第4話 混沌なトランヴェル

ベルチカはトランヴェルに能力の条件を話していく。


「条件一つ目は<魔女にしたい人間が魔女になることを同意する>ということだ!」


「もし魔女化させたい人間が魔女になることを同意しなければ契約は成立せず、魔女にすることはできない…」


(……それは……なかなか難しい条件じゃないか……?)


「そう?」


(この世界ではほとんどの人間が魔女を嫌っている……人間に魔女になるよう説得することは不可能だ)


「そこを何とか説得するのが君の力の見せ所だよー」


(そもそも私は今、魔女のフクロウだ……人と会話ができない……どう説得しろというのだ!?)


「大丈夫大丈夫!それも考慮した上で条件を与えているから!」


「その辺は後で説明付け加えるから黙って聞いててね」


ベルチカは話を続ける……。


「条件二つ目は<人間を魔女に変貌できるのは10人が限度である>ということ」


「何人でも魔女化させることはできない。よって魔女化させる人間は選ばなければならない!」


(……)


「そして最後の条件三つ目は精神状態の時にしかその能力を発揮できない>というもの」


(……精神状態?なんだそれは……)


「えーとね……精神状態とは自分の体から精神が離脱している状態のことを言うのね」


「君は1日30分間だけ精神を体から離脱させることができるの!」


(それって……幽体離脱か?)


「そう!それに近い!!」


「自分の意識は精神に宿り、体は脱け殻となるよ!」

「精神の状態になれば、体はその場で残っているものの、自由にどこでも行き来することができる」

「ただし30分の制約があるため、時間が過ぎれば君の精神は瞬時に体に戻ってしまう」

「また精神状態になれるのは一日一回だけ!これもタイミングを見極めて慎重に行わなければならない!」

「さらに精神状態になった君の姿は普通の人間や魔物には見えない」「恐らく魔女ですら見えないはずだ!」


(……)


「あとね…さっきの質問をここで答えるけど、君は精神状態の時のみ人間と会話することができる」

「要は精神状態の時に魔女化する対象と接して、魔女になってくれるように説得するってわけ」


(もう能力とやらが多すぎて全部頭に入らんぞ!?)


「いいのいいの。今はざっくりわかってくれるだけでいいの」

「これから少しずつ理解していけばいいよ。嫌でもこれから君は何度も精神状態になるだろうからね」


(……結局お前は何者なんだ?)

(なぜ私にこんな能力を付与する?)


「それはまだ秘密だよー」

「でも…もし君がこの先生き残れたら、いつかきっと僕の正体がわかる時が来るよ!」


<フィィィィィン>


(ぐ…)


頭痛がさらに激しさを増す…。


「さあゲームは面白くなってきたよ!君が魔女を倒したいというのなら、その力を有効に使って勝って見せてよ!」


「じゃ!頑張ってね!」


(おい待て!聞きたいことは山ほど…)


<フィイイイイイン>


(はっ!?)


「トランヴェル…大丈夫?体調悪いの?」


私の意識は魔女マベルのもとへ戻ってきた…。


「そんなに震えて…どうしたのよ」


魔女マベルは私の頭を撫でる。


「よしよし…」


魔女に抱擁されながら私は困惑していた…。


(…なんだったんだ今のは…)


いろいろわからないことだらけで何も整理がついていない…。

先程の幻影で私は瞬時に知識と技量を身につけた…。

いや身に付けさせられたと言ったほうが正しい…。

"人間を魔女にする技術"をインストールさせられたのだ…。


(一体これは……どうして私はこんな技術を身に着けることができるんだ?)


まるで機械のように何かインストールしたような感覚…。私は何者だ?

記憶が曖昧過ぎて自分が本当に何者かわからない…。

私は思考を巡らせた…。私は何者なのか…先程の幻影は何を意味しているのか…

…魔女とは何なのか…色々わからないことだらけだ…。


(しかし…今すべきことはこれじゃない…この惨状を何とかする方が優先だ!)

(そうこれ以上人間が苦しむ様を見たくない…私がすべきことは…)


<この村を救うこと…!>


ベルチカとか言う奴に与えられたこの能力………。

奴が言うように人間を魔女にすれば、魔物たちを倒すことができるかもしれない………。

いくつか条件があったが………えっと………。


トランヴェルはベルチカの説明を思い返す。

(まずは精神状態になる。それから人間に魔女になってもらえるように説得する。そして同意を得られれば、その人を魔女にする………こんな手順だったかな?………確か)

(ええい!こんな思い返してる暇は無い!とりあえず精神状態になろう!!)


私は力を振り絞って己の体から精神を離脱させた。

その離脱した精神の形はフクロウそのものであり、金色に輝いていた。

マベルがひたすら抜け殻となった私の体に話しかけているため、

魔女マベルにも"精神状態"の私の姿は見えていないようだ。


(………どうやらうまく離脱できたみたいだな)

(本当に精神が体から出られた………なんなんだこれは………どうしてこんなことができるんだ………?)

(まあいい。悩むのは後だ。えっと次は………とりあえず村へいけばいいのか)

(精神状態になれるのは確か30分だけ…時間内に魔女になってくれる人を探さないといけない………)

(とりあえず………行くぞ!!)


私は金色の羽を広げて、一刻も早くペルー村へ飛び立つ!

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