第15話 約束
「ひぐっ…えっぐ…」
「…落ち着いたか? 」
俺の足にしがみついたまま動かなくなってしまったミーネの話を要約すると。
目が覚めた時に俺の姿が見当たらなかったため、また一人ぼっちになってしまったのだと思い泣きながら辺りを探していたらしい。
「さっきも話したが、俺は二階の掃除をしていただけだ。 いきなり、何も言わずにいなくなったりはしないさ」
「うぅ…でも…。 おじさん…出ていっちゃう…もん。 そう…でしょ? 」
「まあ…そうだな。 この先も旅を続けなくてはいけないし…ずっとここに居るわけにはいかんな」
「やだよぉ…やだっ…! アタチと一緒にいてっ…アタチ、いい子にする…からっ」
「それは…」
「ダメ…なのっ? アタチが…アタチがわるい子だから…? 」
「いや、そうじゃない。 そうじゃないが…まず、そうだな。 先に、おじさんが何者で…どうしてここにやって来たのか話しておこう」
「おじさんのお話し…? 」
「そうだ、聞いてくれるか? 」
「うん…うんっ…! 聞きたいっ」
涙を拭い、大きく頷いてみせたミーネを椅子に座らせ。
俺は勇者のことやその役割、今世界で何が起きているのかミーネにも分かるように出来るだけ言葉を選びながら話していった。
「……とまあ、そういうわけで。 俺たち勇者は壊嵐霧…あの黒い霧に呑まれた国に赴いて生存者を見つけ助け出さなきゃならないんだ」
「じゃあ…じゃあ…。 おじさんはお姫さまを助けにきた勇者さまなの…? 」
「ああ、いや…。 まあ…姫も…勿論。 無事でいるなら、助け出すつもりだ」
(勇者といっても…ミーネが想像しているであろう、お伽噺に出てくる奴とは違うんだが…)
ここで俺たち勇者も怪物とそう変わらぬという真実を告げたところで、少女の夢を壊すだけなのでやめておこう。
「とにかく、だ。 俺はまだまだ旅を続け、生存者を見つけなくてはならない」
「……」
「そんな暗い顔をするな。 この街をもう少し調べてみてからになるが、お前さんは出来るだけ早くここよりも安全な場所…王喚びの神殿と呼ばれるデカイ拠点に連れて行ってやるから」
「でも…アタチ…ここに居たい」
「なっ、そりゃまた…」
どうしてだ、と言おうとして。
すぐにミーネの視線の先にある”モノ”に気付いた。
(そうか…あの勇命結晶柱…)
俺が生やしたチェックポイント、勇命結晶柱にはミーネの両親…その命が溶け込んでいる。
「……分かった」
「えっ…? 」
「お前さんをここから連れ出すときは、脱出の記念にあの綺麗なクリスタルを持って行っていいぞ。 その時になったら、俺が持ち運べるようにしておこう」
「どうして…」
「む? なんだ? あのクリスタルが気になっていたんじゃないのか? 宝石みたいで綺麗なものだし、お前さんが気になる気持ちも分かるぞ」
ゲームではない、この現実の世界において。
俺が倒した化け鼠の正体…それがミーネの両親であると知っているのはおかしなことだ。
故に、この時点で俺がミーネに掛けてやれる言葉はこれくらいしか見つからなかった。
「どうだ、飯にも寝床にも困らない安全な場所にいけるばかりか。 今ならなんと綺麗な石までついてくるんだ。 悪い話じゃないだろう? 」
「うん…」
「なら、決まりだな。 おじさんが戻ってくるまで…ここでいい子に――
「ミーネ…だよ」
「ん…? 」
「アタチ、おまえさんじゃないよ。 ミーネっておなまえ、ある…よ」
「…っと、そうか。 そういえば…そうだったな。 まず、何より先に自己紹介からはじめるべきだった」
ミーネの言葉に、ハッと気づかされる。
「俺はソルドー。 岩竜人族のソルドーだ」
「ソルドー…おじさん。 アタチは、栗ねずみ人のミーネ、だよ」
「ミーネか、いい名前だな」
「うん…」
「それじゃあミーネ、俺がここに戻るまでいい子にしていられるか? 」
「すぐに帰ってくる…? 」
「出来るだけ早く戻るさ」
「なら…アタチがんばる…」
「えらいぞ」
「あっ…」
寂しさや恐怖を押し殺し、頑張ると呟くミーネの頭を思わず撫でてしまった。
「悪い、嫌だったか…? 」
「ううん…ちがうっ。 ちがうよ…。 アタチ…ナデナデ…すき…だったからっ」
「そうか…」
「アタチ…っ…ちゃんと、待ってる…だから…っ…だから…ちゃんと…帰ってきて、ね」
「ああ、必ず戻る」
「やくそく、だよっ」
「約束だ」
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