もうひとりいる!
「...幽霊?」
「漏らすなよ。失禁コンビ。」
「「誰が失禁コンビじゃっ!!」」
俺と羽柴はコウジに思わず突っ込んだが、『幽霊』とはどういうことだ...?
「ゆ、幽霊って...まさか、そこに...」
「いないよ。」
「いないんかい。」
「椿さん、もしかしてその幽霊ってのは君の特殊効果なんじゃないのかい?」
コウジが尋ねた。
特殊効果、そうか。
椿ちゃんも自分の能力を知らない。
その可能性は十分に有り得る。
「分からない。
でも、ペロちゃんは何処からか現れて、
いつの間にか消えている。
だから、幽霊。」
「ペロちゃん?随分可愛い名前だな。」
「取り敢えず、その、ペロちゃんとやらは椿ちゃんの意思で呼べるの?」
「『来て。』と言って来たことは無い。
でも、いつも居て欲しい時に居てくれる。」
「んん?それって矛盾してないか?」
「まぁ待て。
取り敢えず椿さん、ペロちゃんの写真はあるかい?」
「あるよ。」
「あるんかい。」
思わず突っ込んでしまったが、
椿は自分のスマートフォンの画面をコウジに見せた。
そこには背の高い明るい髪色をした少女と椿がツーショットで写っていた。
犬のように跳ねた髪をしていて、幽霊と言うよりはギャルのような印象だ。
「え!イメージと全然違うぞ!?」
「それに、写真には写るのか。
...彼女には、いきなり現れて消えること以外に幽霊っぽいとこは無いの?」
「無いよ。
脚もあるし、誰でも見えるし、触れる。」
「マジか、じゃあやっぱ能力なんじゃねえの?」
「僕もそう思う。」
「ていうかもうこの際、幽霊でもいいわ!
早く5人集めて、あの冷たい職員室とおさらばしたいんだ俺は!!」
「どうして、5人必要なの?」
「5人いないと部として成立しないんだよ。」
「なるほど。」
「だからウチが必要なんだね〜」
「ああ、まだ5日くらいは猶予があるけど。」
「でもまぁ早く決まるに越したことはないからな〜」
「そうだね。出来れば今日中に決めちゃいたい。」
ごちゃごちゃと話し込んだものの、取り敢えず部員は1人は確保できたのだ。
俺達は幾らか安堵して、それぞれ席に着いた。
………
「やった〜。勝った。」
「負けた〜!!
こはるちゃん、相変わらず強いな〜」
椿は俺たちとの話し合いに飽きたのか、リバーシを再開させていた。
一方で俺たち3人はペロちゃんを部員にする案は諦める方向に会話が進んでいた。
「まああと5日あるし、流石に1人は捕まえられるだろ。2年と3年のクラスも訪問すればさ。」
「え〜、上級生んとこ行くの〜?
俺もう人前立ちたくないよ」
「部が公式に設立したらどうせ神楽が部長になるんだろ。」
「...いや、まあ言い出しっぺだし、やるけどさ」
「取り敢えず明日、また鹿島さんに相談してみるか」
「そうだね。
この学校で1番生徒の特殊効果を把握してるし、この状況を打破してくれる生徒を見つけてくれるかも。」
「あー確かに。」
そのまま俺達は特に新しい収穫も無く、それぞれの帰路に着いた。
………
そして翌日。
金ローのジブリ枠か?と思う程繰り返される夕方の教室に俺達はいた。
「うーん、今日もダメだったか〜」
「上級生の野球部ってなんであんなに怖いの?」
「あと4日か。段々不安になってきたね。」
椿は相変わらずリバーシで遊んでいる、と思いきや今日はトランプのようだ。
どうやらボードゲームやらカードゲームやらが好きらしい。
「は〜、悩んでばっかでも仕方ない。
ここはパーッと切り替えて少し早い親睦会にしないか?」
俺の提案にコウジも羽柴も「そうだな。」とゆっくり頷いた。
「椿ちゃん、俺達もトランプ混ぜてくんない?」
「いいよ。」
「え〜!ウチもう一回ババ抜きしたい!!」
「ババ抜きってそんな中毒性あるゲームでもないだろ...」
そんな羽柴のツッコミをコウジはぼーっと見つめていた。
「仕方ない。」と俺は話を切りあげた。
「じゃあ椿ちゃん、ちょっと代わってくんない?俺ババ抜きチョー強いから。
1ターンで終わらせられるから。」
「ババ抜きにワンキルとかないぞ。」
「わかった。」と椿ちゃんは俺に席を譲ってくれた。
「神楽...お前、誰とババ抜きしてんだ?」
そう言うコウジの声に思わず反応し、「え?」と手元のカードから相手の席に目を移すと、そこはただの空席だった。
「えーっと、あれ?」
後ろを振り返って辺りを見渡した。
「羽柴、コウジ、椿ちゃん、で俺がいるから4人だろ?
羽柴とコウジと俺で喋ってて、椿ちゃんがババ抜きしてて、今俺が代わって...」
「椿さんが誰とババ抜きしてたって?」
「え。」
「...5人居なきゃおかしくないか?」
「え、え。ちょっと待って怖い!えー!怖!」
「こはるはペロちゃんとババ抜きしてたんだよ。皆も話してたじゃん。」
と椿は言った。
その発言に皆混乱し、「え、え。」としか言えなくなっていた。
「だからいつ職員室行くんだろうと思ってずっと2人で遊んで待ってたのに。」
「えー!!居たの!?ここに!?」
「ギェーー!!悪霊退散、悪霊退散!!」
混乱する俺たちをコウジが制した。
「おい待て待て、だから幽霊じゃなくて特殊効果の可能性が有るって話だったでしょ?
ペロちゃんの出現が椿さんの能力だとすると、僕達が使用条件を満たした時に彼女が現れていたって事だ。」
「そ、そうだったな。
椿ちゃん、そのペロちゃんは俺達といつ話してた?」
「部活は5人いないとダメって話してた時とか、神楽くんがトランプ混ぜてって言った時。」
「えーっと、あー...あー!!
確かに居たわ!居た!!」
「でもなんて事ない会話なのに、なんでその時だけ出現したんだ?
しかも椿とゲームしてる時はいつも居たって事だよな?」
と羽柴が疑問を呈した。
「確かに。」
「...いや待てよ。
椿さんは、『自分が居て欲しいと思った時に、ペロちゃんはいつも居る』
と言っていた。
だから『ゲームをする時はいつも居る』。
神楽は『部活には5人必要』と言った時に会話できた。」
「つまり...」とコウジは勿体付けて言った。
「...どういう事だ?」
こいつもこいつでしっかり混乱しているらしい。
「どう見ても『いて欲しい時』が条件になって現れている。
だが、椿さんの『来て。』という声には反応しなかった...?...何故だ?」
その時、羽柴が何かを閃いた。
「そうか!椿!ちょっとトランプ貸してくれ!」
「うん。」という返事とともに椿に与えられたトランプを羽柴はシャッフルし、さっきまで椿が座っていた席に座った。
「俺達は今、部の成立のために『5人』欲しい。しかし、現状は『4人』しかいない。」
羽柴は自分と空席の相手に、交互にトランプを配った。
「椿がやっていたゲームは『2人』用のゲーム。
しかし、席に座っていたのは椿『1人』。」
2つの手札となったカードの内、1束をすくい、羽柴は空席を指さした。
「つまり、椿の能力は『人数合わせ』!
1人欠けた状態の時、もう1人の人間を呼べる効果だ!
現れよ!ペロちゃんッ!!」
「来ないじゃん。」
コウジの辛辣なツッコミに羽柴は顔を赤面させた。
「ねぇねぇ。来ないじゃん。」
コウジの辛辣なツッコミに羽柴は顔を赤面させた。
「いや、合ってる。」
赤面した羽柴から手札をもぎ取り、再び着席させた椿にその手札を握らせた。
「違うのは『視点』だ。
【特殊効果:人数合わせ】。
使用条件は『椿ちゃんから見て1人足りない時』だ。」
「ペロちゃん、ババ抜きしよ。」
「よぉし、今度は負けないぞ〜!!」
ペロちゃんは先程からずっとそこに居たかのように椅子を引いて着席し、トランプを握った。
「....出た。」
「うぉおおおおお出たああああ!!」
俺達3人は謎を解き明かした快感や部成立の安堵感から、大いに歓喜した。
羽柴は意味もなく2段ジャンプを繰り返し、コウジは『よし!よし!よし!』と言いながらゴミをゴミ箱に投げ入れている。
…………
「よし、じゃあ最終確認だ!
俺が部を作るには『5人』が必要だ!
点呼、1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「「「いない!いない!いない!いない!!」」」
「椿ちゃん!」と俺は指示を送った。
「こはるが部を作るには『5人』が必要。
点呼、1!」
「2!」
「3!」
「4!」
「5!」
「「「いる!いる!いる!いる!いる!!」」」
この点呼によって、やはり椿の視点によって能力が発動することがわかった。
「よし!これであとはペロちゃんを出した状態で職員室に行けば、部員5名で部活成立だ!!」
「いえ〜い。」
椿ちゃんも喜んでいる様子でふにゃふにゃしたバンザイを繰り返している。
「それじゃあ最後に、僕がその能力を纏めておこう。」
コウジは『特殊効果リスト①』と書かれたノートを開いて、そこにつらつらと何か書き始めた。
―――――
椿こはる
【効果名:人数合わせ】
使用条件:
自分から見て何かの規定人数が1人足りない時
効果:
ペロちゃんを呼び出す。
―――――
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