増殖する暗黒 -アンリミテッド・アビス-

その後、昼食を摂り終えた俺達は、ようやくショッピングモール内を探索する事になった。



「うち、洋服見たい!!」



その言葉に誘導されて、俺達は女性服売り場に来ていた。

ペロちゃんはしっかりギャルっぽい見た目の趣味も持ち合わせているようだ。


...それにしても能力の産物にしては随分と自我が強いな...


一方、他の女子はペロちゃんほど服に興味も無く...という訳でもなかった。


3人はしっかりと仲良さそうにワイワイとハンガーにかかった服を相手の身体に押し当てて『これが似合う』『この柄が良い』などと意見し合っている。


あまり服に興味など無い俺達であったが、少し彼女らに触発され、近くの紳士服売り場で服について意見しあった。



「おー!似合う...

実に似合っているぞ!!」



と言うあんこちゃんの声に反応してそちらを見ると、試着室のカーテンを開いた椿ちゃんの姿があった。


「ひひひ、そうだ。

禁じられたまなこ暗黒魔力ちから覚醒するときはなたれる様なイメージで...」


そこには左目に眼帯をして大剣を背負ったゴシック調の椿ちゃんの姿があった。



...なぁ、それがここに置いてあったのか?



「くっくっく...

あまり近寄るな。我の左のまなこは、まだお主を受け入れていない...」


ノリノリだな。


すると今度はその隣の試着室のカーテンがサッと開いた。


「私は、マスターの暗黒創造ちからによって生み出された傀儡くぐつ...

...命令は絶対です。」



ペロちゃんまで...



その後は模型やボードゲームの置いてある『オレンジガチマリン』に寄った。


もちろん、椿ちゃんの声によってだ。


椿ちゃんは俺達でも出来そうな物を選んではそのボードゲームを紹介してくれた。

見ると、確かに精巧な作りをしたボードゲームはそれ相応の値段が付いている。

これを短期間で幾つも買っているのならば、確かに他に金を当てる余裕が無いはずだ。


しかし、ワードウルフなどのちょっとしたパーティゲームであれば、それなりの値段だったので財布への負担は少なそうだった。



一方、コウジは模型コーナーで『ガムプラ』の作例を見ていた。


「...そう。

だから地球連合軍が地球を独占状態にしてしまって、それに反発したガリアス帝国が戦争をしかけたんだ。

これが高技術世紀 H.C.ハイテクセンチュリー1年の冬の話さ。

そこで初めて30m級の巨大人型兵器

《メガトン・ドール》が登場したんだけど、そのままお互いに戦力が拮抗したまま100年間戦争が続いたんだ。

しかし、その間にメガトン・ドールの小型化と無人化は進んでいって、遂には30cm級の小型人型兵器

《ナノトン・ドール》へと姿が変わっていった。

高技術世紀 H.C.ハイテクセンチュリー 101年、その時代ではガムボール・ゾーンという、その名の通り、ガムの様な弾性のある球状の小型バトルフィールド内で戦争は完結したんだ。

そのガムボール・ゾーンにナノトン・ドールを入れて戦わせれば、無人で戦争が済むし、弾性のあるフィールドは、中の衝撃を外に漏らさないんだ。

だから主人公みたいな小学生がパイロットになれるんだな。

とは言っても、当時でもここまで若いパイロットは少なくて、異例の事だったんだ。

と言うのも、主人公は脳の構造が常人のものとは違くて、ナノトン・ドールの思考回路と同じ回路パターンの部分を有しているんだ。

その部分が機体の頭脳と量子もつれを起こすことによって、頭で考えるだけで機体を操作できるんだ。

それで『ガムボール戦記』第一話、

主人公が思考操作でたまたま起動させてしまった、自身の父親が作った機体

《NZ-41 メガナノ・フェンリル》がこの機体なんだ。

この機体はメガトン・ドール時代のパイロットだった父親の機体を受け継いでいるんだ。

だから名前にもメガとナノが付いていて...」


コウジはショーケースに張り付いて延々と語っている。


「ほらそろそろ行くぞ。」


「...それで幼馴染のリカちゃんの機体を壊してしまった主人公の気持ちがわかるか?」


何やらブツブツ言うコウジを引っ張ってオレンジガチマリンを後にした。





………





「観る映画、当日に決めるの初めてだな。」



ショッピングモールの中を下から上へと攻略していった俺達は、遂に最上階に陣取る大型映画館に辿り着いた。

それまでの明るいタイルの反射とは打って変わって、暗いマットと壁に包まれた空間に明るいサイネージのくっきりとした文字が浮いている。



俺達は特にこれ以上用事も無いので、最後に映画でも観ようという事になったのだ。

椿ちゃんは先程ボードゲームを買ったということもあり、「う~ん。」と難色を示していたが、

俺が同じ劇場系列店の観賞無料券を2枚持っていたので、駄能力研究部成立に貢献してくれたお礼として、椿ちゃんとペロちゃんにそれを譲り、何とか無事全員で観賞する事となった。


「これがいいんじゃないか」「こっちがいいんじゃないか」とあれこれ相談し、結局よく知らないアメコミ映画を観ることとなった。

6人の席を取るのは大変だったが、前後で3人ずつ固まってようやく観ることが出来た。


それは『スターバトル2112』という題で、如何にも数多のSF映画の平均的で最大公約数的な内容だった。

どうやら『スターバトル2052』という古い映画の続編らしく、中年より年上の人間は涙を流す者もいた。

恐らく昔から知っていれば感動できるシーンも多かったのだろう。


俺は映画の観賞を趣味として公言する程映画が好きで、毎週末は劇場か自宅で必ず映画を観ている。

今まで数駅を跨いで映画館に通っていたが、これからは地元から映画館に通えるという高揚感が、本来以上に今観ている映画の価値を上げているような気がした。


しかし、まあ出来たばかりの映画館で当日に6人席を取れるということは、結局はそれ相応の面白さであり、俺達はまあまあ満足気な顔をして映画館を出た。



「アクションはまあまあ良かったな。」


「ストーリーもまあまあ良かった。」


「主人公もまあまあカッコよかったな。」





………





そうして俺達はショッピングモールを後にした。

辺りはすっかり暗くなっており、肌寒い風が俺の服の下に吹き込んできた。

以前までのこの界隈では、この時間になると聞こえるのは蛙や虫の声のみだったが、今では祭りの帰り道のように人が溢れている。



「なんだかんだ言って、結構楽しかったな。」


「そうだな。」


俺達もその人の流れに沿って帰宅する流れになった。


「僕も楽しかったよ。転売ヤーに取られる前にこれを買えたからね。」


コウジは『ガムプラ』の入った袋を揺らした。


椿ちゃんも自分の手にげた、同じ『オレンジガチマリン』のロゴの袋を満足そうに見つめている。



「じゃあ、そろそろ解散だな。」


「ああ、じゃ、俺こっちだから」


俺の言葉に対し、羽柴はそう口を開いた。

女子メンバーもここで別れるようだ。

結局帰り道はいつもの放課後と同様、コウジと2人になるのだ。



「じゃあ僕達はこっちだから。」



俺達はあんこちゃん達に手を振って別れを告げた。



「うむ。吾輩達はこっちなのでここでおサラバだ!」


「ふん。我も今宵は久しぶりに楽しめたぞ。」


「これが、《楽しい》?

ご主人様マスター傀儡ドールの私が、持ってはいけない感情...?」


椿ちゃんは大きな大剣を背中に刺したまま俺達に背を向けて歩いていった。



流石に来週にはそのノリ終わってるよな?

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