ショッピングモールに行くゾ!

結局、昨日はケンカッ兄弟との戦いに疲れ果て、ショッピングモールに立ち寄る予定は取り止めとなった。



「おー!ここが『カトートーカドー』か!!」



そして明くる日の土曜日、それは2人の予定ではなく、駄能力研究部の親睦会的な遊び的な社会見学的なイベントとして蘇った。



「流石に混んでるな〜!」



俺は青い空に白く映える近代的な建物群に圧倒された。

今までは数駅電車に揺られなければ辿り着けなかった施設が、隣町という近さに現れたのだ。

興奮しないわけがない。



「お!ここだよここ!

ここでアイツらが襲ってきたんだ。」


コウジは事件現場の鑑識のように自販機の前のアスファルトを指さした。


「あ〜、さっき言ってた『ケンカッ兄弟』とか言うやつ?

ぷっ、中学生に追い回されてたって...くくく」


と羽柴は口を抑えて笑いを堪えている。


「いや、マジで強かったんだって!!

お前カッちゃんの学習意欲知らねぇだろ!?」


「いや、知らねぇよ....」



一応昨日の一件も部の活動として捉えることが出来るので、何かの役に立つかと思い、様々なアングルから現場の撮影をした。

本日の課外すぎる部活動も、それを言い訳のひとつにしているのだ。



「終わった?終わったなら早く中に行こうぜ!?」


もうすっかり部に馴染んだペロちゃんが俺達を急かしている。

今まで部室では静かにゲームをしているだけだったが、どうやらこういう巨大施設にワクワクするタイプだったらしい。

まぁ見た目からそんな気はしていたが。


ぐいぐいと椿ちゃんを引っ張るその姿はまさに犬の様だった。

ペロちゃんを筆頭に俺達は高いに差されながらキラキラと光るアスファルトの上を歩き始めた。



「待てーい!!」



振り返ると、ガヤガヤと賑やかな人混みの中、ぽっかりとその中心だけに穴が空いている。

その穴は人混みが1人の少女を避けて出来たものだった。



「ひひひ。吾輩を忘れていないか...?」



「え、いや、呼んでないし...」


制服を着ていないせいでいつもより余計に装飾品が多い彼女は、その口調の通りあんこちゃんだった。


「ひひひ、風の噂で聞いたのだよ!

ここに来るとな!」


「どこから吹いたんだその風。」


「一応今日部活動なんだけどな...」


「な、なんだその反応は...

だがまぁいい。聞いて驚け!」


あんこちゃんは避けて通る周りの人間のこともいとわず、右目を抑えるようなポーズをした。


「...吾輩が!

汝達の部に入ってやってもいいと言うのだ!!」


「あれ、ペロちゃんどこ行った?」


「さっきまでそこいただろ。」


「ペロちゃんを返せ〜!!」


「え...

部員足りないって聞いてたのに...

喜んでくれると思ったのに...」



珍しくしょぼーんとしたあんこちゃんに『部に入らない』という旨の宣言をしてもらい、

どうにかペロちゃんはまた現れることができた。






………







俺達はカトートーカドーの中に入って早々、イートインスペースに腰掛け、昼食という形で各々軽食を摂ることにした。


「な、なるほど...

椿の能力がペロちゃんを呼び出していた...と。道理で最近見ない生徒がうちのクラスにいると思ったはずだ。」


「皆違和感抱かないの凄いな...」


「まぁ、そういう事。

だから今は...誰も入部できないね。」


コウジは宥めるようにあんこちゃんにそう言った。


「入部拒否の部活って...」


先日までの俺の必死さとは真逆の状況だな。


「だが、確かに部員を増やせないというのは問題だな...」


コウジはそう言って、メガネを押し上げた。


確かにそうだ。

まさか、部の成立にあれ程貢献してくれた椿ちゃんの特殊効果が、今度は部の足を引っ張っているとは...


「まぁ、今までだって能力に関しては解決させてきたんだ。

きっとペロちゃんを出したまま部員を増やす方法も思いつけるさ。」


「そうそう。また考えればいいだけだ。

取り敢えず、あんこちゃんは補欠だな。」


羽柴に続いて俺もペロちゃんに励ましの言葉を送った。


「ほ、補欠?なんの補欠だ!!

吾輩が滅茶苦茶入部したいみたいではないか!!」


「違うのか?」


「いや...

別に違うという訳でもないという訳でもないと言うか...」


「友達が全然居ないので入部させて下さい。」


「黙れえぇぇええ!!」


「流石椿ちゃん、翻訳精度が凄いぜ。」



その後も俺達はこれからの部活動についてや雑談をして過ごした。






………







「...つまり、

正確な特殊効果の内容を知らない内は、特殊効果リストに記録しない方がいいってことさ。」


コウジはそう結論づけた。


「僕達の知っているケンカッ兄弟の能力は、あくまで彼らが自称した能力の内容だ。

本人が情報開示してるとも限らないし、本当の能力を勘違いしている可能性もある。」


コウジは脚を組み直して続けた。


「能力を研究する部としては、存在しない能力を記録するリスクは避けた方がいいと思うんだ。

実際、自分の能力を勘違いしたまま使い続けて命を落とした者もいるしね。」


「なるほどな。

じゃあ、ケンカッ兄弟の能力はメモ程度に留めて、一応『特殊効果リスト』には記録しないでおくか。

部で関わった人の能力でも、正確なテキストがわからない内は記録しない方がいいな。」


「そう、だから本当は椿さんも鹿島さんに情報開示をお願いした方がいいんだけどね...」


コウジはそう言うが、椿ちゃんは頑なに首を振る。


「ゲームを買うお金は、1円も無駄にしたくない。」


「ああ、ゲームに金使ってたから鹿島さんの能力を頼れなかったのか...」



その時、椿ちゃんのスマホからピロン!と音が鳴った。


「あ、藤井ちゃんから『LIMEライム』来た。」


「藤井?ああ、あの竜巻の...」


彼女はチャットアプリの画面を開くと、こちらにスマホを向けた。






―――――――――――――――――――


1万円用意できたから、鹿島さんにやっと情報開示お願いできたよ!


―――――

藤井ももか

【効果名:タツ巻きノコプロ】


使用条件:

風を育てたいと思った時


効果:

風を育てられる。

―――――


―――――――――――――――――――




「へ〜知り合いだったのか。」


「うん、同じ中学だった。」


「て言うか、『風を育てたい時に風を育てられる』って....すげぇド直球だな...」


「そう思う瞬間があるのも驚きだけどな。」


と、こんな休日のショッピングモールでもつい特殊効果について話し込んでしまった。

意外と俺達は熱心な部員だったのだな。

これが職業病というやつか。


そろそろあんこちゃんとペロちゃんが退屈そうにし始めた為、食事は切り上げるとするか。

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