ステージ15 ライバルとの再会
「なつみ!
さくらはその勢いにさすがに驚いた。
――なに、なに、なんなの⁉
内心でそう慌てふためいた。
しかし、なつみと
なつみは目を丸くして機関車のように突っ込んでくる自称スーパーアイドルに尋ねた。
「ほのか⁉ あなたこそ、なんでここにいるの?」
「ほのか?」
「あ、あたしの本名。
「なんだ。お前、そんな美少女っぽい名前だったのか」
「あたしはバリバリの美少女でしょうが!」
――『美少女』って、自分でそこまで言い切っちゃうんだ。
さくらが内心で呟いた。
いやまあ、
「と言うか、お前たち、知り合いだったのか?」
「小学校の頃はよくコンクールで顔を合わせていたわ。中学になってから見なくなったけど」
「ああ。そう言えば『強力すぎるふたりのライバルがいてバレエはあきらめた』って言ってたな。とすると、このふたりがそのライバルと言うわけか」
「うん、そう」
なつみが驚きの表情を作った。
「えっ? ほのか、あたしたちのせいでバレエ、やめたの?」
「あ、いや、それは……って、あたしのことはいいのよ。ってか、いまのあたしはスーパーアイドルの
「アイドル?」
「そう!」
と、
「あたしこそは人気絶頂のスーパーアイドルユニットふぁいからりーふのエースにしてセンター、
「地方のライブハウスが半分埋まる程度で『人気絶頂』って悲しくないか?」
「兄貴、うるさい!」
「あたしのことはいいんだって! それより、なつみ! あんた、いったい、どうしてたの? ウィーンで開催される若手ダンサーの登竜門に出場するって聞いてたのに出てなかったし、それどころか、この半年ぐらい、どこのコンクールにも出てなかったじゃない」
――いちいちチェックしてたんだ。
意外と友だち思いなの?
と、考えようによっては失礼なことを思うさくらなのだった。
「それが……」
なつみは表情を曇らせた。伏し目がちに説明した。その説明を聞いた
「
『⁉』マークを連発させて叫びつつ、なつみの両肩に手を置いてガクガク揺さぶる。おかげで、なつみの体は大地震に見舞われた家屋のように激しく揺れる。
「やめろ。そんなに揺らしたら
「あ、ごめん」
そう言いつつ、パッと手を離した。
「でも、それ、本当なの? ちゃんと医者には診せた? セカンドオピニオンは? ひとりやふたりの医者に診せただけなら誤診ってこともあり得るじゃん」
と、すぐに勢いを取り戻してたたみかけるように問いかけるのが
「ってか、スポーツマンガだと『かかった医者は実はモグリで、でたらめな診療でした』ってのがお約束じゃない。あんたの
と、そんなことまで付け加えるのが
「そんな都合良くはいかないよ」
そうだったら、どんなに良かったか。
その思いを苦い表情に乗せて、なつみは答えた。
「ちゃんと幾つもの病院で診てもらったよ。アメリカの大病院にも行った。それでも、すべての病院で言われたよ。『この
「そんな……」
「なに、
突然――。
ふぁいからりーふを部屋えもんに乗せて戻ってきたかあらが口をはさんだ。
「それは良い。すぐにわたしが切り落として立派な機械の足に……」
「ああ、はいはい。かあらはこっちに来ていて。話がややこしくなるから」
「なにをする、せっかくの好機を。まずはサイボーク化して、いずれは立派な巨大ロボットに……」
そう言い立てるかあらを、さくらは無理やり引きずっていく。身長はかあらの方が高いが、不規則な生活と
「……なに、あれ?」
なつみと
「とりあえず、気にしなくていい。それより、その先を説明した方がいいんじゃないか?
「あ、ごめん」
なつみがあわてて言った。
「だいじょうぶだよ、ほのか。バレエは出来なくなったけど、お兄さん……
「
眉をひそめる
その間に
「
「バレエ時代のライバルだそうだ。聞いたことはないのか?」
「……ありません。
『グラミー賞を取る!』という共通の目的をもったことでかわったとは言え、『
「なるほど、
「うん。それに、補助用の器具も作ってもらったから。初公演に備えて
「さっすが兄貴!」
と、
「やるじゃん! 悲劇に見舞われた天才少女を救うなんて。さすが、地球進化史上最強の知性!」
「事実を言っても世辞にはならん」
「うんうん、そうだよね。あたしのことを『世界一のスーパーアイドル!』って呼んでもお世辞にならないのと一緒」
「それは、完全な世辞だ」
「それにしても、なつみに付き合って
「な、なに言ってるのよ、急に……」
「隠さない、隠さない。あんたがなつみに恋しているのは、まわりはみんな知ってたって」
「そ、そうなの……⁉」
「恋?」
なつみがキョトンとした表情で
「なんでもない! なんでもないから……」
「はあ……」
「ま、とにかく」
と、
「話はわかったわ。そういうことなら、なんとしても
「うん。約束するよ、ほのか……じゃなくて、
「そうこなくっちゃ!」
ふたりはガッシリと腕を組み合わせた。まさに、王道のスポーツマンガの世界がそこにあった。
「そういうシーンは感動的で、実に見応えがあっていいんだがな」
「なつみと
「あ、いっけね」
「あたしはふぁいからりーふのセンターにしてエースだからね。みんなをリードして場を取り仕切らなくちゃいけないの。じゃあ、ふたりとも。練習しっかりね」
「うん」
「ほのか……
そして、なつみと
「兄貴!」
そう叫びかける姿がいつになく真剣だった。
「どうした?」
「あの……ありがとう!」
「はっ?」
「本当にありがとう、なつみを救ってくれて。今回ばかりはシャレも、冗談もなしで、本気で感謝するわ。本当にありがとう。一生、恩に着るわ」
真剣そのものの表情でそう言われて――。
「?」
『?』マークを頭のまわりに飛ばして見つめる
「ああ、ありがとう」
「? なんで、兄貴が『ありがとう』なんて言うわけ? それ、あたしの台詞でしょ」
「いや、ちょっと気になってな。最初は反射的に『礼はいらない』と言おうとしたんだ。『ちょうど、
そう言われて――。
「あははははっ! 理屈っぽいなあ、兄貴らしいわ」
「でも、ほんと、感謝するわ。お礼に兄貴の嫁になってあげるからね」
「それはいらん」
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