第17話 武器とマラソン

 蝦蟇噴水の広場から西へ。


 建物の間を縫うように進み、少し開けた場所に出たところでお目当てのターゲットを見つけた。


(いたな…)


 両手で握った巨大な斧を一心不乱に地面に叩きつけているソイツは、ボスではないもの高いHPとそれに見合った生命力を持つ強モブと呼ばれる部類の敵だ。


 コイツはプレイヤーたちの間でデカ斧鼠先生という愛称で親しまれており、恵まれた体格故の怯みにくさを生かし武技の乱れ斬りを連発してくる厄介な相手だ。


 数多くの勇者たちがデカ斧鼠先生のスーパーアーマーを前に、成す術なく切り刻まれていき。


 プレイヤーはここで敵を怯ませるために必要なパラメータ「崩し」と、崩しに+の補正が掛かる「溜め攻撃」や「ジャンプ攻撃」そして「武技」の重要性を学ぶのだ。


「ウォッ!! ウォォォォッ!! 」


(出来ればここで、アイツが持っている大斧を確保しておきたい…)


 デカ斧鼠先生が低確率でドロップする武器「布巻きの大斧」は、俺が今持っている白鱗岩シリーズと違い筋力の値によって高いステータス補正を受けれる。


 正確な数値までは覚えていないが無強化の状態で比べても火力の差はかなり大きかった筈だ。


(問題はドロップ率の低さだな…)


 ゲームが現実となった今、敵を倒したらそのまま斧を拾ってしまえばいいだろうと思うかもしれないがそう簡単にはいかないのだ。


 壊嵐霧に呑まれた魔法障壁のこちら側は、人が怪物へと変化しただけではなく世界そのものも捻じ曲がってしまっている。


 こちら側では倒した敵の死体がそのまま残る方が珍しく、たいていは捻じれちまった世界の歪に飲み込まれ消えてしまうのだ。


(だが…この世界の捻じれを逆に利用すればドロップ目的の”マラソン”が出来る)


 捻じれた世界というのはつまり、プレイヤーが何度も同じ敵と戦えたりマルチプレイをすることで既に倒したボス敵と再戦出来たりすることの理由付け…つまりはシステムを導入するためのフレイバーテキストであり。


 意訳すると、勇者が勇命結晶柱で休んだタイミングで世界が捻じれるので今まで倒した雑魚敵が復活しますといった感じである。


 ちなみに他のプレイヤーや一部NPCの協力者となることで倒したはずのボスと再戦できる理由も世界の捻じれによるものだと公式ガイドブックで説明されおり。


 このことから。


 例え俺が全てのボスを今から一人で倒していったとしても、主人公である勇者側の世界にはなんの影響もないのではないかと推測している。


(まあ…これから、ボスを倒していくにしても様子見するにしても。 火力不足を何とかしない事には…な)


「グォッ! グォッ!! 」


(まともな武器を確保するため、死んでもらうぞ。 先生! )


 こうして、布巻きの大斧を求める俺のデカ斧鼠先生マラソンが幕を開けた。

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