.O.ジュセロ


特殊効果にまつわるあらゆるものを研究している機関だ。

日本各地に支部を持ち、そのそれぞれに黒い噂を持ち合わせている。


例えば広大な土地が必要な能力の為に近隣住民に法外な立ち退きを要請したり、特殊効果に関するアイテムを手に入れる為に汚い手を使ったりしているらしい。


国の認める公的機関であり、表向きには特殊効果の研究や発展を謳ってはいるが、その実態は企業ヤクザと言った所だ。



そしてそれは実際に俺たちの理解できる形で発生した。



「あ、あたしの1年間が...」


昨日からの気の沈みを本日まで持ち越している加賀美先輩をなだめた。


「まぁ元気出してくださいって。

JSEROジュセロ』が手を出したってことは、あの《お宝》は本物の可能性が高いって事じゃないですか。」


「でももう手に入らないのも事実じゃない...」


もうこの調子で2時間ほどうちの部室に先輩は居座っている。

なだめるこっちが気が滅入るというもんだ。



「でも結局、昨日って何が起こったんだ?」


「ずっと目隠しされて怖かった。」

と椿ちゃんも怯えながらもその事件を不思議に思っているようだ。


羽柴も連なって口を開いた。


「『JSEROジュセロ』ならさすがに俺も知ってる。

まあ学校にあったマジのレアアイテムを手に入れる為に誰かが鍵を開けてくれるまで待って、それから職員の特殊効果で俺たちを足止めして、その内に盗んだって事じゃないか?」



「まあ大方そんな様なものだろうな。

まったく、余計なことをしてくれた。」



見ると、教室の扉に手をかけてこちらを覗く老人がいた。

白い髪に長い髭を持ち、歳の割に大きな恰幅のその人物は、どことなく童話の中のおじいさんと言った風貌に感じられた。



「あ、池井戸先生...」



俺たちは揃ってバツが悪そうな顔をした。

何を隠そう、社会科準備室の住人、社会科の授業を担当する池井戸ジロウ先生とは、この方なのだ。



「部ができた時から不安だったんじゃよ。

『特殊効果に関する部』なんて。

もしやワシのモノにまで興味が行くんじゃないかとな。」



一番バツが悪そうな顔を見せていた加賀美先輩は申し訳なさそうに切り出した。



「い、いや〜。

ホラ、あたし達、七不思議とか宝の地図とかを調べてたもので。

まさかそれが人のモノだったとは思わなくて...」



この女、勝手に俺たち全員で画策した様に喋りやがって...

まあ、実際に探索を手伝ったのは事実だが。



「人のモノだと思わずに、人の教室に勝手に入ったのか?」


「う...す、すみません...」



的確な反論に加賀美先輩はそれ以上は何も言えなかった。



「まあいい。

あれで良かったのかもな。」


とても歓迎ムードでは無い中、先生は近くにあった席に座した。

てっきり長い説教に入るのかと身構えたが、どうやらそうでも無いらしい。


「あれはむかーし、ワシ達が作ったモノでな。扱いに困っていたんじゃ。

『特殊効果を書き換える』なんて危険ったらありゃしない。

アイツらは悪どいが、特殊効果の扱いはワシ達よりも理解しているのは事実。

だからこれで良かったのかもしれん。」




...え。

今なんて?




「能力を書き換える羽根ペンって、マジだったのか!?」


羽柴が思わずそう叫んだ。

羽柴だけでは無い、俺達全員が口を開けて呆然とした。



「ああ、能力が人類に現れた20年前、興味本位で仲間五人で作り上げた代物じゃよ。」



池井戸先生は懐かしそうに仰け反って窓の外を見つめた。



「あの頃はみんなが浮かれとった。

それもそのはず。

突然人類の多くが特殊な能力を持ったのだ。

興味を持つ者、驕れる者、悪用する者。

様々な人間の形を我々に見せた。


ワシは当時40歳。

まだ一人称を『オレ』から『ワシ』に変えるかどうか悩んでいる時期じゃった。」


「一人称にそんな葛藤があったのは知りたくなかった。」


「ワシらは能力に興味を持った者の集いじゃった。と言うより、丁度お前達のような高校の同級生でな。


流行っとったんじゃよ。同窓会が。

子供が出来たりしたら昔の知り合いに報告するじゃろ?

それと同様、『お前はどんな能力が発現したんだ?』と言った感じで昔の知り合いに会う機会が増えたんじゃ。」


「あぁ確かにテレビでそう言ってたな。」

とコウジが切り出した。

「うちの父親もそれで中学の同級生だった母親と再会したんだった。」


「え!そうなの!?なんで言ってくれなかったんだよぉ。」

と俺は思わず問うた。


「いやなんで僕の両親の馴れ初めをお前に言わなきゃならないんだ。」



「というかさ...」と羽柴が疑問を呈した。


「...池井戸先生はどうやって人の特殊効果を書き換えるペンなんて作ったんですか?

先生って、そんな凄い能力だったんですか?」


確かにそうだ。

この先生は学校であまり目立っていた印象は無かったが、そんな代物を作れる程にすごい能力者だったのか?



「ああ...それはだな...」と先生は口を突き出したが、すんでの所で止めた。


「やっぱ、やーめた。お前らにまたイタズラされても困るし。」



「えー!そんなー!お願いしますよー!先生!気になって夜も眠れないですよ!!」


と我が部員は高校生らしからぬ駄々を捏ねて先生を呆れさせた。



「わーかった。わかった。

ワシの能力だけじゃなんともないんじゃがな...ほれヒントだけやる。」


と先生はメモ取り出し、しばらくの間そこに筆を入れた。

数分経って書き上げた所でメモを勢いよくビリッと破き、その一枚を羽柴に渡した。


「じゃあ早く帰るように。」

先生はその言葉を置いてここから去ってしまった。



「...羽柴、なんだったんだ?メモにはなんて書いてあったんだ?」


俺が羽柴の前に回り込むと、皆もそれに続いた。

そして驚愕した。








「うっううううっうううううう!!!!」








「...なんて泣いてんの?」

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