第12話 チェックポイント
泣きじゃくるミーネを抱え俺は広場に立ち並ぶ建物の一つ、蝦蟇噴水の廃墟・旧食堂に足を運んだ。
(たしかこの辺りだった筈だが…)
念のため建付けの悪い扉を閉めると、俺はあるモノを探し薄暗い室内を歩き回った。
「ぁ…」
(ここか)
目的地に着いた途端それを知らせるように俺の胸元が淡く光った。
俺が辺りを散策する間、腕の中で大人しくしていたミーナもその明かりに気付いたのか小さく反応を示している。
胴装備である金属製の鎧を貫通して放たれるこの光源は、俺たち勇者の魂と紐づいた力の根源。
勇命結晶と呼ばれる魔石の一つだ。
魔石といっても自然界にある天然のそれとは違い、これは人工的に作られたものでどちらかというと呪物に近いかもしれない。
勇者に与えられたこの勇命結晶には様々な効力が秘められているが、その代表的な力には死にゲーを自然に成立させる上では欠かせない”蘇りの力”や、”生命を貪り己の糧とする力”…つまりはレベルアップのための力などがある。
勇者はこの魔石のおかげで殺した怪物から力を得られるだけでなく、吸収した生命力を他者に渡すことも出来るためゲーム内では生命力を通貨として利用していた。
また、アインタロス大陸全土に広がる王脈と呼ばれる力の源流に勇命結晶を用いて接続することで、勇命結晶柱と呼ばれる結晶の柱を生やすことが出来これが勇者たちの復活地点…所謂チェックポイントとなる。
勇命結晶柱が生えた場所の周辺には怪物が寄り付かなくなるため、救助した生存者たちの仮りの拠点としても使うことが出来るのだ。
王脈への接続はどこでも出来るわけではないのだが、俺はロードシリーズのチェックポイントを全て把握している為。
この旧食堂に行けば勇命結晶が輝き、チェックポイントが作れるということが最初から分かっていた。
(そして…)
厄介なことに、大陸の生命線であるこの王脈と王たちの持つ王命結晶は紐づいており、そのことが俺たち勇者の”人を辞めてまで”王命結晶を確保しなければならない理由の一つになっているのだ。
(まあ俺たち勇者も実際、あらゆる所が
「……」
「お…? と、このままじゃ眩しいよな。 ちょっと待ってろ」
腕に抱いているミーネは顔が丁度俺の胸当たりにくるため、今の状態だと勇命結晶の光が嫌でも目に入ってしまう。
「ほら、立てるか」
ミーネを地面にそっと降ろし、そう尋ねると彼女はコクリと頷いて見せた。
「ぁぅ……」
(ミーネからすれば俺は得体のしれない野郎なわけだし…緊張するわな)
「そら、少し離れて地面を見ていな。 今から凄い事が起きるぞ」
「ぇ……? 」
俺はミーネを下がらせると、地面に手を当て王脈の位置に当たりをつける。
(ここいらだな)
「いくぜ」
ピキ。
メキッ。
メキメキメキ。
「わぁ……! 」
地面を突き破り、グングンと伸びていく勇命結晶柱。
様々な色が入り交じり見る角度によってキラキラと異なる顔を見せる結晶の輝きを目にし、ミーネの表情も少しだけ明るくなった。
「この結晶が生えている場所の近くにはな、怖い怪物も寄ってこないんだ」
「……」
「まあ簡単にいうと、この結晶がお前さんを守ってくれるってわけだ」
「アタチを…」
「そして、この結晶は俺が今まで倒してきた怪物の命で出来ている」
「…!! それじゃあ…」
「ああ。 さっき”俺が殺した”二体の怪物も。 今はこうしてお前さんを守ってくれる…綺麗なクリスタルに生まれ変わったんだ」
「………ぅ…ぅぅ…」
「……」
勇命結晶で王脈に接続し、結晶柱を生やすためには一定量の生命力を消費しなくてはならない。
(ミーネ…)
だからといって、彼女の父親と母親がこの結晶柱に生まれ変わったというのは少し無理やり過ぎるかもしれないが、全てが嘘というわけではないのだ。
「お父さん……お母ぁさん……うぁ…ぅぅ…ぁぁ…ぁ…! 」
結晶柱に抱き着き、涙を流すミーネ。
俺は彼女が泣き疲れて眠りに落ちるまで、ただ傍にいて見守ってやることしか出来なかった。
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