ステージ16 ふぁいから参戦!
「兄貴! 一生のお願い!」
りーふも、なつみの公演に参加させて!」
「なつみの公演に?」
「そう! バレエはやめたけど、あたしはいまでもなつみと
「……なるほど。その気持ちはわかるし、歓迎する」
「それじゃ……!」
「あわてるな。お前が許可を得るべきはおれではないだろ」
そう言われて――。
「まて! どこに行く気だ?」
「えっ? 社長のところ。社長の許可をとってこいってことでしょ?」
「おれが言った『許可を得る相手』というのはふぁいからのメンバーのことだ」
「えっ?」
「ふぁいからは五人組ユニット。お前ひとりでやっているわけじゃないんだ。公演に参加したいなら他の四人の許可もちゃんともらってこい。それもできないようなら
「なんで、わたしたちがそんな公演に参加しなくちゃいけないの」
「そのなつみっていう子があなたにとってどんなに大切な友だちか知らないけど、わたしたちにとっては赤の他人よ。なんで、その赤の他人のために仕事でもない公演に参加しなくちゃならないの。おかしいでしょう」
「わかってるわよ! だから、頼んでるんじゃない。『協力して』って。あたしはどうしてもなつみを応援してあげたいの。だから、協力して。お願い!」
「あたしはやってもかまわないけど」
いつもマイペースな
「でもお~。
「うっ、それは……」
『みんなのお母さん』
「みんな、やろう」
『返す言葉もない』状態の
「
しかし、
「あたしたちはふぁいからりーふ。五人で一組のユニット。だったら、メンバーの誰かが真剣に頼んでくるなら協力しあうのが筋たと思う。それに……」
「あたしたちにとってもチャンスだと思う。そのなつみちゃんって『世界を狙える』って言われていたバレエダンサーだったんでしょう? そんな人が再起不能と言われた怪我をして、そこから復活する。注目を浴びるはずだし、
一語いちご考え込むようにして話しているために口調はたどたどしく、決してなめらかにそれだけのことを言ったわけではない。それでも――。
――これが、あの
全員がそう思い、目を丸くして
以前の
「でも……」
「
「
「
「ま、まあ、あなたがそう言うなら……」
「あたしは最初からやってもよかったから」
「そうねえ。たしかに、みんなのためになるならお母さんとしても賛成すべきよねえ」
「じゃあ、決まりね! みんなで公演を成功させよう」
そう言ってメンバーを鼓舞したのはやはり意外なことに熱血ヒロインの
それから、ふぁいからりーふの五人全員で所属プロの社長である
「ありがとう、
そう言われて――。
「いいよ。あたしはふぁいからりーふのリーダーなんだから。『リーダーの一番の役目は、メンバー全員に共通の目的をもたせてまとめあげることだ』って兄貴さんにいっぱい教わったから」
「兄貴……」
「
そう言ってにこやかに笑う
言葉の内容は確かに
その姿を見て
――そうか。
そう思い――。
「よおし、そうとなったら、あたしも負けてられないわ。最高のステージを見せつけて公演を大成功させてみせる!」
「うん、がんばれ、
公演の準備は急速に進んだ。
なつみと
一日、
「ふぁいからりーふが参加することになったからな。舞台に奥行きをもたせて後方で唄い、踊ってもらうことにした」
「
「そういうことだ。と言うわけで、これからは呼吸を合わせるためにふぁいからりーふとの合同の練習になる。日数に余裕があるわけではないからかなりの密度になるが……」
「だいじょうぶ」
と、なつみは拳を握りしめて請け合った。
「コンクール前の追い込みなんていつものことだったもの。直前になって予定が変更して、徹夜で取り組んだこともある。どんなに密度の濃いリハーサルになってもだいじょうぶ。やってみせる」
「
「それから、舞台全体の構成だが……」
「イメージとしては海のなかから水面を見上げるという印象で作りあげる。そのために、舞台の上で魚の模型を回遊させ、天井全体を光で包んで、光の差し込む水面を水中から見上げているようなイメージとする」
「魚の模型?」
「不満か?」
「そんな、子供相手にするようなこと、バレエの世界ではあり得ないし……」
「
「そ、それはそうだけど……」
なつみに手厳しく指摘され――。
さすがに、怯んだ様子の
「そういうことだ。それに……」
「それに?」
「もうひとつ重要な点がある。
「そ、そうは言わないけど……でも、ダンスってそもそも子供が見るようなものじゃないと思うし」
「そうだな。おれもそう思う。多分、たいていの子供はダンスを見てもおもしろいとは思わないだろう。まして、何十分もじっと見続けているはずがない。しかし、それはどういうことだ? 『小さな子供をもつ親はダンスを見に来られない』と言うことだ。例え、本人がどんなにダンス好きでもな。それでは、つまらんだろう。子供をもったばかりに好きなことも楽しめない、なんてことになってはな。だから、子供も楽しめる要素を組み込む。というより、各年代が楽しめるよう演出する。親子三代がそろってやってきて、それぞれに自分の楽しみを見つけて満足して帰って行く。そうできる舞台を作りあげる」
「それって、ダンスに興味のない人もくるってこと?」
すると、なつみが指を振りながら言った。
「いいじゃない。ダンスに興味がない人が来てくれるって言うことは、普通ならダンスを見たりしない人が見てくれるってことだよ。そこで、あたしたちが魅力的なダンスを披露してダンス好きにすることができれば、新しいお客を開拓できるんだから」
「そ、それは、そうだけど……」
「そういうことだ。もとからのダンス好きだけを相手にしていたのではファンは増えていかない。ファンを増やすためには興味のない人間をダンス好きにする必要がある。そのためにはダンス以外の理由で来てもらわないといけない。別の目的でやってきた人間をダンス好きにしてリピーターに出来るかどうか。そこはお前たちの腕次第だ」
「……わかった」
「でも、これだけは言っておくわ。ファンを増やすためにダンスに興味のない人を呼ぼうとして、ダンス以外の要素の方が強くなってしまっては本末転倒。主役はあくまでダンス。
「それはたしかに」
なつみも
「わかっている。その点はこちらも気をつけるし、お前たちを無視して勝手に進めたりはしない。きちんと事前に相談する」
「いいわ。信じましょう」
「納得してもらえたならなによりだ。では、今後の練習にかんしてはふぁいからりーふと相談して進めてくれ」
「うん」
「ええ」
そして、残された日々はあっという間に過ぎ去り、公演の日がやってきた。
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