J.S.E.R.O.

―――――

加賀美カコ

【効果名:どこでも電話】


使用条件:

10円玉を消費して発動する。


効果:

右手を電話にする。

―――――



二重に反響して聞こえる彼女の声は、俺たちに自分の能力をそう説明した。



「...なるほど。

公衆電話みたいな能力だな。

鹿島さんに能力を開示してもらったんですか?」


「いや、アタシの親戚に情報開示系が居るんだ。」


親戚に情報開示系がいるのか。

それはさぞかし便利だろうな。



「コスト効果ってやつだな、初めて見た。」

とコウジが漏らした。


「コスト効果?なんだそれ」


まだ能力が目覚めて間もない羽柴は知らないようだ。


コウジは得意になって羽柴に説明した。



「例えば、よくある特殊効果の『○○をした時』というような使用条件は『誘発効果』と言われるものだ。

その条件を満たした時に、相乗りのような形で受動的に能力を使えるようになる。


しかし、『コスト効果』っていうのは指定された行動を能動的に行って発動する。」



「ん?何が違うんだ?」



「まぁ、分かりやすく言えば『使用条件が能力の内』ってとこかな。


仮に加賀美先輩の能力が誘発効果だったら、『10円玉を買い物で消費した時』みたいな文面になってるはずだ。

その場合、買い物のついでに能力が発動する。


但し、今回のような『10円玉を消費して発動する』というのは能力を発動したいと思ったら自分の能力の使用条件で10円玉を消すんだ。

その後にやっと能力が発動できる。」



「その通り!

アタシの能力なのによく知ってるね?

まぁ、コスト効果と言ってもアタシみたいに

『10円玉を消費して発動する』んじゃなくて、

『10円玉を生成して発動する』みたいなセッコい能力もあるんだけどね。」



「はぁ〜。

改めて特殊効果ってのはホントに格差がひでぇな...

よくあるバトル漫画みたいにバランスとか全然取れてないし。」


感心したような呆れたような面持ちの羽柴にコウジが冷静に言う。


「当たり前だろ。

これは学力や体力と同じなんだ。


向いてる奴、向いてない奴。

自分の能力を知らない奴、

そもそも発動できない奴。


そいつらを救う為に僕達の部はあるんだ。」


珍しくこの部の真面目な側面が垣間見えてしまったが、その言葉に反応した一人の少女が言った。



「え!?本当?

じゃあアタシも相談していい!?」



「え、加賀美先輩が?

別にいいですけど...」


コウジは面を食らった様にそう言葉を返したが、確かにそうだ。


『10円玉を消費して電話をかけられる。』

実にシンプルで使い道もまあまあ有りそうな能力だと思うが...

これ以上、何に不満があるのだ?



「アタシの能力、『10円玉』を消費しないといけないんだよ!?

10円だよ10円!?


しかも『テキスト』には書いてないけど、10円につき1分までしか話せないから、友達と長電話とかもできないし...」



「そこまで公衆電話が再現されてるのか...」


「いや、緊急の電話だったら全然使えそうだけどなぁ。」


部員の間でもそれぞれの意見が飛び交った。

確かに特殊効果が自分の思い通りにならず、不満になるのはよくある事だが...



ちなみに、今の会話に出た『テキスト』とは情報開示によって文面として書き起こされた自分の特殊効果の詳細だ。

そのため、特殊効果リスト①に書いてある情報は全て『テキスト』 の集まりという事になる。



「だからって、俺たちに何をしろと?

まさか能力使う度に10円よこせとか言うんじゃ無いでしょうね?」


「いやいや!!

そんなカツアゲみたいなこと言わないって!!」


加賀美先輩は「コホン」と咳払いをして、口調を整え、ポケットからやけに年季の入った感じの茶ばんだ地図を取り出した。



「え、これってもしかして宝の地図!?

ホントに持ってたのか!?」


羽柴に続いて俺達もゾロゾロと覗き込んだ。

見ると、この校舎と同様『コ』の字が描かれている。


「そう、アタシが見つけた宝の地図。

それでその肝心のお宝はココ。」


彼女の指はこのフロアの社会科準備室にあたる部分を指さした。



「ここには『魔法の羽根ペン』というお宝がある!らしい!」



「魔法の羽根ペン...?」



魔法?

というとやはり特殊効果に関わるものか?

それともやはり都市伝説の域を出ないものだろうか。



「その羽根ペンには特殊効果を書き換える能力がある!らしい!」



「能力を書き換える!?すげえ!!」


「あるわけないだろ。そんなもの。」


またもや騒ぐ羽柴をコウジが制止した。



しかし、それまで静かにしていたあんこちゃんはどうやら興味津々な様だ。


「いや、どうだろうな...ヒヒヒ...吾輩のような最強の能力者ならば...あるいは。」


「君すごい格好だね。

自分で選んだのこれ?」


「え、あ、いや、これは選んだっていうか魔界のアレで勝手に生えてきたって言うか...」



指摘されるのが恥ずかしいならそんな格好しなければいいのに...



「まあ噂の真偽がどうであれ、あたしはこの為に1年生の頃から準備してたんだ!


この噂を聞いてから図書委員になって本を片っ端から開いてついに見つけたんだ!!

絶対協力してもらうから!!」


「この為に図書委員って...」



それにしても、それが本当ならば七不思議のうち、二つの噂は本物だったということだ。

もしや他の噂も信憑性があったりするのだろうか。



「あたしは無料で電話かけ放題にしたいの!!

だから皆の授業中に図書室に携帯を置いてわざとコールしてたんだよ。


皆の授業中に社会科準備室にいつも先生がいるのは知ってたからね。

先生が鍵を開けたまま図書室に行ったら、その隙に忍び込む予定だったのに...」


「もう強盗だな。」


「うるさい!!

ついでに七不思議を作ったのもあたし。

この学校で変な噂を6つ見つけたから、あたしの電話を1つ足して七不思議にしたの。」


「だから一つだけ浮いてたのか...」


「そう。

ああいう脅し文句を付ければ詮索はされないと思ってね。」



「あれ、鍵を開ければ解決するってんなら...」



羽柴が俺を見た。



「おいおい...俺は空き巣じゃねえんだぞ。」






……………






ともかく俺たちは社会科準備室へ向かった。

まさかとは思うが、停学や退学なんかにはなったりしないよな...?


そう不安が逡巡している内にその扉の前に着いた。


やれやれと俺は扉に手をかけた。



「《完全解錠マスターキー》!!」



「え、ちょっと待って。何今の。」


「...先輩は黙っててください!」



まあ《完全解錠マスターキー》と叫んだ後に心の中で呟かないといけないんですけどね。




《カタヒラレイコ》




ガチャリと扉は開かれた。

こうなるといよいよ自分が犯罪者に近づいているような気がするが、まあ今は何も考えるまい。


「ほら、皆あたしと一緒に探してよね!

先生が来ないうちに!!」



加賀美先輩がそう言って部屋に侵入した瞬間だった。



伸ばした俺の足は止まった。

言葉の表現ではなく、物理的に動けなくなったのだ。


部屋の奥から夕焼けの陽の差す窓がくっきり見える。

その窓から視線が外せない。

口も開かず、その場には外から聞こえる野球部の声援のみが響いていた。


他の部員も同様、まるで時が止まったかのようにその場に固定されていた。

しかし、空を飛ぶカラスや雲が時は動いているのだと訴えかけていた。



もしやこのまま永遠に静止したままなのだろうか。という不安がよぎった時、俺たちの横を白い制服で統一した人間達が横切った。


次の瞬間、俺たちは目隠しをされ身体が止まったまま視界も機能しなくなった。


視界が消える一瞬、それが見えた。


その特殊な隊服に書いてある名を、今の世で知らぬ者はいないだろう。



J.S.E.R.O.ジュセロ』だ。

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