第6話 思惑

 祖父に言われた通り、僕は徹底的に耶永を避けた。


 無視をしたと非難されるのは面倒なので、耶永だけではなく、女子とは話さないよ、という姿勢で何とか乗り越えた。


 ただ、このままでは終わりそうにない、ということは分かる。


 日に日に揉めごとは増えて行き、その中心にいたのは、隣のクラスの女生徒たちだった。そして彼女たちの腕には、耶永からもらったブレスレットがある。


 女生徒たちは大人数で揉めて、時には手を出すこともあったので、その度に学年集会が行われたり、クラスで話し合いをさせられる。段々と、関係のない生徒たちまでイライラするようになり、学校の雰囲気は悪くなる一方だった。


 これじゃまるで、関係のない僕らが被害者だ。


 ——どうにかしないと。


 そう思っても、解決する手立てを見つけることはできなかった。




 肌寒い季節になった頃。登校中に、僕は酷い頭痛に見舞みまわれた。


 学校が近くなる程、こめかみの辺りの痛みが増していく。まるで上から何かに押し潰されているように、身体が重い。


「もしかして守護霊が、行くな、って言ってるのかな……」


 行かなくてもいいのなら、僕だって行きたくはない。


 休みながら進んでいたので、いつの間にか通学路には、誰もいなくなっていた。


 やっとの思いで学校に着くと——目の前に、真っ黒な高級車が止まった。車から降りてきたのは耶永だ。


 そして、今までのことが何もなかったかのように、微笑んだ。


「おはよう、御門くん。どうしたの? 変な顔をして」


 彼女と話をしてはいけない。そう思ったが、最近の学校の嫌な雰囲気が耶永のせいだと分かっていた僕は、妙に腹が立ち、我慢ができなかった。


「その嘘くさい笑顔、もうやめたら? 別に楽しいなんて思ってないだろ?」


「そんなことないよ、楽しいよ?」


「何が? 最近喧嘩してるのって、お前の取り巻きばかりじゃないか。あのブレスレットのせいだろ?」


「やっぱり視えてるんだね。あれは、キミみたいな人には効きやすいはずなのに、どうして効かなかったの? ブレスレットを弾いたのは、守護霊さん?」


「関係ないだろ。何がしたいんだよ!」


「別に私は、みんなと一緒に遊んでるだけだよ」


「みんなを『使って』遊んでるだけだろ?」


 段々と声が大きくなる僕を見て、耶永は楽しそうに笑う。


「本当に面白いね、御門くんは。何をムキになってるの? こんなの、ただの遊びじゃない。視えてるなら、楽しめば?」


「くだらないし、迷惑なんだよ!」


「御門くんが、私と仲良くしようとしないからだよ。仲良くすれば、楽しいのに。そうだ、良いことを教えてあげる。今日はねぇ、とっても楽しいことが起こるんだよ」


「はぁ? まだなんかするつもり?」


「まだ何もしてないよ。やっと準備ができたんだから。私が作ったブレスレットは、全部で42本あってね、操りやすそうな子を選んで渡していったの。今日でやっと、全部配り終わるんだ」


 耶永は両手を広げて、くるりと回る。


「そんなのに、なんの意味があるの?」


「だから、ただみんなで遊んでるだけだよ。——あ、早く行かないと遅刻するよ?」


 本当に、ただ遊んでいるだけ。そんな感覚で人を呪ったりできるものなのだろうか。


 耶永は、何事もなかったかのように、学校へ入って行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る