第9話 炎と叫び
瓶の割れる音を聞きつけたゴネスは凄まじい勢いで扉が開かれた酒蔵へと突進していき、その勢いのまま積まれている酒樽の山に激突した。
(いいぞ! )
ひしゃげだ樽の中から噴き出す酒を全身に浴びたゴネス。
俺は奴の背後に回り込むと、竜人族独自の器官である喉の竜気袋を大きく膨らませた。
(燃えちまいな!! )
火竜人族ではない俺は派手な炎こそ吐けないが、それでもアルコールに塗れた相手に火をつける程度のことは出来る。
「グァァァァッ!!! 」
今しがた放ったのは、火弾吐きと呼ばれる炎系ブレスの中では最弱の部類だが。
ゴネスを火元にそこら中に転がった酒樽にも引火し、酒蔵の中は瞬く間に火の海と化した。
(こういう時アイテムに頼らなくていいのは竜人族のお得なポイントだよな)
ゲームを開始してすぐのキャラクター作成時には、竜人族は選べないので一周目の攻略時点でゴネスをここで燃やすには火属性攻撃が可能な投擲アイテムかスペルの入手が必要になってくる。
(イベントをこなせば、初期のキャラクリでは選べなかった種族にもなれるが……子鼠王国にいる時点ではどうやっても竜人族にはなれないからな…)
「ゴガァァァッ!! 」
炎に焼かれ苦しむゴネスを見ながら、俺は竜人族であるソルドーに転生したことを感謝するのだった。
「グ、グオオ…! 」
(そろそろ火が消える頃合いか…)
ゲームと同じく、しばらく時間が経つとあれだけ激しく燃えていた炎は不自然なほど綺麗に消え去り。
その燃跡には全身が焼き爛れ、肩で息をしているゴネスだけが残された。
宙箱から取り出した三本目の空き瓶を奴の頭部に投げつけると。
ガクンとその巨体が傾き、ゴネスは頭を地面につけた状態で動きを止めた。
(トドメを刺してやろう)
ロードシリーズにおいてスタミナの管理が重要なのは敵も同じだ。
最初の大暴れで大きく消費したスタミナを、あの火の海では回復させることが出来ず。
その結果ゴネスは火が消える頃に全てのスタミナを消費し切っており、最後に命中した空き瓶が引き鉄となり大ダウンを取られてしまったのだ。
「じゃあな」
振りかぶった大斧が、奴の頭を頭蓋ごと叩き潰した。
噴き出すゴネスの血潮。
祭具である斧の白い刃が赤く染まる。
「だ、誰か…誰かぁぁ!! 」
「っ…! 」
(今の声は…! )
ゴネスが残した命の残滓。
赤黒い結晶の欠片を宙箱に詰め、俺は叫び声がする広場へと急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。