駄能力研究部

「部を立ち上げる!」



俺の言葉に羽柴とコウジは呆気に取られた。



「お前そういう謎の行動力はあるよな〜」


羽柴はそう言いながら自分の両手をチョキとグーの形にしてぴょんぴょんと跳んでいる。



コウジは千切って丸めたノートの切れ端を、ヒョイヒョイヒョイとあらぬ方向へ投げまくって能力でゴミ箱に入れていた。



「真面目に聞け!!

お前らのその持て余してる能力を有効活用させようっつってんだよ!!」



羽柴は能力が開花して以来、アホみたいに手をチョキとグーの形にしてぴょんぴょんと跳びまくっている。


傍から見るととんでもなく間抜けなのだが、俺も能力が発現したばかりの頃はそうだったので何も言うまい。



「で、具体的に何を?」

コウジは相変わらず曲芸の様にノートの切れ端をゴミ箱に投げている。



「だから、俺達の能力を研究すんだよ!

ただの暇つぶしに使うにはもったいないだろ?」


「まあ、確かに。」



「それに俺達の能力を伸ばすだけじゃない。

羽柴みたいに矛盾条件で悩んでる奴を俺達で助けてやったりさ!」


2人は遊ぶのをやめてこちらにとぼとぼとよってきた。真面目に聞く気はある様だ。



「俺はいいぜ。どうせ暇だしな。」

「僕もいいよ、部が認められるならね。」


「よし!じゃあ決まりだ!」




………




俺達は部の申請をするために職員室に来た。



「...よし、じゃあ...入るか。

あれ、ノックって2回だっけ?

2回はトイレだっけ?

やっぱ最初は『失礼します。部の申請に来たのですが。』って言った方がいいよな?

あ、『1年2組の神楽です。』も入れた方が良いよな。

いやでも『部の申請に来たのですが。』で終わらせたら『だからなんだ?』って感じで無視されそうで嫌じゃない?

ほら『先生トイレ!』

『先生はトイレじゃありません!』みたいなさ。

なんか職員室って何して欲しいか具体的に言わないと無視されそうな雰囲気無い?

有るべ?」

「早く行け」


羽柴に小突かれて俺は無理やりドアの間近に立たされた。


「はぁ〜行くか。」




トンットンッ




「失礼しま〜す!」


「おい!ここはトイレじゃねぇぞッ!!」



「あっすいま、すみません。あっ1年2組の神楽です。ぶ、部の申請に来たのですが...」





「…………」(だから何だ?)





「あ、あ、部の申請の手続きをして頂いてもよろしいでしょうか。」


「...ハイハイ。ちょっと待って」



その後も冷たい職員室の中で俺は細々とした手続きを終えた。




………




「う、ふぐ、だからっ嫌だったんだッ、ん、うう。」


「泣くなって。」


「とりあえず、部の申請は出来たみたいだな。

顧問も決まったし、ん?」


コウジは貰った書類の米印の部分に指を添えた。



「来週までに部員5人にしないと取り消しになるって。」


「...ぇぇえ。」




………




そして翌日の午後のホームルームまで、やはり新入部員などは集められなかった。



「えー、じゃあ今日のホームルームはこれでお終い。最後に神楽から何かあるそうだ。神楽!」


「はい。」



俺はメモを握り締めて、とことこと教壇に上がった。


「僕は、この度、新しい、部活動、『駄能力、研究部』を、設立、しました。

活動内容は、特殊効果の、発現や、発展の、お手伝いを、する事です。


部員は、まだ、3人、ですが、一緒に、活動したい、人が、居たら、この後、僕の、ところに、来て、下さい。

ありがとう、ございました。」



よし、上手くいったな。



「はいありがとう。それじゃあ解散。」







暫くして教室には俺だけが残った。






「なんでだよォおおおおお!!!!」



代わりにもぞもぞ、といつもの様に例の2人が教室に入ってきた。


「あれ、新入部員は?」

「いねーじゃん。」


「自分の人望の無さを痛感させられた〜」


俺は机に突っ伏して、いつぞやの羽柴のようになっていた。



「そうだ!羽柴!藤井さん呼んで!

あの時の恩を人質に、部に引き入れるんだッ!!」


「え〜、普通に最低だな。」


「うるさいうるさい!やれったらやれ!!」


「わかったよ」



羽柴は面倒くさそうに教室を出ると、そのままの表情で教室に戻ってきた。


「藤井さん今、竜巻飼育係で忙しいから参加は難しいって。」


「なにその藤井専用の係!!」


この下らないやり取りは、いつもと変わらず行われていた。


何を隠そう、この教室が新たな部の部室と認められたのである。

つまりはいつもと変わらぬ教室で、いつもと変わらぬ光景が繰り返されている。

顧問も吹奏楽部との兼任で、こちらの部活動には一切顔を出さない。



「え〜、じゃあ鹿島さん!

鹿島さんの情報開示能力なら駄能力研究部も最もらしい活躍ができる!!」



「えー私かー」


「うお!びっくりした。」



見ると、ドアからひょっこりと顔を出してこちらを見つめるショートボブが居た。



「うーん、正直部活動にはあまり興味が無いし〜、私はパスかな?」


「ま、マジですか。」


「でも、ヒントなら上げられるかも。

5組の椿ツバキちゃん。

彼女、お金があんまり無くて私の診断受けられないから。」


「よし、もう何でもいい。その椿ちゃんとやらを勧誘だ!」



とは言ってももう放課後だ。

知らぬ女学生の行動パターンなど分かりはしないが、取り敢えず俺たちは5組に向かった。



しかし、なんとも都合のいい事に、その少女は1人でポツンと教室の隅で佇んでいた。

自分の席らしい所にリバーシを置いている。



「...君が、椿ちゃん?」


「...そう、椿こはる。」



その少女は小学生程の小さな背丈に長い黒髪がストンと落ちていて、何とも庇護欲を掻き立てられる愛くるしさがあった。



「そうか。俺は神楽かおる。


俺たち駄能力研究部って言う、特殊効果を高める手助けをする部を立ち上げたんだけど、椿ちゃんが興味ありそうって聞いてさ。」



椿のテーブルには2つの椅子が向かい合っていた。恐らく誰かもう1人とリバーシで遊んでいたのだろう。



「出来れば、その友達も一緒に。」


「いいよ。」






「...え、いいの!?」


「いいよ。」



早くも部員が規定数を満たしてしまった。

少し拍子抜けしたが、部が成立するに越したことはない。



「やったな神楽」


「ああ、じゃあ早速その友達呼んで職員室一緒に来てくれる?」


「いいよ。幽霊でも入れるなら」


「ああ、全然いいよ。」












「...幽霊?」

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