鍵のかかった部屋

「それでは、駄能力研究部、記念すべき第1回目の活動を始める!」



「うわ〜!」やら「パチパチパチ」といったしょぼい歓声が教室に響いた。



「じゃあ部長のありがたい言葉はこれくらいにして、副部長の高山コウジくん、お願いします。」



「結局僕か。」


「まあいい」とコウジは仕切り直して言った。



「まず初めに、僕達、駄能力研究部は『特殊効果』の発現や発展を手助けするのが、活動内容だ。

実際に、既に2名もの特殊効果の使用条件を解明しているという実績もある。」



「おお〜!」とまたわざとらしい歓声が響いた。



「だから部として活動する為には、特殊効果で困ってる人間を集めなくてはいけない。

その為、用意したのがコチラ。」



コウジはスマホをこちらに向けた。



「駄能力研究部、『SNS公式アカウント』!

これでネットを通じて困ってる人の悩みを解決する。」



「お〜!!

でも自分のアカウントでDM送りたくないよ〜!!」


「ふ、そんな人にはコチラ。」



とコウジはダンボールで作られた手作り感満載の箱を取り出した。



「駄能力研究部、『公式目安箱』!!

これを教室の前に置かせてもらい、悩みを解決する!!」


「わ〜!」「完璧だ〜!!」



「以上!

本日は自身の能力の鍛錬に勤しめ!!」



「部長は俺だぞ!!」



俺の声も虚しく、皆はそれぞれ自身の能力の研究に勤しんだ。




………




「とは言え...」



俺は皆の行動を1人ずつ確認していった。



「ふっ!ふっ!ふっ!ふっ!」

と言いながらジャンプを繰り返す羽柴。



「オラ!オラ!オラ!オラ!」

と言いながらゴミ箱にゴミを捨てまくるコウジ。



携帯ゲーム機で遊んでいる椿ちゃん。

とペロちゃん。






....全く成長する気がせん。






「そう言えば、

最近自分の能力をあまり使っていないな。」



かく言う俺も、この時間を少しは自分の能力と向き合う時間にしようと考えた。



『カタヒラレイコ』



俺がそう心の中で呟くと、手に持っていた目安箱はパカッと中身が開いた。

当たり前だが、まだ手紙の類は投函されていない。


俺の能力は『カタヒラレイコ』と心の中で呟くことによって、梱包を解くことが出来る能力。


未だにこの能力の恩恵を受けられている気がしないが、

この能力に発展の余地はあるのか???







「おいおい!やべーぞ!!

お前ら見てくれ!!」





声のする方へ顔を向けると、羽柴が酷く興奮しているようだった。



「どうしたんだ?」


「いいか?見てろよ、見てろよ!」



そう言うと羽柴はいつもの様に、両手をチョキとグーの形にしてジャンプした。


そして空中でもう一度ジャンプし、

着地するのではなく、壁を蹴って身体を反射させた。



そしてもう一度、くうを踏むと、再び跳躍し、やっとの事でタイルに着地した。





....『2回』空中ジャンプした???





「凄いな羽柴!どうやったんだ!?」



「待って、能力を再確認しよう。」


そう言うとコウジは例の『特殊効果リスト①』のノートを開いて、羽柴のページを開いた。

部の活動として、関わった人間の能力を記録することに決まったのだ。



「羽柴の能力、『一度ジャンプした後に空中でもう一度だけジャンプできる。』

...そういう事か。」



コウジは何か納得した様子で言うと、羽柴は頷いた。



「そう!壁キックもジャンプに入るんだよ!」



一同は思わず顔を見合せた。



「...割とマジで凄くなってきたな。

壁伝いなら無限に登れるってことか。」



俺はそう呟くと、自身の能力にも発展の余地がある様に思えて、自分への期待で思わず身震いした。




………




一頻ひとしきり羽柴を囲んで騒いだ後、俺は再び自分の能力と向き合うことにした。



突飛な風がビューっと俺の頬をくすぐった。

開かれたドアの奥から放たれた空気が、俺の脳味噌をクールにさせようとしているようだった。

俺はドアを閉めて再び思案した。



「...箱を開く能力...か。」





『カタヒラレイコ』





何となしに呟いてみた。


一応、これが能力発動のトリガーになってるので、暴発を防ぐ為には、

これはあまり褒められた行為では無いのだが、

つい言ってしまった。



それにしても、この『カタヒラレイコ』って何なんだ?

正確な読み方は分からない。


というか存在するのかさえ分からないが、明らかに女性の名前だ。



だが、それを言うなら『特殊効果』自体が謎である。


効果内容は脈絡の無いようで有るようなもの、やけに庶民的なフレーズが記載されているもの...

など、とにかくヘンテコな物ばかりだ。



これが神の創造物なのだとしたら、その神は五反田辺りにでも住んでいるのだろうか。



チラリと手元の目安箱を見ると、先程しっかりと口を閉めたはずなのに、再び内側が見えるようになっていた。



ここで暴発したか...



突飛な風がビューっと俺の頬をくすぐった。

開かれたドアの奥から放たれた空気が、俺の脳味噌をクールにさせようとしているようだった。

俺はドアを閉めて再び思案した。



「...ん?」



さっき確かにドアを閉めたはずなのに。



後ろを振り返ると、皆自分達のことに夢中でドアになど目もくれていない。



また白い目で見る生徒が冷やかしに来ているのかと思い、廊下に出たが、誰も待ち構えてはいなかった。




...ドアが勝手に開いた???




また影の薄いペロちゃんの仕業かと思ったが、後ろを見るとやはり椿ちゃんとまだ遊んでいる。










...俺がやったのか?




俺は思わず自分の特殊効果の詳細を、ノートを手繰って確認した。



―――――

神楽かおる

【効果名:パッケージパージ】


使用条件:

心の中で『カタヒラレイコ』と呟く


効果:

梱包された物体を製作者の意図通りに開封する。

―――――




『梱包された物体を製作者の意図通りに開封する。』



...『梱包された物体』?



もう夏も近いという時期であるのに、

今日はやけに肌寒くて教室の窓は全て閉められていた。



もう片方のドアも今は閉まっている状態だ。





...『閉ざされた部屋』は『梱包された物体』?






「まさかな」



そう自嘲して俺は目の前のドアを静かに閉め、黒いつまみを上に引いて鍵をかけた。






『カタヒラレイコ』


「ガチャ。」



そう音を鳴らしてつまみは下がり、ドアはひとりでにスライドしてまた風を呼び込んだ。







「...マジか。」

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