第8話 無糖の二日目

 2日目、俺は地元の中学が一緒だった仲間を招いていた。昨日一緒にまわったメンバーも今日は別の人とまわるようで、後夜祭の時にまた落ちあう事にしていた。俺は昨日買ったペンダントはつけてこなかった。


 昨日と同じように色んなアトラクションをまわりつつ、新しい高校の部活がどうだとか、彼女が出来たとかの話をひっきりなしにした。そして昼過ぎごろ、俺たちは執事喫茶に向かった。長い列に並んでようやく教室に入ると、執事の格好をした藤原が出迎える。


「おかえりなさいませ、ご主人様」


「4人、よろしく」


「こちらへどうぞ」


 俺たちは藤原に誘導されてテーブルについた。


「なりきってんなぁ。うみはシフト昨日だったんだよな」


「ああ。俺はもう終わった」


「ちょっと今執事の格好してみろよ」


「衣装は下が制服なんだ。 今私服だし無理だぜ」


「にしても、女子も執事なんだなー。ミニスカメイド期待したってのに」


「はぁ!?メイドはロンスカ一択だろっ」


 当たり前だが、藤原演じる執事は様になっていた。この一週間、執事が主人公の探偵ドラマを何周も観てきたのだそうだ。喫茶を出てから、ひとりが言った。


「あのちっちぇー執事可愛かったな」


「分かる。近くいたら好きになるよなあれは」


「お前らロリコンかよ〜」


「「ちっげぇし!」」


 それから1時間ほどで、俺は友人たちとわかれた。文化祭終了のアナウンスが響き、各々は教室に戻って後片付けをする。俺はまた藤原と協力して、壁や床の段ボールをひっぺがした。


「藤原は、後夜祭行かないんだな」


「うん、抽選外れて。橋下楽しんでね」


「ひとりで帰るのか?」


「いつもそうだし」


「そうか。気をつけてな」


 藤原ともわかれた後、俺はまたサッカー部の6人で集まった。空いていた教室に入り、机をふたつほどくっつけてそこに持っていたお菓子やジュースを皆んなで出した。射的やクイズなどの景品だ。それぞれが椅子を持ってきて机を囲みお菓子を食べ始めた。感染対策?知ったこっちゃない。


「AirDropはよ〜。写真写真」


「Android差別だー。私iPhoneだけど」


「全員iPhoneじゃねーかっ」


「おーいこっちこっち」


 俺はスマホをインカメにして皆んなの写真を撮り、『後夜祭まだかー』と6人をメンションしてストーリーにあげた。そんな風に時間までの暇を潰し、俺たちは体育館へ向かった。観衆がステージを囲んで床に座った。俺の横には当然のように寺坂が座る。


 ファッションショーにライブ、マジック、カラオケ、ダンス。クイズや漫才もあった。その後俺たちはまたカラオケに行き、いつの間にか俺は寺坂と2人で家路についていた。他愛もない話をしていた中、突然寺坂が立ち止まる。


「あの...アクア君!」


 俺は立ち止まり、寺坂の方を振り返った。暗かったためか、俺の口角の下がったのに対して寺坂は反応しなかった。


「ずっと......好きだったの。 もしアクア君が良かったらさ、その、私と付き合っ」


「ごめん、寺坂とは付き合えない」


「えっ」


 少し食い気味に断られて、寺坂は戸惑ったようだった。しかし、程なくしてまた口を開く。


「私、アクア君に好きになってもらえるように頑張るからさ。 ほら、お試し的な感じで」


「いや、俺たちは友達でいよう」


「な、なんで......。好きな人とか、いるの?」


 少々気が強いのは知っていたが、ここまで折れないとは思わなかった。


「もしかしてさ、藤原さんが......好きなの?」


「あのさ、いきなりそこまで立ち入った話するか?普通」


「い...いきなりって、わたし今アクア君に告白したんだよ!?」


「アクア君って呼ぶのも、やめてくれ。この事は誰にも言わないし、無かったことにするから。....じゃあまた。」


 俺はそう言って、絶句する寺坂に背を向けた。正直、自分でもあそこまでそっけない態度になるとは思っていなかった。俺は早足で近くのコンビニに入り、安い缶コーヒーを買い、涼しい夜の中でそれをひと息に飲む。随分と後味の悪い、不味いコーヒーだった。

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