第拾壱話 鳴り止まない、電話

「では!

駄能力研究部、本日の部活動を始める!

...前に、新たな部員を紹介する!」


彼女は疼く右目(自称)を左手で抑えた。


「ひひひひ。喜べ!

吾輩が汝達の足らぬ知恵を補ってやろうと言うのだ!!」



俺達の部室には6人の部員が着席していた。

そのうち1人は能力の産物であるのだが、欠けることなく、こうしてこの場にいる。


「ペロちゃんは、

1年5組の担任が椿ちゃんを2の係に任命してくれたおかげで、ずっと存在できるようになった!」


「わ〜!」「パチパチパチ」


「これで幾らでも部員を増やせるね。」


コウジはそう言ってメガネを押し上げた。



「ひひひ。ついでに吾輩が朗報を知らせてやろう。ついさっき目安箱パンドラの箱を開いたらこれが入っていたぞ。」


あんこちゃんはポケットからその紙を取り出すと、何かのプリントの裏に書かれたその文章を読み上げた。




「こんにちは。

私は2年の生徒です。

あなた達のような浮いてる部活に直接顔を出すのは気が引けるので、この様な形で相談させて頂きました。」



「随分失礼な先輩だな...」



「本題ですが、私達の学校には七不思議が存在するのをご存知でしょうか?


金曜の4:44にだけ50%オフになる

『自動販売機』


相合傘で下校するとその人と結ばれる

『忘れ物の傘』


図書室のどれかの本に挟まっている

『宝の地図』


...などです。」



「こんなポジティブな七不思議あるんだ。」



「その七不思議のひとつ、


受話器を取ると死ぬ

『鳴り止まぬ電話』」



「おい!ひとつだけ怖すぎだろ!」



「最近私たちのフロアで、たまに誰のものでもない電話の音が鳴り響くのです。

それはどこから聞こえているのか分からず、皆怖がっています。

なので、駄能力研究部(笑)さんたちにこの謎を究明して欲しいのです。」


読み終えるとあんこちゃんは偉そうに腕を組んだ。



「おいおい、俺達は能力の研究をする部であって、オカルトを研究する部じゃないんだぞ。」


羽柴の漏らした言葉にコウジは応えた。


「ま、特殊効果絡みの事件だと考えたってとこだろうね。」


「死ぬ都市伝説の検証に部を使わないで欲しいがな...」


差出人は書いていなかった。


文面の感じからは俺達を半ば馬鹿にするような雰囲気が見て取れたので、そんな部に名前は知られたくないということだろうか。



「ま、死人が出てたら学校で知られてないわけないだろうし、大丈夫だろ。

行くだけ行ってみるか。」





………





俺達は1年生教室の一つ下のフロア、3階に降りた。


この2年生教室のフロアで電話の音が鳴り響くらしいが...

当然、常に鳴り響いているというわけでは無いらしいな。


「そう言えば、どんな状況で電話が鳴るかとか書いてなかったな。」


「誰かの特殊効果の暴発だとしても、状況が分からんと使用条件も推測できないぞ。」



羽柴の冷静なツッコミに、皆は『う~ん』と唸ったまま黙ってしまった。

6人もいるというのに何だこの沈黙は。



「とりあえず、手分けして探してみたら?」



椿ちゃんは珍しくそう口を開いて、静寂を破った。


「...そうだな。」


そして話し合いの結果、俺達は2人組、3グループを作ってこのフロアを捜索することになった。



「グッとパーとチョキで、別れましょ!!」



何度かジャンケンを繰り返し、俺達は、


『俺とペロちゃん』

『羽柴とあんこちゃん』

『コウジと椿ちゃん』


の組み合わせでこのフロアの探索を行うことになった。



...というか女子のちゃん付け率高いな。




………




「...それで、昨日は晩御飯の唐揚げの数を賭けてボードゲームしてたんだ!」


「随分可愛い賭け事だな...

ていうか2人でできるボードゲームなんてあるのか?」


「あるある!2人専用ってよりかは2人から何人まで〜って感じなんだけど。」



こうして話をしてみると本当にただの人間のようだ。

とても特殊効果の産物だとは思えないな。



俺とペロちゃんはペアでこの3階の中央を探索することとなった。


俺の通うこの校舎は上から見ると丁度『コ』の字になっているのだが、その中央部の探索という事は、『コ』の字の縦線の部分を探索するというわけだ。


そしてこのエリアは廊下を隔てて図書室とその対岸に講堂を有する。

その手前にトイレと階段もあるが、まずはこの2教室の探索になる。



「ペロちゃんは、

その...ご飯とか食べるんだ?」


「食べるよそりゃ!ウチ人間だもん!」


人間か...それはどう見てもそうなのだが、椿ちゃんの能力から出たものではあるんだよなぁ。

というか、昔から健康な状態って事は引っ込んでる間はご飯は要らないって事だよな?



俺達はまず講堂の扉を開いた。

いつもの静かな講堂をイメージして『バンッ!』と扉を開くと中からギターやドラムの激しい音響が爆発したかのように放出された。


しかし、その空間の人間達が俺達の姿を捉えると、先程の爆音が嘘のように講堂はシーンと静まり返った。



「え、誰?友達?」

「...さぁ。しらね。」



...軽音の部室だったんかい!!


俺は思わず握ったドアノブをそのまま閉めてしまおうかと悩んだが、意を決して中に入った。



「えっと、誰?なんの用?」


うわ〜陽キャだ...

恐らく部長だろうか。

こちらにギターを引っ提げたまま歩み寄ってきた彼は、身長は高く、髪色はプリンのように金と黒が毛先で別れていた。


「え〜っと、俺達、駄能力研究部っていう部活で、ここら辺で『鳴り止まぬ電話』が鳴るって相談を受けてきたんですけど...」


「ああ、その噂ね。」


部長は部員に「練習続けて〜」と指示をすると間もなく先程の様な爆音が響き始めた。

俺達は部長に促されて爆音の講堂を後にした。




………




「それで、その『鳴り止まぬ電話』って、七不思議のひとつだっけ?」


「は、はい!それですそれ!」


俺達は廊下にちょこんと置いてある丸いテーブルを、3席の椅子で囲って話していた。


「あるよ。」


「あるッ!?」


「あるって言うか、呪いとかそう言うのは分からないけど、俺達が授業受けてる時に結構な頻度で聞こえてくるよ。

2年の間だと多分知らない奴は居ないと思うけど。」


「...そうか。

授業中は確認しに行けないから皆出処が分からないのか。」


「じゃあじゃあ!

教室からは鳴ってないって事ですか!?」

とペロちゃんが問いただした。


「え?ああ、多分ね。

今日も鳴ってたし、まだ見付かってないだろうね。」


「なるほど...ちなみに、その電話ってどの辺にあるとか検討つきませんかね?」


「う~ん、教室に無いのは多分確定だし、あの音量だと...」


と、軽音楽部部長はすぐ横の図書室を指さした。


「ここかなぁ〜。俺も講堂は調べたけど電話なんて無かったから。」


「なるほど!助かりました!ありがとうございます!!」


俺は部長に感謝の旨を告げると図書室の戸をガラリと引いた。




………




中はやはり静かな空間と静かな生徒が揃っていて、先程の講堂とはえらい違いだ。


かしこまった生徒は部屋の奥のテーブルでノートを広げ、ラフな格好の生徒は中央の雑誌コーナーでくつろいでいる。

手前の受付では1人の女子生徒と司書の先生が静かに談笑していた。

俺達はその2人に向かって歩を進めた。



「すみません、駄能力研究部っていう部の部長をしてる神楽です。

あの...ここに『鳴り止まない電話』っていうのあったりしませんか?」


「え、鳴り止まない電話?

ああ、最近噂になってるやつね。」


俺の問いに司書の先生は優しく受け答えしてくれた。


「七不思議のやつでしょ?

う~ん、宝の地図はあったんだけど、電話はどうかな〜。」



「そうですか...

え、宝の地図?」



な、なんだ『宝の地図』って...

そう言えば、さっきの手紙にも図書室の噂が書いてあったが...



「え!?本当に宝の地図があったんですか!?」


「ええ、あったわよ。

このが見つけたの。」


司書さんは先程まで談笑していた1人の女子生徒を指さした。

俺達の会話を静かに見守っていたこのポニーテールの少女だ。



「そうそう。アタシが見つけたんだ。

あ、でももちろん見せたりは出来ないからね!宝を横取りなんてさせないから!」


「い、いや別に要らないですけど...」



その少女は自らを『加賀美カコ』と名乗ったので俺も『神楽かおる』だと伝えた。

どうやらこの少女も2年生で、図書委員をしているらしい。



「あ、そうだ。

宝の地図も凄いですけど、俺達は『鳴り止まない電話』の究明に来たんです。

何か知りませんか?」


俺は司書の先生に顔を向き直した。


「そうは言ってもねぇ...

私は皆が授業を受けている時も図書室ここに居ることが多いけど、電話の音なんて一度も聞いた事がないわよ?」


「え、一度も...?」


「ええ。」



一度も電話の音を聞いた事がない...?


それはおかしくないか?


先程俺は、この校舎は『コ』の字をしていると言ったが、『コ』の字の下の横線部分に当たるのが、2年生の教室だ。


先程の軽音楽部部長の証言により、教室からは電話の音が聞こえる音量なのは間違いないはずだ。

仮に電話が図書室に無かったとしても、そんな大音量の電話の音が、静かな図書室に響いてこない訳が無い。



「そう...ですか。

ちなみに席を外されるのはどのタイミングですか?」


「えーっと、

皆がホームルームをする前には図書室を開けて、それから放課後までは生徒が入れるようにしてるけど...

週に2、3回は職員会議で席を外すわね。


先週も火曜日と金曜日に職員会議だったし、あ、今日もそうだったわね。」


「じゃあ図書室にいない瞬間はあるんですね!?」


「そりゃあそうよ、他にも細々した用事で席を外すことはあるけど、皆の授業中はそれくらいね。」


「なるほど...」



となると、図書室で電話が鳴っていないのではなく、図書室に誰もいない時に電話が鳴っている可能性があるな。



「ちなみに、その席を外すタイミングは誰かに事前に喋ったりしてますか?」


「ええ。職員会議は緊急で入ることも多いから、事前にわかり次第、図書委員には教えてるけど....」


「なるほど。」



もしかして...図書委員の生徒が司書さんのいないタイミングを狙って、図書室で電話を鳴らしている...?


例えば目の前にいる...


「加賀美先輩、でしたっけ。

あなたは何か知りませんか?」


顔から冷や汗が垂れまくっている少女とか...


「いいいいや、ワタシは何も知らないケド...」


「そうですか。」




………




俺達は図書室を後にして、探索に向かった部員に招集をかけた。

とりあえず俺たちは階段脇の教室に集合した。


集まった3グループは互いに調査してわかったことを共有した。



「俺達は2年生の教室を調べたぜ。

まあ当たり前だけど、スマホなんて置き忘れてなかったし、どの教室の生徒に聞いても『授業中にたまに鳴る』としか言ってなかったぜ。」


「それどころか、吾輩達がコソコソ教室を探し回っているのを怪訝な目で睨んでいたぞ...」


「いやまぁ、それは仕方ないけど...」


「先週は火曜と金曜に電話が鳴ったって言ってたけど、」


「え、火曜と金曜?」



火曜と金曜と言えば、先程司書さんが言っていてた席を外していたタイミングと符合する。



「僕と椿さんは特に何も無かったよ。

僕達のエリアは社会準備室とかPC演習室があったけど、どっちも閉まってたからね。

すぐに教室の方の探索に参加したよ。」


コウジと椿ちゃんのペアは『コ』の字の上の横線部分に当たるエリアを探索していた。

確かにそのエリアは移動教室か部活の際にしか扉が開かないので、特に手がかりは無さそうだ。



「それで俺ちょっと気になることがあるんだが」



俺がそう切り出した瞬間、先程の少女『加賀美カコ』先輩が教室のドアから垣間見えた。

図書室から出てきた彼女は、そのまま走って階段向かいの女子トイレに駆け込んだ。


チラリと見えた彼女の右のてのひらには、何やら奇妙な数字が記されていた。

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