第四話 空の星 海の星(上)
ステージ1 星をめざして
そして、いま、そのステージの上で五人の少女たちが唄い、踊っている。
エース
例外が約一名。
「またお前か⁉ やる気あるのか⁉」
ステージ上でまたもすっ転んだ
「す、すみません……!」
「……あいつは、本当にかわらんな」
練習風景を見守っている
横に立つ妹のさくらも思わずうなずく。
「本当。毎日、あれだけ練習しているのにどうして上達しないの?」
「頭が悪いのよ」
無慈悲なまでにそう言ってのけたのは
「頭が悪いって言うことはないと思いますけど。学校の成績は普通だし」
さくらが反論した。
「勉強する頭じゃなくて、アイドルとしての頭が悪いと言ってるの。いま、自分は、何を、どうするべきか。それを理解する能力が低いからいくら練習しても上達しないのよ。おまけに、勘も悪いし、運動神経も鈍いときているかよけいにね」
「そんなお荷物をなんだってユニット入りさせたんだ? しかも、キャプテンに任命するとは」と、
「他に使い道がなかったのよ」
それが、
「
「そこまでして
「金のためだけに芸能プロの社長をやってるわけじゃないわ。夢を追う子供たちを応援したい。夢を叶えさせてあげたい。そう思っている。そのためには、才能のない子こそサポートしてあげなくちゃ。あなただってそう思うからこそ
「まあな」
と、
「人間の才能は偉大だ。人を感動させ、人間という存在のすごさ、すばらしさを知らしめる。だが、そんな才能をもっているのはほんの一握り。ほとんどの人間には才能も特徴もない。となれば、才能のない人間にもスターになれる道がなければ人生、さびしすぎる。道はある。希望はある。そう証明し、子供に伝えるのがおとなの役目ってものだからな」
「まだ二四歳の若造のくせに、ずいぶんとおとなぶったことを言うものね」
「おれは、先人たちの肩の上に立っているんでね」
ステージ上ではレッスンがつづいている。
舞台狭しと躍動する
ダンスのキレも、リズム感も、他のメンバーとは一線を画している。その分、他メンバーとの差が開いてしまってひとりだけ浮いているのだが。
歌となると今度は
そもそも、
トークとなると
そして、
歌も踊りも平凡以下。
立ち位置はまちがえる、滑る、コケる、倒れる、トークは忘れる……。
端から見ても他メンバーの足を引っ張っているとしか思えない。
その
「……いまどき、あそこまで叱りつけていいの?」
手こそあげないもののあれは立派に精神的暴力なのではないか。
そう思うさくらに対し、
「時代は関係ないわ。若い子は自分を限界まで追い込んだことがないから実際のところ、自分にどれだけのことができるかを知らない。限界まで力を引き出すためには厳しくする必要があるのよ」
「そういうものなの?」
さくらは
「さて。おれは体育会系とは縁がないからな。なんとも言えない。むしろ、お前の方がくわしいだろう。中学のときは陸上部だったんだからな」
「でも、部そのものがそんなに真剣なわけじゃなかったから」
「そういうものなのよ」
「あの講師だって怒鳴ってばかりでいやな奴に見えるでしょうけど、自分に怒鳴られてつらい思いをしながらアイドル目指して頑張っている子たちを、本当に尊敬しているんだから」
「そう言うものか」と、
「教え子に対する尊敬なしに講師なんて務まらないわよ」
怒鳴られ、
それでも、
――どうして、あそこまでやるんだろう?
さくらはそう思った。
――あたしならきっと、とっくにやめている。だって、あたしにはあそこまで
いままで本気でなにかに打ち込んだことのないさくらにはとうていわからないことだった。
――あたしにもなにか本気で打ち込めることがあればわかるのかな?
さくらはいくらかのさびしさとともにそう思った。
「……しかし、よくぞここまで能力差のあるメンバーを組ませたものだな。なにを考えていたんだ?」
「挑戦よ」
「挑戦?」
「そう。挑戦。いまどきのアイドルグループを見て。売れ筋ばっかりそろえているせいで、みんな、似たような顔、似たような雰囲気。よほどくわしいマニア以外見分けなんて付きはしない。そんな、決まり切ったタイプの子しかアイドルになれないとしたら、他のタイプに生まれついた子はどうすればいいの? あきらめるしかないの? そんなの理不尽でしょう。タイプごとにそれぞれの魅力というものがあるんだから。
だから、あえて売れ筋以外をまとめたのよ。どんな子にもアイドルになれるという希望をもってもらうためにね」
「なるほど。やり手と言われるわけだ」
レッスンが終わった。
ふぁいからりーふの五人が『やっと解放された』とばかりに大きく息をつく。
それぞれにステージを降りてくる。
「あれ~、兄貴じゃん。来てたんだ」
「あ、兄貴さん。こんにちは」と、
「なになに~? 彼女いない歴=年齢のクソ雑魚男がアイドルの生レオタード姿を見て欲求不満解消にきたわけ?」
ニマニマと、いかにもな笑みを浮かべながら平気でそんなことを言うあたりが『メスガキ』呼ばわりされる
「失礼でしょ!」
「
さくらと
さくらは
ふたりの言葉に答えたのは他ならぬ
「いいさ。彼女がいた試しがないのも、お前たちを見に来たのも事実だからな」
「あれあれ~。いつになく素直じゃん。とうとうあたしに愛の告白する気になった?」
と、
「だから、なんでそこでくっついてみせるのよ⁉」
さくらが見えない角を飛び出させて叫んだ。
現役JK、それもアイドルの生レオタード姿。
それだけでも充分すぎるほどに刺激的。加えて厳しいレッスンの直後と言うことでたっぷりと汗をかいている。透明な汗が流れ、上気した肌。汗に含まれるフェロモンの匂いが立ちこめる。
そんな状況で密着されるのだ。
普通の男ならひとたまりもない。暴走して襲ってしまうか、とち狂って逃げ出すかのどちらかだろう。
しかし、
「ある意味、その通りだな。まだ一五やそこらで親元を離れてアイドルとして活動し、毎日まいにち厳しいレッスンをこなす。おれが一五の頃からは想像も付かない。よくそこまで自分を律せるものだと思う。本当に尊敬するよ」
その言葉に――。
思わぬカウンター攻撃に、さすがの
――兄さん。こう言うところなのよね。
さくらがこっそり、溜め息をついた。
少年時代に父親から言われた一言がきっかけで『理解し合おうとしなければ決して理解し合うことは出来ない』という生涯の教訓を得た。そのため、思いはきちんと言葉にして伝えるよう心がけている。
それは素晴らしいことにはちがいない。しかし、その思いを徹底するばかりにとんだ危険人物に育ってしまったようである。
「さあ、いつまでも無駄話してないで。体を冷やさないうちにシャワーを浴びて休みなさい。体調管理も出来ないようではプロ失格よ」
「はあ~い」
社長である
いかにもやんちゃな子供のごとく返事をしてみせる
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